第113話 晩餐会の終わり -料理食べたかったですね-
-亮二達の1角-
「結局、ほとんど料理を食べられなかったよ」
「でしたら、時間を作りますので王宮に遊びに来られませんか?料理長がもっとリョージ様と料理についてのお話をしたいと言ってましたので」
心底がっかりした表情で落ち込んでいる亮二を見て、さすがに申し訳ないと思ったエレナから遊びの誘いが有った。亮二はジト目でエレナを見ると「王様は来ない?料理作らせない?食べるダケダヨネ?」と確認をするとエレナと周りから苦笑と憐憫を含んだ答えが返ってきた。
「流石に父もそこまで暇ではないので大丈夫ですよ。今回の”ぷりん”は気に入られたみたいですが、作り方はリョージ様が料理長に伝えているんですよね?」
「それは大丈夫。さっき出したプリン以外のレシピも渡したから当面は楽しめると思うよ」
「お任せください、姫さま。リョージ殿から頂いた”れしぴ”は10種類はあります。それ以外にも私も色々と考えておりますので」
亮二と料理長の答えに目を輝かせたエレナを微笑ましそうに見ながら、「王様が来なくて、無理矢理料理を作らされないのだったら招待されます」と元気よく答えて頷くリョージだった。
◇□◇□◇□
-貴族派達の1角-
晩餐会での食事が終わった一同はサロンに集まっており、貴族派の者達はサロンの一角に集まって怒りの表情を浮かべながらワインや煙草を嗜んでした。
「それにしても、ハーロルトにはやられたわ」
「ユーハン伯爵も中立派な振りをしておきながら、いつの間に教皇派に取り入ったのやら」
「さすが、卑しき平民の出ですな。辺境伯と言われて増長しているのでしょう。我ら貴族派に対する態度もなっておりませんからな。頭を下げて許しを請えば今後の対応も考えてやりますのに」
「それに”ドリュグルの英雄”と巷で言われているリョージとやらは何者だ?今までそんな情報は少しも入ってこなかったぞ?」
それぞれにハーロルトの悪口やユーハンを扱き下ろしたりしていたが亮二の名前が出た時点で一瞬の沈黙が訪れた。牛人3体を相手にしても引けを取らないどころか討伐してしまう戦闘能力。王族に絶賛される料理の腕前で騎士にもかかわらず婚約者が2名。話によると魔法も使いこなしてポーションも作っている錬金術士であり、そのポーションも通常の効果をはるかに超える性能を誇っており劣化せずに長持ちもするという。聞けば聞くほど「そんな人間が居るわけないだろう!」と報告者を罵倒したくなる話しか入ってこないのである。
「そう言えば、お主はリョージを見た時に青い顔をしていたの。何故じゃ?」
声を掛けられた一人の貴族に視線が集中した。視線を集めた貴族は狼狽えたが、これ以上は誤魔化しようがないと判断し”盤面の森”に追いやったのに無傷で出て来た話を伝えた。貴族達の間では”盤面の森”は伐採しても1週間も経てば元通りになる木があるなど魔の森とも言われていた。ハーロルトの領地の1/3を占めており、すぐに元に戻る森はハーロルト公領の資源の一つになっていた。
苛々が募った状態でサロンに集まっている貴族派の者達からすれば”盤面の森”を活用出来ない貴族は絶好の捌け口であり馬鹿にしたかのように語りかけ始めた。
「それにしてもお手柄ですな。”盤面の森”にリョージとやらを追いやってハーロルト公と面識を持たせてあげたんですからな。ハーロルト公から何かお礼の品は貰われていなのですか?」
周りの貴族からの嘲笑する笑い声を受けながら誹謗中傷の矢面に立たされた貴族は「何も知らない馬鹿者達が!私側の”盤面の森”は伐採すると魔物が溢れてくるのだ!」と苦々しく思いながらも、伝えたところで何の利益にもならない為にじっと我慢をするのだった。
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-教皇派の1角-
「ほっほっほ。あの1角だけ葬式のようじゃの」
「ハーロルト公もお人が悪い。わざわざ見せ付けるかのようにユーハン伯やリョージと会話をされていたじゃありませんか。それにエレナ姫に『リョージ殿と婚約者にお祝いを言われては?』と話をされていたのを聞いていましたよ」
嬉しそうに貴族派の1角を見ながらワインを飲んでいたハーロルトに対して、貴族の1人が近付くと呆れたかのような顔で語りかけてきた。
「おぉ、トラウゴット=ヘッシャー伯爵ではないか。そう言えばリョージ殿がお主に『お礼が言いたい』と言っておったな」
「私にお礼ですか?彼とは会った事も有りませんが?」
「あ奴の婚約者の1人が『晩餐会に行かない』と言ったらしいの。平民なのを気にしておったのかもしれん。服屋の店員がお主の名前を出して『トラウゴット=ヘッシャー伯爵は奥様6名と参加されますよ』と言ったのを聞いて、参加する事を決めたそうじゃ」
自分の知らない所で亮二に対して恩を売っている事になっていたトラウゴットは嬉しそうに「では後日にでも屋敷に招待しましょうかね。ユーハン伯の供として」と笑うと、ハーロルトと一緒にワインを飲み始めるのだった。
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-王室-
「それにしても牛人3体を1人で倒せる戦闘能力か」
「噂では傷ひとつ負わなかったそうですし、牛人の内の1体は希少種だったそうですよ」
「戦闘能力は底なしだな。確か魔法も全属性を使いこなせる下地があるんだったな」
「そうですね。これも噂ですが魔力測定時に魔道具にヒビが入ったとか」
報告者の言葉に”マルセル=サンドストレム”は先ほどプリンを食べていた時とは対極の偉大なる王国の長である顔で力強く頷くと、臣下の文官を呼び命令を伝えるのだった。
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