第67話 ユーハン伯とマルコ -思い通りに進まないね-

「どう言うこと?」


 マルコは呆れた顔をしながら、食事をしている最中のユーハンに問い正すと、ユーハンは食事を中断してワインで喉を潤しながら状況を確認するように話し始めた。2人が珍しく食事を共にしながら話題に上げているのはカレナリエンとメルタに結婚の申し込みを行った亮二についてである。


「ドリュグルの街にリョージを縛り付けるために名誉騎士にして邸宅を与えて、カレナリエンやメルタ、シーヴをメイドとして働かせる様に動いたんだ。結婚の申し込みをしてくれたのならドリュグルの街に居を構えるだろ。こっちの思惑通りに話は進んでいるのに何で、そんな呆れた顔をしているんだ?」


「もっと時間を掛けて動いてもらう予定だったろ?なんで邸宅に住めるようになった2日目に結婚の申し込みをしてるんだよ。しかも2人共に了承を貰ってるじゃないか」


「それはこっちが聞きたいよ。カレナリエンを呼んで聞くしか無いな」


 ユーハンは側にいた従者にカレナリエンを呼んでくる様に伝えると冷えた料理を残念に思いながらも食事を再開するのだった。


 ◇□◇□◇□


「どうしたの?一体なに?」


 呼ばれてやって来たカレナリエンを見てユーハンとマルコは唖然としてしまった。花の様に輝くいつもの笑顔ではなく、目はキラキラと輝いており、幸せ満開の笑顔で頬は若干赤らんでいる。そして何よりも2人が唖然とした原因が右手の薬指で輝いている指輪を見て「にゅふふうふふ」笑うカレナリエンの声だったからだ。


「カレナリエンさんや。最初の打ち合わせではリョージに近付いて様子を見る話だったと思ってるんだが、一体全体どうしてこんな状態になってるんですかね?後すまんが、その笑い方がちょっとじゃなく気持ち悪んで止めてもらっていいかな」


「にゅふふうふふ。別にマルコにどう思われようがいいのだよ。リョージ様さえ、ちゃんと私の方を見てくれればそれで問題ないから」


「メルタにも手を出しているがいいのか?」


 最初の打ち合わせって何のこと?と言わんばかりの態度で返事をしているカレナリエンにイラッとしながらメルタの件を持ちだして厭味ったらしくぶつけてみた。


「別にいいもんね。メルタとは話し合い済みだし、私が第一夫人って決まったから。シーヴは成人してから第三夫人になるかを決めればいいからね。後2年が待ち遠しいわ、早くリョージ様が成長しないかな。ねぇ、マルコ。結婚式はどんな服を着たらいいと思う?やっぱり翠の民族衣装かな、それとも白のドレスで『貴方の好きな色に染めて下さい』はどうかな…って何言わせるのよマルコ!」


 1人で暴走してきゃあきゃあ言っているカレナリエンを前に「どうするよ、こいつ」との視線をユーハン伯に投げかけたが、ユーハン伯は首を振ると諦めたかのようにため息を付いた。


「リョージがこの街に居を構えて、王立魔術学院を首席で卒業した後にこの街に帰ってきてくれるだろう。俺としてはそれでも十分なんだけどな」


「それにしてもリョージってどの位の資産を持ってるんだろうな?宝飾店の店主に確認したら3人に渡した宝飾品はあの店にある高額魔道具で上から順番に見せていったそうだぞ。全部で金貨850枚を宝石で支払ったそうだ」


「即金払いか。剛毅な話だな。俺でも一括でその金額は払えないかな」


 マルコの報告に心の底からのため息を付きながらカレナリエンを見ると、丁度指輪見ながら「にゅふふうふふ」とお花畑全開の笑顔が目に入ってきた。「ひょっとしてリョージって俺より金持ちなんじゃないか?カレナリエンは完全に当たりクジを引いたよな」と呟くユーハンだった。


 □◇□◇□◇


「カレナリエンはユーハン伯の所に行ったけど、なにか用事があったのかな?」


 メルタとシーヴに問いかけた質問に返事がないのを訝しげに2人を見てみると送った宝飾品を見て「うふふふふ、ついに私にも春がやって来ましたよ」「ふんふふぅん。この重い鍋も片手で持てるもんね」とそれぞれの世界に入っており答えは期待できそうになかった。


「仕方がないな。あっ!そう言えば魔物の換金をしてなかったな。ちょっとギルドに行って換金してくるか。あれ?カルカーノ商店の方が高く買ってくれるんだっけ?」


「そうですね。魔物の換金ならカルカーノ商店の方が換金率は高いですよ。それに纏めて換金した方がオマケもしてくれるのでお勧めです」


「お!メルタさん復帰したんだ?」


「もちろんです。いつまでも浮かれてなんていられません。晩御飯の準備も必要ですしね」


 独り言に近い呟きにメルタが通常状態に戻ったようで的確なアドバイスを亮二に送ってきた。


「じゃあ、メルタさんのアドバイスにしたがってカルカーノ商店に行ってくるよ。何か欲しいものがあるなら買ってくるけど?」


「そんな、ご主人様にお使いなんてさせられる訳無いじゃないですか。気になさらず行ってきて下さい。今日の分の食材は用意しておりますので」


 - 日本だったら普通なんだけどな - と思いながらも、メルタ達に食事の用意を頼んでギルドに向かうのだった。

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