第289話 エレナ姫とのデート -準備をしますね-

 エレナの恋人になって下さい宣言に周囲が沈黙に包まれた。亮二は唖然とした顔になっており、カレナリエンやメルタは呆然した表情になっていた。クロとライラは気にせずにスイーツを食べており、ソフィアは真っ赤な顔をしながら亮二とエレナを交互に眺めていた。


「リョージ様。な、なんとか言ってくださいませんか? 不安で胸が押し潰されそうなんですよ?」


「えっ? はい。よろしくお願いします」


 あまりにアッサリと返事をした亮二の言葉に拍子抜けた表情になったエレナだったが、亮二の返事に顔を輝かせた後に不満そうな顔になって抗議をおこなった。


「あ、あまりにアッサリとされていませんか? 私の中で物凄い勇気を振り絞って告白させて頂いたんですよ?」


「いや。エレナ姫とは正式な婚約者となっていないだけで、すでにお付き合いをしているつもりだったのですが……」


「私もそう思ってたわよ。だってエレナは前に『妻としては第1夫人にしてもらうわね』って言ってたじゃない」


「私も今さらの話でビックリしました。エレナ様の行動と態度ですでに周りは恋人同士だと思っていますよ?」


 亮二だけでなくカレナリエンとメルタからもツッコミを受けたエレナは、今さらの告白だったと気付くと真っ赤な顔が全身に広がったように赤くなりながら両手を顔に当ててうずくまるのだった。


 ◇□◇□◇□


「では、リョージ様はエレナを連れてデートに行ってきてくださいね。ついでに恋人に送る指輪も買ってこられたらどうでしょうか?」


「そうだね。仕事も一段落したからいいかもね。エレナ姫のご希望は有りますか?」


 やっと落ち着いて椅子に座っているエレナを見ながらカレナリエンが提案をしてきた。仕事が落ち着いており、しばらく休みを取っても問題ないと判断した亮二はエレナにデートについての希望を確認した。


「デートに連れて行ってくださるのですか! それでしたら普通の女の子としてリョージ様とデートがしたいです!」


「普通のデートですか?」


 エレナからお願いされた内容に亮二が問い返すと、大きく頷きながら弾むような声で説明を始めた。


「私は今まで政略結婚で会った事もない殿方に嫁ぐものだと思っておりました。それが、憧れていたリョージ様との婚約です。天にも昇る心地でしたが、それと同時に普通の女の子としてもリョージ様なら扱ってくださるだろうと思いました。普通のデートでは駄目でしょうか?」


「分かります! 私もリョージ様と指輪を買いに行った時は嬉しかったですもん! でも、普通のデートもしたかったかも」


 嬉しそうなエレナの言葉に顔を赤らめながら興奮したソフィアが話に入ってきた。意気投合したエレナとソフィアは手を取り合いながら理想のデート場所やシチュエーションで盛り上がっていた。そんな2人の様子を楽しそうに見ながら亮二はソフィアに話し掛けた。


「ソフィアもデートがしたかったんだ。良かったら近い内に普通のデートする?」


「はわわわ。な、なに言ってるんですか! 私の話じゃなくてエレナ姫とのデートを考えてくださいよ!」


 真っ赤になりながら混乱したようにワタワタしだしたソフィアを嬉しそうに眺めている亮二にメルタが苦笑しながら「ソフィアをからかわないで下さい」と注意してきた。亮二は小さく首をすくめながらソフィアとメルタに謝罪するとエレナに話し掛けた。


「分かりましたエレナ姫。じゃあ、普通のデートをしましょう。明日で良いですか? あと、ソフィアは来週ね」


 亮二の宣言にエレナとソフィアは満面の笑みで頷くのだった。


 ◇□◇□◇□


「お待たせしました。リョージ様」


「えっと。その格好は?」


「はい! シーヴさんにお願いして変装してみました! 普通の町娘に見えますか?」


 翌朝、亮二が朝食を終えたタイミングでエレナが訪ねてきた。服装はシーヴが選んだらしく、王都で流行っている町娘の格好をしており、10人中10人が『町娘の格好をしているエレナ姫』との感想を選ぶであろう状態だった。


「シーヴ?」


「が、頑張ったんだよ? でもね、エレナ様の立姿とか醸し出す雰囲気で頑張っても町娘にならないんだよ……」


 亮二からの視線を感じたシーヴは20着以上を試着した結果が今のエレナだと必死にアピールをした。シーヴの訴えかけに亮二は笑いながら了承すると、ストレージから櫛とヘアメイクセットを取り出し、エレナに対して椅子に座るように伝えると作業を始めるのだった。


「出来上がりましたよ。エレナ姫」


 亮二はヘアメイクが終了した事を伝えると、ストレージから手鏡を取り出してエレナに手渡した。エレナが手鏡を覗くと軽くウェーブの掛かった髪がストレートになっており大きなリボンで結ばれていた。さらに驚いた事に髪の色も薄い茶色になっており、エレナの特徴がかなり抑えられていた。


「こ、これは凄いですね。でも髪の色は……」


「ご安心下さい。髪の色はすぐに元に戻せますので」


 髪の色が薄い茶色に変わった事に不安を口にしたエレナだったが、亮二から一瞬で戻ると言われ実際に元の金髪に戻された後に再度、薄い茶色になると安心したような表情になった。最初に比べると印象が変わったエレナだったが、元々の美貌を誤魔化すことは出来ずに別の意味で目立っていた。


「これは、あれですね。10人中10人が振り返る普通の美人ですね。どうしましょうか?」


「まあ、いいんじゃない。エレナ姫が美人なのは仕方ないし、俺もデートするなら美人とが良いしね」


 カレナリエンがエレナを見ながら苦笑すると感想を述べてきた。2人からだけでなく、周りからも美人と言われたエレナは若干頬を染めて嬉しそうにすると、亮二に感謝の言葉を述べながら引っ張るように外に連れ出すのだった。 

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