第69話 カルカーノ商店での買取騒動 -作業量には限界がありますね-

「初めまして、リョージ様。本日はよろしくお願いします。“ドリュグルの英雄”であるリョージ様から買い取りが出来るのは担当者冥利に尽きます」


「こちらこそ、よろしくお願いします。で早速なんだけど、買い取って欲しい魔物の数は876匹になんだよ。魔石の取り出しもしていない状態だけど大丈夫かな?」


 亮二から魔物の数を聞いた直後に「はっぴゃくななじゅうろっぴき?」と呟いて買取担当者の顔が笑顔のまま固まって動かなくなった。


「おーい!もしもし?担当者さん、どうしたの?」


 亮二が担当者の前で手を左右に振っても反応がないので肩を叩くとビクッと身体を震わせた後に大きく深呼吸をして笑顔で頭を下げた。


「失礼しました。余りの魔物の数に思わず呆然としていしまいました。討伐された魔物の詳細についてはリョージ様のお手元に有る羊皮紙に書かれているんですよね?ちょっと拝見させてもらっても宜しいでしょうか?」


 亮二からメモを受け取った担当者は冷や汗をハンカチで拭きながら羊皮紙に書かれている内容と口頭で聞いた魔物の数に違いが無いことの確認を行った。


 アイテムボックスに入っている討伐した魔物の数

 ・キノコのお化け×634

 ・緑狼×58

 ・犬人×83

 ・犬人亜種×25

 ・豚人×55

 ・豚人亜種×20

 ・牛人×1

 合計876匹


「あの、リョージ様。こちらに書かれている「犬人亜種」と「豚人亜種」とは一体何でしょうか?聞いたことがないんですが」


「え?そうなの?どうしよう、俺も違いがよく分からない」


 担当者の質問に答えられない亮二はストレージから犬人と豚人の通常と亜種をそれぞれ取り出すと比べてみた。


「パッと見はどちらも一緒ですね」


「そうだね」


 亮二は担当者から犬人と豚人の魔石の場所を聞き出すと、ストレージから“ミスリルの剣”を使って魔石を取り出して比較してみた。


「おぉ、思ったよりも違いが有るんだな。亜種の方が魔石の大きさが二回りも大きいな」


「リョージ様、ひょっとしてその亜種と仰っていたのは特別種なのかも知れませんね」


「特別種?」


 亮二の疑問を浮かべた顔を確認した担当者は説明を始めた。


「ええ、特別種の見た目は通常の犬人と同じですが、力が強くリーダーとしての役割をしており3~5匹の部下に当たる魔物を率いて戦います。今回購入させていただく魔物は牛人が現れた時のものですよね?牛人は組織立って攻めてくると聞いております。“試練の洞窟”で倒された魔物ならば特別種で間違いないでしょう。それにしても特別種とは珍しいものが見れました」


 買取担当者冥利に尽きると言わんばかりに感動している担当者を見て亮二は首を傾げながら質問を行った。


「そんなに珍しいの?」


「そうですね。私は5年ほどカルカーノ商店で買取担当者として働いておりますが、特別種の魔石を見たのは片手に収まるくらいですよ」


 担当者の話を聞いて亮二は今後何かに利用できる可能性を考えて、亜種の魔石は少しだけ買い取ってもらい、残りは手元に残す事に決めカルカーノ商店に買い取ってもらうことにするのだった。


 ◇□◇□◇□


「どの様な感じで…?ん?何ですかこの野戦病院の様な有り様は?」


 亮二がカルカーノ商店を訪ねて3時間ほど経っていたが、誰も報告に来ないのを訝しげに思ったアウレリオが買取作業場所まで赴き目に入って来たのはキノコのお化けがところ狭しに並べられているのと、買取担当者と従業員10名が汗だくになりながらキノコのお化けを解体している状況であった。


「アウレリオ様、丁度いい所に。人手が足りなかったので手伝ってもらっていいでしょうか?」


「手伝うのはいいのですが、この状況は一体何事ですか?」


「リョージ様が討伐された魔物の買い取り作業の途中ですが、それが何か?」


「これ全部ですか?」


「ええ、いや違った。ここにある分・・・・・・は全部リョージ様から買い取った分です。残りは後日にして頂きました」


 アウレリオは質問に対して「何を当たり前のことを?」と言わんばかりの顔で返事をした買取担当者を凝視すると「後日?」と呟いた。


「アウレリオ様はリョージ様から買い取る魔物の数を聞かれてなかったのですか?1日では捌ける数ではありませんよ。さすがは“ドリュグルの英雄”ですね」


「ちなみに支払いはどうなってます?」


「もちろん即金で。と言いたかったのですが、とても現金で払える金額では有りませんので後日に取りに来てもらうことにしました。アウレリオ様のご指示通りに色を付けて査定させてもらっておりますので、お手数ですがその分も含めて現金のご用意をよろしくお願いします」


 買取担当者から金額を聞いて眩暈を起こしそうになったが、現金さえ用意出来ればそれ以上の利益が見込めることを聞かされて安堵したアウレリオだった。


 □◇□◇□◇


「ちなみに、リョージ様はどちらに?」


「リョージ様なら『犬人と豚人に特別種がいるのなら、キノコのお化けにも特別種がいるはずだ!合計で1000匹も狩れば出てくると思うから行ってくる!』と叫ばれて森の方に走って行かれました」


「ってことは、また買い取りする魔物が増えるって事か」


「そうなりますね。現金のご用意をお願いします」


「貴方も頑張ってくださいね。査定を」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る