第114話 謁見の始まり -王様の登場ですね-

 それぞれの思惑が交錯したのかが微妙な感じの晩餐会も表面上は無事に終わり翌日を迎えていた。亮二達一行は王への謁見をする為に王城であるサンドストレムに向かっていた。建国王の姓がそのまま国名、首都、王城名となっており、建国以来、外敵の侵入を許していない象徴とまで言われている王城を見て亮二はその威風堂々さに圧倒されていた。


「それにしても”凄い”の一言だね」


「そうですね。国民は死ぬまでに1回は訪れると言いますし、他国民でも我が国に来たら必ず寄ると言われてますよ」


「エレナ姫はここで毎日暮らしているのか。お姫さまだって事を改めて納得したよ。俺の国の城とは全く違うね」


「ちなみにリョージ様の国のお城はどんな感じなんですか?」


「大体、4~5層くらいで土台は石垣になっていて木と土で作られているのだったかな?後、この国みたいに街を覆うような壁は無くて、代わりに掘りを作ったりしていたな」


 亮二がうろ覚えの知識で日本の城について答えたため、話を聞いた者たちは全くイメージが出来ずに「木と土で城を作る?」と首を傾げるのだった。


 ◇□◇□◇□


 謁見は晩餐会と違い爵位のある者しか呼ばれていなかったが、亮二はユーハンの護衛との事で随伴する事となった。謁見の間に到着した亮二の目に入ってきたのは王座の両脇を閣僚が並んでおり王から向って一番近い場所から貴族派、教皇派、中立派と並んでいる景色だった。


「ハーロルト公って閣僚だったんだ」


 亮二の何気ない呟きに周りの物からは無知な者を見るような冷たい目線が、ユーハンからは「知っていたのではないのか?」と驚愕の表情が向けられており、マルコからは呆れたような顔で亮二に対して説明を始めた。


「そうだよ。ハーロルト公は現王の従兄弟に当る方だ。昔から仲が良くてな、今は王と臣下だが昔は2人でリョージほどではないが周りに迷惑を掛けてたらしいぞ」


「俺ほどってなんだよ!俺はマルコにしか迷惑を掛けないよ!」


「それが駄目なんだよ!お前も”ドリュグルの英雄”と王都でも有名になりつつあるんだから、もうちょっと自重しろ」


「未成年に自重とか求めないでよ」


「都合のいい時だけだ未成年になるなよ。俺の中ではお前は同じ年齢だからな」


 亮二とマルコの掛け合い漫才の様なやり取りを聞いて、”ドリュグルの英雄”についての噂は当てにならないと鼻で笑う者、子供である事に驚く者などを量産する中でマルセル王が謁見の間に現れた。


「よく集まってくれた!毎年、忙しい中を駆け付けてくれる事に感謝しておる。また、余への贈り物も数多く届いており本来なら1人1人に礼を言うべきだろうが、この場で感謝を述べさせてもらおう」


 マルセル王がそう答えて玉座に座ると文官が目録を読み上げ始めた。


「ハーロルト公爵からは”暴れる巨大な角牛”1体と”巨大な角牛”10体の剥製及び木材2,000本」


 文官の読み上げに貴族からどよめきが起こった。ハーロルト公爵が”暴れる巨大な角牛”の討伐で頭を悩ませていたのは周知の事実であり、そのせいで“盤面の森”での伐採が出来ておらず、経済的に打撃を受けているであろうと目されていたからである。


「ほう、ハーロルトよ。”暴れる巨大な角牛”で少しばかり苦労していると報告を受けていたが、群れ自体を討伐したのか?」


「左様ですな。苦労をしていたので王都とドリュグルの冒険者ギルドに依頼を掛けていたのですが、運良くユーハン伯爵の秘蔵っ子に助けてもらいましてな」


「ほう、あの”ドリュグルの英雄”か。それは運が良かったの」


 マルセル王の語りかけにハーロルトが「そうですな」と嬉しそうに答えたのを見て貴族派からは憎しみの篭った視線がユーハンに向いていた。


「おぉ、なんか凄く睨まれてない?」


「それはそうだろう。俺が教皇派に付いてから、貴族派との勢力図が変わったからな」


 貴族達の視線を受けた事にビックリした亮二が誰とは無く呟いた言葉にユーハンが苦笑をしながら答えるのだった。


 ◇□◇□◇□


 文官の目録読み上げは滞り無く終了をしようとしていた。


「では、これで目録の読み上げを…「待て」」


 突然の王からの遮りに文官は何か叱責を受けるのかと蒼白になったのを見たマルセル王は笑顔で「そちの事ではない」と安心させると全体に通る声で語り出した。


「時にユーハン伯爵」


「はっ!」


「そちからの贈り物が聞いておったのと少し違うようじゃが?」


「と、仰いますと?」


 突然の王からの問い掛けに首を傾げながら心当たりの無いユーハンは困惑していた。


「”試練の洞窟”が解放された際に牛人を討伐したとの報告で『魔石は献上致します』と有ったが?」


「はっ!それは申し訳ありません。後日、必ずお持ちしますので」


 ユーハンは全身が真っ白になる程、血の気が引いており教皇派の者からは心配気な顔が、貴族派の者からは嬉しそうな視線が向けられていた。そんなユーハンを見た亮二が後ろから「魔石なら持ってるよ。出そうか?」と声をかけた。


「おぉ!マルセル王に申し上げます。我が配下のリョージが持っておったようです。謁見が終わりましたら早急に用意して参上致…「今持ってまいれ」。はっ?し、しかしむき出しのままと言う訳に…「持ってまいれと言ったぞ?」」


 ユーハンの説明を途中で遮り「持ってまいれ」と伝えると、ユーハンが亮二から牛人の魔石を受け取り進もうとした時に、今度は右手を上げてユーハンの動きを止め、一同が驚愕の顔を浮かべる発言を行った。


「リョージよ、ここまで持って参れ」


「王よ!恐れながら申し上げます!王の御前に持って行くのに騎士如きにその役目をさせるのはどうかと。ここは私が代わりに…「余の言葉に逆らうのか?」」


 昨日の晩餐会で亮二に絡んできた貴族が遮るようにマルセル王に進言しようとしたが、最後まで話し終える前に鋭い目つきと威圧と共に会話を断ち切り威厳のある声で「リョージよ、持って参れ」と伝えるのだった。

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