第290話 エレナ姫とのデート2 -街を散策しますね-

「まずはなにかご希望はありますか? エレナ姫」


 亮二の腕を引っ張って王都の屋敷から出た2人だったが、亮二の台詞にエレナは頬を膨らませると上目遣いで話しかけてきた。


「リョージ様が行きたい場所ならどこでもいいですわ。ところでリョージ様! 今日は普通の女の子としてデートするんですから『エレナ』と呼び捨てで、敬語も禁止でお願いしますね」


「分かりました。じゃあエレナはどこに行きたい? それと俺の事も呼び捨てにして欲しいな」


 エレナから敬語を止めるように言われた亮二はいつもの口調で話し始めた。エレナは敬語が無くなった事に嬉しそうな顔をしながらも、呼び捨てをする件については軽くはぐらかすと、亮二と腕を組んで楽しそうに歩き始めるのだった。


 亮二とエレナが王都の大通りを歩いていると、遠慮がちながら興味津々の視線が2人に集中し始めた。エレナは変装している為に美人である事以外は目立っていないが、亮二はドリュグルの英雄や伯爵になっただけでなく、スイーツの開発や貧民対策、初級探索者ダンジョンの攻略などのお陰で有名人となっており、それ以外にも普段から買い物をしている姿を見られており、亮二の姿を覚えている者も多かった。


 亮二と変装したエレナの2人が歩いているのを見かけた王国民達は、亮二がカレナリエンやメルタ達以外の女性と歩いている事に一瞬驚いた表情を浮かべるも、最近の新聞でよく取り上げられている「リョージ伯爵に新しい恋人が?」との記事を思い出して勝手に納得する者や、邪魔をしないように微笑ましげに見守る者、明日の新聞を楽しみに思う者などがいた。男性の多くは悔しさと羨ましさが入り混じった複雑な顔で亮二達を眺めていたが、当の本人は様々な視線に全く気付いておらずエレナとのデートを楽しんでいた。


「じゃあ、食事の場所まで散歩して、食事が終わった後に買い物する感じでいいかな?」


「はい! もちろんです。リョージ様が決められた内容なら間違いはありませんから」


 嬉しそうに話をするエレナが敬語だと気付いた亮二だったが、訂正を求めても「私はいいんです!」と笑顔ではぐらかされてしまった。訂正する気が無いエレナに苦笑を浮かべた亮二だったが、気にしない事にすると、王都で有名になりつつある屋台街に向かって歩き続けるのだった。


 ◇□◇□◇□


「久しぶり! 最近の調子はどうだい?」


「あっ! リョージ様! お久しぶりです。本当にリョージ様には感謝しております。出資して頂いたお陰で店を持つ事が出来て、今では貴族の方もわざわざ予約をしてから来てくださるようになったんですよ!」


 王都を訪れた時に屋台の売上勝負に参加した店主を見つけた亮二が声を掛けた。最近の調子を聞かれた店主は嬉しそうに話し始めた。店の調子は好調らしく、今日も夜からの営業は予約がいっぱいであり食材を買いに行った帰りとの事だった。


「今、デート中なんだけど、これから店に行ってもいい? 無理だったら別の店に行くけど?」


「どうして、そんな事を言うんですか! リョージ様が店に来て下さったら箔が付くんですよ! 『来てください!』と私達がお願いする事は有っても拒否なんてするわけないじゃないですか! 今すぐに準備をしますので、ゆっくりとお二人で来てください。では失礼します!」


 亮二から店に行っていいかと聞かれた店主は、満面の笑みを浮かべながら了承すると準備のために店に向かって全力で走っていくのだった。そんな様子を見ていた亮二とエレナだったが2人の目が合うとクスクスと笑いだした。


「私には全く気付いていませんでしたね。リョージ様に意識がいっていたのでしょうが」


「髪の毛の色も変えてるからエレナを見ても『美しい女性』としか認識しなかったんだろうね。じゃあ、彼の要望通りに店に向かってゆっくり歩こうよ」


 亮二から美しい女性とサラッと言われたエレナは頬を赤くしながらも嬉しそうにしていた。照れているエレナを見ながら亮二は周りにある店で商品を買ったり、冷やかしたりしながら再びゆっくりと歩き始めるのだった。


 ◇□◇□◇□


「おい! 美人な姉ちゃんを連れてるな坊主! お姉ちゃんは借りて行くから、お前はどっかに消えろ」


 街を歩いていた亮二とエレナの前に大柄な男性達が道を塞いだ。大柄な男性の後ろには2名の男性がニヤニヤしながら立っており、エレナに目をつけて絡んできたのは一目瞭然だった。


「俺に言ってるの? 確かにエレナは美人だけどさ」


 亮二の言葉にエレナは嬉しそうにしながらもデートを邪魔された事に不服そうな顔をすると、亮二の袖を引っ張って先に進もうとした。


「行きましょう。リョージ様。店主が待っていますよ?」


「そうだね。でも、俺としてはテンプレな展開でやって来た3人組とちょっと遊びたいんだけどな。やっぱりエレナは揉め事は嫌いだよね?」


「揉め事は問題ないのですが、デートの時間が短くなるのは嫌です。少しでもリョージ様と二人きりになりたいので早く行きましょう」


 3人組を無視するように話し始めた亮二とエレナに大柄な男が苛立だしげに近付こうとすると、周りからの同情の視線を受けている事に気付いた。最初は目の前の姉弟に対しての視線だと思っていたが、どうやら自分達に向いているのだと把握すると苛立ったように怒鳴り散らした。


 最初はテンプレとして対処しようとしていたが、エレナから二人きりでユックリとデートがしたいと言われた亮二は気が変わったように戦意を静かに高めながら3人組に近付いていった。


「おい! 変な顔をしてこっちを見やがって、文句があるなら掛かって来い! それとお前ら! なにイチャイチャしてるんだよ! 姉弟じゃないのか? どっちでもいいが、さっさと消えろって言ってんだよ! 俺達を誰だか知らねえのか! 泣く子も黙……ぎゃあ!」


「あ、兄貴! おい! 兄貴になにしや……ぐえっ!」


 亮二が近付いてきたのに気付く暇もなく殴られた大柄な男は、もんどり打って倒れるとそのまま気絶して動かなくなった。いきなりの強硬な態度に出てきた亮二に驚きながら掴みかかろうとした男も同じように殴られると、大柄な男の上に積み重なるようにして気絶した。


「よし! 2人とも気絶したな。これはこれでテンプレだな」


 呆然としている男に視線を向けると、怯えたような表情になり後ずさりながら身を翻して逃げ去っていくのだった。

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