第25話 駐屯地での腕試し  -腕がなりますね-

 マルコは亮二の戦いっぷりを思い出していた。緑狼との戦いは本人曰く「初めての・・・・戦闘で緊張した」との事だったが、その時の様子を直接目にしていたマルコでも信じないくらいの軽やかな、そして熟練した冒険者の動きだった。しかも戦闘中に属性付与を切り替えるという、今まで英雄が出てくるような神話の中でも聞いたことがない戦い方をしたのである。


 本人は自分がどれだけ凄い事をしているかの自覚もなく「2種類しか試せなかった」と不満気に語っていたが、次の豚人との戦闘では緑狼との戦闘で属性付与を2種類しか試せなかったのが余程悔しかったのか、緑狼よりも討伐ランクの高い豚人にも関わらず1匹づつ違う属性で倒していた。


「リョージの使える属性は【火・水・雷・氷・風】は確実だな。古の歴史の中でなら5属性以上を使える魔法使いは存在したし、戦士で属性付与が出来る冒険者はいる。俺もその1人だしな。それにしても戦士としての強さは全く問題なくて、5属性を苦にする事なく切り替えながら戦える冒険者か」


 マルコは駐屯軍の訓練の様子を興味深く眺めている亮二の姿を遠目に見ながら呟いているとカレナリエンが話しかけてきた。


「ねえ、マルコどうするの?リョージくんのことユーハンに伝えるの?」


「そうだな。この依頼が終わったらユーハンには俺から伝えとくわ」


 マルコとカレナリエンは亮二の規格外の強さを自分たちの街を守るため、辺境伯である「ユーハン = ストークマン」に亮二の事を推薦すると決めるのだった。冒険者として登録して1週間も経っていない【H】ランクの冒険者を推薦するのは前例のない事だった。


 ◇□◇□◇□


 マルコとカレナリエンにそれほどまでに評価されているとは全く気付いていない亮二は、馬を駐屯地の受付に預けて様々な場所を見学した後に駐屯地軍の訓練を眺めているのだった。


「それにしても、あの2人は何を話してるんだろうな。『リョージさんから目が離せないの!』とかカレナリエンが言ってたりして。どうすんだよ、ハーレムルートの始まりか?って、それはちょっと置いといて個人的に試したいことが有るんだよね」


 カレナリエンからの評価が鰻登りで、ある意味正解を呟きながら模擬戦闘をしている兵士達に近付くと休憩中だった兵士の1人に話しかけた。


「ねえ、おじさん」


「ん、どうした坊主?俺はおじさんじゃねえぞ、お兄さんだよ。そんな事より、なんでこんな場所いるんだ?お父さんとお母さんはどこに行った?」


「別にいいじゃん、そんな事。それよりも俺とも模擬戦をしてよ。おじさん達は【C】ランク冒険者位の強さはあるでしょ?」


 男の問いかけを無視して「俺と戦ってよ」と話してきた台詞にきょとんとしてから大笑いすると「いいぜ坊主。稽古をつけてやるよ」と木剣を亮二に向かって放り投げると、手招きをしながら亮二が攻撃して来るのを待ち受けるのだった。


 亮二と対している男は駐屯地で10年近く勤務している男であり、”試練の洞窟”から魔物が溢れてこないように定期的に潜って軍事的示威活動を行う主力メンバーの1人である。亮二の目算通り、冒険者ランクで言えば【C】の腕前はあり強さに問題はなかった。それに子供の相手もしてくれる気さくさも持ってたのだが、それは男にとって不幸だったかもしれない。


「じゃあ、俺から行くね」


 亮二は軽くそう言うと男に向かって勢いよく上段から木剣を打ち下ろした。男は軽く受け止めるつもりだったが、予想以上に強烈な一撃と油断していたために木剣を思わず取り落としてしまった。


「っな!」


 男は取り落とした木剣を慌てて拾い直して構えると「油断するからそんな事になるんだよ」と言い放って剣を担いだ亮二の目線を受けるのだった。


「すまんな坊主、名前を聞いてなかったな。俺の名前はディーノだ」


「リョージ・ウチノだよ。【H】ランク冒険者で”魔法戦士”を目指してるんだ」


 ディーノは木剣を構え直すと今度は自ら間合いを詰めて横薙ぎの一撃を放った。亮二は横からの攻撃を読んでいたかのようにバックステップで躱すと、下からすくい上げるように剣を走らせ剣を跳ね飛ばそうとした。「今度は取り落とさない!」との意識を剣に込める様に木剣を握ったディーノは亮二からの強烈な下から一撃に耐え鍔迫り合い状態となった。


「今度は油断無しの力比べだ」


 と叫ぶと鍔迫り合いから離れ、剣の持ち手に力を入るとディーノは身長差を活かして体重も乗せながら連続した斬撃を亮二に打ち込むのだった。


 - うぉ!このおっさんやるな!ディーノっていったよな。最初は子供だからって油断していたからアッサリと勝負がついたけど、今は自分のスペックを活かして打ち続けてくるな。やっぱり【C】ランクの冒険者と同じ強さだとバルトロメインとは違って勢いと迫力があるな -


 ディーノと打ち合いながらも考える事が出来る余裕が有った亮二は、ディーノの動きを今後の実戦で活かそうと、一挙手一投足を見逃さないように注意を払いながら戦いを続け開始から5分ほどが経っていた。


「そろそろ終わりにさせてもらうよ!ディーノさん!!」


 亮二はそう叫ぶと少し強めに打ち払いを行い、ディーノの体勢が崩れた隙を突いて上下左右と斬撃を5合、10合と重ねていった。打ち合いが15合目に達した段階で、息が持たなくなったディーノが飛び退って息を整えるために大きく間合いを取ったが、亮二の追撃の意思を感じるとこれ以上の戦闘は無理だと判断して木剣を手放すと降参の意思表示をするのだった。

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