第70話 【C】ランクへの道程 -意外と大変ですね-

 亮二がドリュグルの街で冒険者として登録してから1週間が経っていた。“試練の洞窟”で討伐した魔物の買い取りが終わった後は特に大きなイベントもなく、亮二はランクアップの為に必要な依頼を順調にこなしていた。ギルドとしてもソロでも【D】ランクの依頼を危なげなく完了し、戦闘に関しては問題ない事を実証している亮二を少しでも早く【C】ランクにアップさせるために優先的に依頼を渡していた。ユーハンからの圧力が掛かっていることもギルドに焦りを与えていた。


 亮二に対してギルドから優先的に依頼が割り振られるがドリュグルの街にいる冒険者から苦情が出ていないのは、亮二が報酬として得た成功報酬を冒険者達に対して食事や飲み物を奢っているのと、それ以外にユーハンが恩賞を渡す時に話していた「ニホン国の貴族」の爵位が子爵であるとの噂がいつの間にか実しやかに流れており“子爵なら仕方がないな”との空気が流れているのだった。セーフィリアの世界で貴族の地位は高く従う事に慣れており、依頼を優先されても怒らなかった冒険者達もカレナリエンとメルタの2人同時に婚約したと発表を行った時には怨嗟や呪詛の声が起こっていたが。


 冒険者達から送られてくる様々な声を気にする事も無く順調に依頼をこなしている亮二だったが、【C】ランクに上がる為の“後進の育成”が最後の関門になっており、こればかりは個人の力ではどうしようもなく戸惑っていた。“後進の育成”をクリアするためには【G】より上の冒険者のランクを1つ上げる必要があったが、適当な人物が居なかったからである。


 ◇□◇□◇□


「どうしたものかな。誰かランクの低い冒険者を推薦できる者はいないのか?」


 居城でユーハンは順調に依頼をこなしているとの報告を亮二から聞いており、学院への入学も間近であり【D】ランクより【C】ランクの方が、箔が付くだろうとの思惑で依頼を優先的に渡すようにギルドに圧力を掛けていた。だが、最後の難関である“後進の育成”を何とかクリアしてもらうためにサポートを行う会議を開いていたが、2時間以上経っても良い案が出てこず何か意見がないかと周りを見渡したが誰からも答えは返ってこなかった。


「ユーハン伯、残念ながらドリュグルの街にいる冒険者でランクの低いものはすでに誰かが育成中です。流石に横取りするわけにもいかず…」


 ユーハンに名指しで発言するように言われた文官は汗を拭いながらしどろもどろに答えるのだった。


「それは分かっている。だから何か良い案が出てこないかと会議をしているのではないか」


 文官の分かりきった現状の発言に若干苛ついた表情で答えて「他に案はないのか?」と再度見渡すとカレナリエンが挙手しているのが見えた。


「リョージ様をランクアップさせるのだったら、冒険者登録したばっかりの人物をランクアップさせていくのはどう?しかもその人物は冒険者ではないけど、リョージ様の事を絶大に信用しているからお願いすれば喜んで引き受けてくれるわ。一から育てていけばランクアップの規定も満たしてるから大丈夫じゃない?」


 会議に呼ばれていたカレナリエンが痺れを切らして発言した「居なければ登録して成長させればいい」との提案に対して目から鱗が落ちたように納得したが、該当する人物に心当たりが無い一同は「そんな都合のいい人物が居るのか?」と疑問に思いながら教えてもらった名前に複雑な表情を浮かべるのだった。


 □◇□◇□◇


 思ったよりも時間が掛かったユーハンの元から帰ってきたカレナリエンが会議の内容を亮二、メルタ、シーヴに伝えた。メルタはカレナリエンの話を最後まで聞くと、特に質問すること無く冒険者として登録するための準備を始めるのだった。余りにもフットワーク軽く動き出したメルタに対して思わず亮二は声を掛けた。


「メルタさん、本当に良いの?いくら俺がサポートすると言っても、冒険者なんだから安全を保証する事は出来ないんだよ?」


「大丈夫ですよ、リョージ様。ご主人様のお役に立てるなら冒険者登録でも何でも大丈夫です。登録する職業は討伐系なら何でもよろしいんでしょう?」


 心配顔の亮二を見たメルタは笑顔で近付くと、おもむろに亮二を抱きしめて耳元で囁いた。


「リョージ様が私の事を全力で守って下さるんですよね?」


「それはもちろん!怪我なんてさせないよ」


「だったら問題無いですよ。しっかりと守ってくださいね。未来の旦那様」


 メルタは顔を若干赤らめながら亮二から離れると、ギルドに向かう準備を始める為に自室に向かうメルタの後ろ姿を見詰めて「絶対に傷一つ付けない」と誓うリョージだった。


 30分ほどで準備が整ったメルタを連れてギルドに向かった亮二達はメルタの冒険者登録を自ら行い、職業を安全なポーターにしようとしたがメルタ達に止められてしまった。


「リョージ様が【C】ランクになる為の“後進の育成”は討伐系の依頼が必須となっています。ポータだと荷物運びしか選べませんし、討伐系の依頼は私自身が魔物を倒す必要があります。リョージ様に手伝ってもらっては討伐数の数が増えませんので」


「そうなんだ。じゃあ、何か安全に討伐が出来る職業を選ぼう!」


 亮二の矛盾した提案に苦笑を浮かべるとメルタは「狩人」を職業として選択するのだった。

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