第73話 短弓大活躍 -遠くからの攻撃は無敵ですね-

 武器防具を装備した亮二とメルタは冒険者ランクを上げる為に森に入ると、目標としていた亮二が異世界に飛ばされた場所に到着した。ちなみにマルコとカレナリエンは別件が有るために付いて来ていない。


「光ったと思ったら目の前にこの巨木があるんだもん。あん時は大変だったなぁ。いきなりここに飛ばされて来たんだから」


 亮二は懐かしそうに木を触りながら語っていたが、我にかえると苦笑を浮かべた。


「でも、よく考えたらまだ1ヶ月も経ってないんだよね。いきなり飛ばされてドリュグルの街にやって来てから」


「それは色々な事が有ったからですよ。この1ヶ月は怒涛の勢いで過ぎていましたからね。私もまさかギルドの受付からメイドとして働いて、婚約した上に冒険者として森の中で弓矢を構えることになるとは思いませんでしたから」


 怒涛の1ヶ月を思い出して、お互いに苦笑を浮かべながらも「楽しい日々なのは間違いない」と和やかな空気が流れていたが、唐突にそれは破られてしまった。


「メルタさん、戦闘準備をお願いします。敵を確認しました。この場所ならキノコのお化け3体で間違い無いと思う」


 亮二の声に焦りながら弓矢を取り出して準備をはじめたメルタに落ち着くように語りかけた。


「大丈夫だよ、メルタさん。何が有っても俺が守ってあげるから。キノコのお化けの姿が見えたらユックリと狙いを付けて撃つだけだよ」


「何かあれば俺が全力で守るから」と亮二に笑顔で言われて、落ち着いたメルタはカレナリエンとの練習を思い出しながら、短弓を取り出して矢を番えると1匹に対して狙いを定めて引き絞った弦から手を離した。


メルタが放った矢は「トスッ」と軽い音を立ててキノコのお化けを勢い良く突き抜けて飛んで行き、後ろから来ていたもう1匹に当って止まった。2体共が動かなくなった事を確認して、残り1体は近づき過ぎた為に亮二が“ミスリルの剣”で両断した。


「凄いじゃん!2体同時に倒したなんて凄いじゃん!初めての実戦でこれならバッチグーだよ!」


「“ばっちぐう”?その意味は良くわかりませんが、問題無いって事ですよね?それにしても短弓の威力じゃない気がしますが、これが魔道具を使っている効果なんでしょうね。でも初めて魔物を倒したのか手の震えが止まりません。冒険者の方々ってこんな状態で戦っておられるのですね」


 初めての戦闘で思っていたよりも緊張し、息も荒いままのメルタは「次の受付業務からは冒険者に対して優しくしよう」と心に決めたのだった。


 □◇□◇□◇


 亮二とメルタが森に入ってから5時間が経過していた。途中で何度か休憩を挟んだが、それ以外は戦闘に明け暮れており戦闘回数は30回程を重ねていた。やはりこの場所ではキノコのお化けしか出てこないようで、初心者の練習場所としては最適であることが分かった。


「それにしてもリョージ様。流石に「キノコの森」だけあってキノコのお化けしか出てきませんね。これだけ戦闘回数を重ねたお陰で、私は戦闘に少し慣れることが出来ましたが」


「でしょ。でもここって何でキノコのお化け…え?ここって「キノコの森」って名前なの?そりゃ他の魔物は出て来ないわ」


 森の名称を初めて聞いた亮二はキノコのお化けの討伐数が4桁になることに納得するのだった。


「じゃあ、そろそろ帰らないとカレナリエンやシーヴも心配するだろうから、後2~3回戦ったら帰るとしよう。その前にせっかく属性付与した矢を用意したから、使ってみようか」


 亮二はストレージから各属性の矢を取り出すと自分も弓を取り出して近付きつつ有るキノコのお化けに対して【火】属性を付与されている矢を番えて放った。


 メルタの目に入ってきたのはアイテムボックスから弓を取り出して気楽な感じで、近付きつつ有るキノコのお化けに対して弓を放つ亮二の姿だった。亮二から放たれた矢がキノコのお化けに当たった瞬間に勢い良く燃え上がり消し炭になって崩れ落ちた。


「あぁ、ダメだな【火】属性の矢は。消し炭なったら買い取りできなくなるじゃん。魔石だけは大丈夫なのが唯一の救いだな」


「リョージ様。属性付与された矢は冒険者が使うには素材の確保の点から見ても無理があるかと」


 消し炭になったキノコのお化けをみてメルタも同じ感想を抱いたようで、せっかく作った属性付与の矢についてはストレージで箪笥の肥やしになることが決まるのだった。


 ◇□◇□◇□


「「お帰りなさいませ!リョージ様。本日の成果はいかがでしたか?」」


 帰ってきた亮二とメルタを迎えながら成果を聞いたカレナリエンとシーヴに亮二は指を2本立ててアピールを行った。


「20体ですか?思ったよりも少なかったんですね」


「200体だよ!ほぼメルタさんが倒したんだけどね!」


 討伐数を報告した亮二に対してカレナリエンは思わずメルタを見たが返ってきたのは力強い頷きだった。


「え?200体ですか?規格外のリョージ様なら理解できますが、この1週間ほど教育していた私からすると体力的にも無理があると思うんですが?」


「カレナリエンさんには報告してなかったっけ?メルタさん専用の武器防具を奮発して用意したんだよ!」


「見て見て」と手渡された短弓の軽さに驚きながらも冒険者目線で確認すると、デザインといい、弦の弾き軽さといい、1級品の短弓で有ることは分かる。カレナリエンは余程名のある名工の作品だろうと亮二に問いただした。


「かなり名のある名工の作品なんでしょうね。デザインだけでなく性能も素晴らしいですね。この性能ならメルタがキノコのお化けとは言え200匹討伐出来たのも納得です。となるとかなりの金額になると思うんですが、誰の作品なんですか?今まで見たこともない斬新な短弓なんですが?」


「ふっふっふ。短弓に関しては俺の自作で魔道具をふんだんに取り込みました!」


「え?リョージ様の手作りなんですか?名工の作ではなくて?」


 えっへん!と胸を張っている亮二を眺めながらカレナリエンは「未来の旦那様は何でも出来るのかしら?」と考えるのだった。


 □◇□◇□◇


「ちなみに、この短弓を作るにどの位の費用が掛かったんですか?『魔道具をふんだんに使った』と仰ってましたが」


「え?ソンナニオカネハカカッテナイデスヨ…」


「で、お幾らですか?金貨10枚?それとも50枚とかじゃないですよね?」


「おしい!もうちょっとだけ多くて金貨100枚!」


「はい!リョージ様!そこに正座!」


「またこのパターンか~!」

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