第68話 カルカーノ商店の発展 -業務改善は楽しいですね-
アウレリオの一日はカルカーノ商店玄関前の掃除から始まる。これは10歳の時にその才能を見込まれた当事の商人に養子として迎い入れられてから変わらず続く習慣の様なものであった。玄関口の掃除が終わる頃に従業員達が店に集まり朝礼が行われる。
朝礼の内容は当日の予定や仕入れチェック、客からの苦情や要望に対してどう対処したのかなど情報共有がメインであり、該当する者に対して指導や注意などが実施される。朝礼自体は任意での参加となっているが、参加すると朝礼手当として銅貨1枚と朝食が振る舞われるためカルカーノ商店に務める従業員の朝礼参加率は病欠を除いて100%だった。
朝礼と朝食が終わった後にカルカーノ商店はオープンするが、玄関口には最近の風物詩となっているオープン前の行列が出来ていた。これは亮二からアドバイスをもらった一環の「先着10名様3割引き」の効果であり、さらに先着品に間に合わなかった来客者20名には次の買い物で利用できるクーポン券を配布していた。こういった試みはドリュグルの街どころか、王都でもなく今まで体験したことのないイベント扱いとして来客数アップにつながっていた。
「今日のお買い得品は何かしら?」
「明日は魔物の肉が銅貨5枚から3枚になるのね。今日は魔物の肉は止めといて、野菜を買って帰らないと」
玄関口に設置された黒板には本日と明日の特売が大きく書かれていた。例えば「魔物の肉:銅貨5枚→銅貨3枚」と書かれており、文字が読めない人の為に絵も描かれていた。玄関口に黒板が設置されているため来客者が特売品を見ようと集まるので、集まった人に対して「何が有るの?」とさらに人が集まるとの好循環を作り出していた。
午前の混雑も一段落が付いた頃、亮二がカルカーノ商店を訪ねてきた。アウレリオは応接室に亮二を通すと、この数日で店を引き継いでから見た事も無いほど劇的に客足と売上が上がったことを報告した。
「リョージさんのお陰で店の売上がこの数日間は以前に比べて倍ほどになっています。この調子だと王都に出店しても大丈夫そうです」
「王都に出店するんだ。アウレリオさんが直接指揮を執るの?」
「直接、私が行きたいのはやまやまなのですが、ドリュグルの売上が天井知らずですので、今は離れる事が出来ないんです。ですので、予定していた来月出店を延期して半年後に出店しようかと。偶然ですが、まだ仕入れも従業員の雇入れもしていませんでしたので」
アウレリオの説明を聞きながら亮二は「今はドリュグルを離れるべきではないね」と頷いた。
「ちなみに、今日はどの様なご用件で?」
「実は、ポーションの試作品を作ってきたので見てもらおうと思って」
亮二はそう言うと、ストレージから色の違うポーションを3つ並べた。
「右から従来通りのポーションで、真ん中が効果5倍、左は秘薬になるよ」
「ひ、秘薬ですか?」
アウレリオは亮二が秘薬と言った瓶を手に取ると光に当てて中身を見てみた。光があたったポーションは赤色に輝いており、瓶越しに向かってくる赤の光線に思わず見とれてしまった。
「アウレリオさんが持ってる秘薬はちょっと作れなかったから、5本程しか卸すことは出来ないよ。客寄せのアイテムとして使ってくれたら良いけど、その秘薬いくらなら売れるかな?」
「そうですね。確かこの秘薬は体力が全回復するのですよね。冒険者よりも金持ちがこぞって買いにきそうですが、価格としては金貨50枚ですかね」
さらっと提示された金額に思わずアウレリオを凝視した亮二に対して苦笑いを浮かべてしまったアウレリオは理由を説明した。
「いままでセーフィリアで秘薬のようなポーションは出て来たことが有りません。金貨50枚と言いましたが競売にかけたらもっと価値は上がるでしょう。これは非売品として陳列するだけにさせてもらいます。それと、通常のポーションは今まで通りの金額で、5倍ポーションは金貨1枚と銀貨5枚で販売します。何かご不満な点が?」
亮二の微妙な顔に怪訝な顔をして質問したアウレリオに慌てて釈明を行った。
「違う、違う。こちらはテスト販売のつもりで最初は5倍ポーションを銀貨1枚で販売するつもりだったから、予想外の金額設定に驚いただけだよ」
「これほど性能がはっきりとしているならテスト販売はしなくても大丈夫でしょう。魔術師ギルドにも権利を発生させて巻き込んでいると報告も上がってますよ」
これから魔術師ギルドの話をしようとしていた矢先に先制されたので一瞬驚いた顔をしたが、ヤリ手の商人ならそんなものかと亮二は気にすること無く作れる数の説明に入った。
「なるほど。当面は800本までなら供給可能なのですね。ではまずは100本限定で発売しましょう。購入の様子を見て入荷数を増やしたいと思いますが大丈夫でしょうか?」
「もちろん、
「それなら買取担当者に連絡をしておきましょう。もちろん買取金額に色をつけさせてもらいますから今後とも宜しくお願いしますよ」
気楽な感じと先行投資を兼ねて引き受けたアウレリオだが、後に買取担当者から討伐した魔物の数を聞いて気楽に受けた事を後悔するのだった。
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