第288話 文官の活躍 -書類が片付きましたね-
エレナ達がウチノ伯爵領に赴任してから領地経営は加速度的に進んでいた。亮二の家臣団は前任のレーム伯爵から汚職をしていた者を除いて引き継いでいたが、元々内政に興味が無く王都での暮らしに予算を注ぎ込んでいたレーム伯爵の領地には文官はほとんどおらず、ニコラスと数名の文官で日々の業務をしていた。
「よくも、この少人数で今まで業務をこなされてましたな。私なら倒れていますよ」
エレナに付き添ってきた文官の長が苦笑交じりにため息を吐きながら書類の小山を眺めていた。
「いやいや。今までは仕事らしい仕事が有りませんでしたからな。一番の仕事と言えば、王都に居るレーム伯爵への送金と、金額が少ないとの叱責の手紙を読む事くらいでしたので」
仕事が落ち着いて余裕が出てきたニコラスと文官の長の2人は、亮二が用意したスイーツと紅茶を堪能していた。王都で有名なスイーツの甘さと、紅茶の味に心身共に癒やされるのを感じながらニコラスは当時の事を思い出していた。レーム伯爵からの叱責と金の催促の手紙しか来ない日々、苦しんでいる領民に対して何も出来ずに無力感に押しつぶされてた日々。満喫していた甘いスイーツが苦く感じるほどの昔の事まで思い出し思わず顔をしかめたニコラスだったが、我に返ると爽やかな笑みに変化させながら積まれている書類を手に取って内容を読み上げ始めた。
「『買取の対応者が足りない為に増員を求む』これは深き迷宮からの嘆願書です。こっちは『工事が前倒しで完了したのでリョージ伯爵の訪問を』との、ため池が早期完成した報告書です。こちらは『食糧不足が改善され、働く者が増え自給自足が可能となった。春からは援助不要』有難い事に南部の食糧不足が改善し、領民が働き始めたとの報告書です。領民たちの苦しかった日々が劇的に改善されています。私は今も夢を見ているのではと思ってしまいますよ」
「我々もそうですよ。王都で我が物顔で幅を利かせていた貴族派が一掃され、リョージ伯爵の開発されたスイーツや服装が流行り活気が出ています。貧民対策のお陰で王都にあったスラム街も無くなり、今は区画整理され新たな住宅区域となる予定です。本当にリョージ伯爵はイオルス神が遣わした御使いですな」
2人は寛ぎながら領都と王都の近況を互いに話し合い笑いあった。レーム伯爵領改めウチノ伯爵領と、王都の活気がサンドストレム王国全体に広がっていくのを近くで感じている2人は、明るい未来に向かっている今を噛みしめるように会話を楽しんでいた。ひとしきり雑談を済ませて休憩を終了させると、力強く残っている書類を片付け始めるのだった。
◇□◇□◇□
「リョージ様。私が特別監査官でやって来た事に感謝してくれてますか?」
「もちろんです。エレナ姫が来られなければ、書類との格闘は1年近く掛ったでしょうね。本当に感謝していますよ」
エレナ達が到着してから半年が経とうとしていた。1年以上は掛かると思われた山のような書類を半年で片付けたエレナ率いる文官団は半数を残して王都に帰還していた。残った文官は若手が中心だが、将来を期待されている人材ばかりであり、マルセル王のウチノ伯爵領と亮二に掛ける期待の高さを国内外にアピールしていた。
「リョージ様が本当に感謝して下さっているなら、ご褒美が欲しいですわ」
亮二の言葉にエレナは嬉しそうにしながらご褒美を催促してきた。2人が居るのは亮二の私室であり、机の上にはスイーツが所狭しと並べられていた。亮二とエレナの他にも婚約者と発表された者や周辺には婚約者と思われている者達が集まっており、メルタとシーヴはメイドとして紅茶やスイーツの用意などをしており、クロとライラは亮二とソフィアが作ったスイーツを片っ端から試食していた。
「ところで、今回のスイーツの味はいかがですか?」
「こっちの味は大分改善された。でも食感が悪い」
「あっ! 私もそれは思った。それと甘味はもう少し抑え気味でもいいかも」
王都から遊びに来ているソフィアの質問にクロとライラが感想や改善点を述べているのを聞きながら、亮二はエレナへのご褒美を考えていた。
「本当に感謝しているのでご褒美はお渡ししますよ。私が新しく考えたスイーツの試食券などはいかがでしょうか?」
「あ、新しいすいーつの試食券? くっ! そ、それはそれで魅力的なのですが、いや本当に魅力的なんですよ? 本当に食べたいんですよ! くっ! でも、それじゃ頑張った意味が……」
なぜか亮二の提案を「世界の破滅か仲間の死を選べ」と言われたような表情を浮かべながら葛藤していたエレナだったが、血涙を流さんばかりの複雑な笑顔で断ってきた。
「す、すいーつの試食券は魅力的な、魅力的な! 本当に魅力的なご提案なのですが、くっ! そ、それ以外でお願いします!」
「おぉ。わ、分かりました。なにがそこまでエレナ姫を追い詰めているのか分かりませんが、別の物を考えますね。ご希望はありますか?」
「わ、私と恋人になってください!」
魂を吐き出すように別の物を求めてきたエレナに亮二が首を傾げながら何が良いのかと尋ねると、その言葉を待ってましたと言わんばかりの笑顔でエレナが顔を赤らめながら力強くお願いしてくるのだった。
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