第18話 酒場での宴会 -浴びるほど飲んで下さいね-

「いいですよ。よろしくお願いしますね」


「軽っ!誘っといて言うのもなんだけど、そんな簡単にOK出していいの?」


 ちょっとした冗談交じりで誘ったつもりだった亮二の勧誘に対して、余りにも気楽に了承の返事が返ってきたため亮二の方が混乱してしまった。


「大丈夫ですよ。私達のほうがリョージさんを誘うつもりだったんで。ねぇ、マルコ?」


「あぁ、ちょうど戦士が1人欠けたところだからな。リョージが入ってくれると助かる」


「え?ひょっとして2人ってパーティー組んでるの?単なる知り合いだけじゃなくて?マルコは個人で【B】ランクなんだからパーティーランクも【B】でしょ?俺のランクじゃ釣り合わないでしょ?ひょっとしてその人死んじゃったとか?」


「あぁ、そんな感じだ。冒険に出れなくなったんでな。無理矢理に引退させたんだよ」


 歯切れの悪い話し方に「聞いちゃまずい話なのかな?」と呟いた亮二は話を変えてみることにした。


「せっかく誘ってくれたけど、さっきはノリで誘っただけなんだ。やっぱり最初はソロで頑張ってみるよ。マルコ達のパーティーは【B】なんでしょ?【H】ランクの俺が混じってたら他からのやっかみも出るかもしれないからね。個人で【C】ランクまで上げるから、その時に改めて勧誘してよ」


「分かったよ。俺達は今は開店休業中で、基本的には副業の門番と受付で働いているから【C】ランクに上がらなくても、いけると思った時点で声を掛けてくれたらいいぞ。そんなに遠い未来じゃなく声が掛かるとは思ってるけどな」


 マルコはそう言うと気を取り直して「今度こそ酒場に行くぞ!」と亮二の肩に手を回して酒場に強引に連れて行くのだった。


□◇□◇□◇


 酒場は夕方を回っていることもあり、かなりの数の冒険者が溢れかえっていた。酒場に入った時から亮二は不躾な視線や声を感じ取っていた。主に値踏みや好奇心旺盛な視線、その他にはカレナリエンと親しくしていた亮二に対してのやっかみの声だった。


 そんな視線や声が集まる中でマルコが酒場のカウンター辺りで周りを見回すと大きな声で冒険者達に向かって話し始めた。


「よーし!皆だいたい集まってるな。さっき検査場に居た奴は知っていると思うが、今日から“戦士”として冒険者登録したリョージだ。11才の年齢とは思えない戦士としての腕前と魔法使いの潜在能力を持っているバケモンみたいなやつだ。中身はかなりオッサンな感じで見た目とギャップがあるが仲良くやってくれ。それと、リョージは当面はソロで活動するそうだが【C】ランクになったら俺たちと組む事になってるから、お前たちは手を出すなよ!」


 マルコの宣言を静かに聞いていた冒険者達から「ふざけんな!」「俺達も目を付けてたんだぞ!」「なんで、マルコばっかり人に恵まれてるんだよ!」「カレナリエンちゃんとのパーティーを解消しろ!」「マルコもげろ!!」と大ブーイングがそこら中から起こった。


 亮二は冒険者達から意外と評価されている事に気を良くすると、マルコの方を見てニヤッと笑い椅子の上に立ち上がって周りを見渡しながら叫んだ。


「皆、有難う!マルコに対して大ブーイングを起こしてくれる程に気に入ってくれて嬉しいよ!中には変な台詞もあったけど気にしない!改めてリョージ・ウチノだ。マルコが言ったように当面はソロ活動で稼がせてもらうつもりだ。ただ、誤解しないで欲しいけどマルコとは元々の知り合いなんだよ。だからパーティーを組むのも俺からお願いしたからマルコを怒るのは勘弁して欲しい!って、事で!ここまで俺のことを評価してくれた皆との縁は大切にしたいから、今日の酒場での飲み食い代は全て俺が持つ!!だから吐くまで飲みやがれ!お前ら!」


 亮二の挨拶を聞いていた冒険者たちは最後の言葉に大歓声を上げるとエールの入った樽ジョッキを掲げながら「リョージ!リョージ!」と叫ぶのだった。


「おい、良かったのかよリョージ。お前なら、ここでの飲み代くらいなら簡単に払えると思うが、間違っても宝石なんて出すなよ。そんな事をしたら明日から、集られるか狙われて街中を歩けなくなるぞ。金銭に関係ないところでは冒険者達にすでに目を付けられているみたいだけどな」


 酒場中から乾杯の声や注文の声が野戦病院のように響き渡る中、冒険者達に視線を彷徨わせると目が合ったそばから「よろしくな!」「臨時でもいいからパーティー組もうぜ!」「カレナリエンは俺の嫁になる予定なんだからな!」などと声がかかるのだった。様々な声をもらいながら亮二はマルコに笑いかけながら話しかけた。


「いいんじゃない?このくらいで気分良くしてるんだったら。毎日はさすがに厳しいけど皆で飲んで騒ぐのは楽しいもんね」


「そんなもんかね?リョージが『いい』ってんなら、俺も気にしないようにするわ。じゃあ、子守はこのくらいにして俺も吐くまで飲んでくるんで後のことは頼むぞ!カレナリエン!」


「程々にしなさいよ!マルコ!」


 渋い顔で注意をするカレナリエンを尻目にマルコは冒険者たちの歓喜の渦に飛び込むと揉みくちゃにされながらエールを飲み始めるのだった。結局、亮二主催による亮二の歓迎会は明け方近くまで続きギルド酒場の歴代最高売上を大幅に更新するのであった。

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