第17話 あまえて

 紫髪を撫で続けている。泣き止むまで。


「ほんとに……いいの……? 私……やっぱり、まだ怖いよ……」

「いいの。私がメドリと一緒にいたいから……メドリが嫌だったら、ちょっと考えるけど……」


 メドリのことが、好き……大好きで、一緒にいたい。けど、メドリがそれを嫌がるなら、別の、メドリが嫌がらない方法を考える。


「そんなことないよ! 私も、イニアと一緒にいたほうがいい……けど、その気持ちが、自分勝手だから……一緒にいてもいいのかなって……」


 メドリが視線を逸らして俯く。

 不安そうな表情をする。

 頭を撫でる。


「……私だって自分勝手だよ。私がメドリと一緒にいたいだけだもの。自分勝手でも……私はメドリと一緒にいれるならいいよ」


 安心して欲しくて、心の温もりを感じて欲しくて、メドリの頭を撫でる。手を握る。身体を抱きしめる。


「私……イニアのこと、傷つけちゃうかも」

「いいよ。メドリがいてくれるなら」


「私……何も決めれないかも」

「いいよ。私といてくれるなら」


「私……怖い……怖いままだけど……何もできないけど……一緒にいても……いいかな……?」

「うん。ずっと一緒にいるから」


 メドリが私の手を強く握る。

 メドリの体温が伝わってくる。心が伝わってくる。


「メドリがどうなったって……私は一緒にいるから……」

「ほんとに……? ほんとにどんなことがあっても、一緒にいてくれるの? いなくなったりしない?」

「うん……さっきはメドリが嫌がったら、考えるって言ったけど……もしメドリが嫌がっても、私を嫌っても、私は一緒にいるから」


 メドリが私を嫌う。そうなれば、すごく苦しいだろうし、辛いと思う。想像もしたくない。

 けど、それでも、私はメドリのことが好きだから……一緒にいたい。拒絶されても、一緒にいたい。すごく怖いけど、一緒にいたいから。


「……ありがと。うん……私……私も、イニアと一緒にいたい……うん」


 メドリが確認するように、呟いて私をみる。

 メドリの顔が近い。


「どんなことしても……いてくれるんだよね?」

「うん……そ、そうだけど……」


 顔が近づいてくる。

 恥ずかしい。


「ありがと……んにゅ」

「ひゃっ!」


 耳が食べられてる。

 目を閉じて、メドリが私の耳を気持ちよさそうに、美味しそうに食べている。


 舐められてるのがわかる。

 舌が耳を伝って、メドリの唾液で濡れていく。


「そんなに耳を食べたかったの?」

「れろ……うん……さっき食べたけど……もっと欲しくなっちゃった」

「ん……」


 舌が耳の窪みに入る。

 なんだか独特の感覚がする。


 じゅるじゅると耳を、唾液と共に舐め回す音がする。

 耳の近くだからか、なんというか……すごく近い。


 けど……嫌な感じはしない。気持ちいい。

 耳の感覚が、敏感になってる。


 たまに少し歯が当たる。甘噛みもしてくる。

 少し痕が残るかも……だけど、メドリがつけてくれたなら……嬉しい。


「そこ……!」


 舌が、耳の中に入ろうとする。

 全部は入らないけれど、先っぽが入って、耳の中をメドリの唾液が浸していく。


 ぐちょぐちょという音がすごく聞こえる。

 耳の中で聞こえる。うるさいけど……心地いい。

 ……そういえば、魔力の音が聞こえない。


「んっ……」


 耳の全部が、メドリの口の中に入った。

 味わうように、舐めまわされてる。


 メドリに侵食されていく。

 メドリに耳を取られちゃう。

 私の耳がメドリのものになってしまう。


 そう思うぐらい、耳を舐められてる。

 メドリの口の中は暖かくて、気持ちいい。


「ぁっ……!」


 つい声が漏れてしまう。

 耳たぶを、舌でつんつんとされるのが、気持ち良くて。

 身体が制御できない。快楽が私の身体の主導権を奪おうとしていく。


 メドリも、私の反応が良いことに気づいたのが、耳たぶを重点的に舐めてくる。舌で丸め込むように、耳たぶに触れられてる。


 ぐちょちょという音を立てて、その音が私の頭の中を占めていく。メドリの音が。メドリが私の中を占めていく。


「メドリ……」


 思わず、メドリの顔を見る。

 メドリの気持ちよさそうな顔を見ると、なんだかすごい幸せな気持ちになってくる。


 メドリが身を乗り出して、私の耳を食べているから、メドリの体重が私にかかる。メドリを感じれる。メドリが頼ってくれてる感じがする。


 頭を撫でる。

 優しく撫でる。


 私も気持ちいい。

 耳で舌の圧力を感じる。ざらざらとした感じ。にゅるにゅるとして、私の耳をべちょべちょにしていく。


「ぷはっ……」


 耳が口の中から出てくる。

 久しぶりに空気にさらされた耳は、メドリの唾液塗れで少し冷える。けどすごく熱い。


「……嫌いになった?」


 メドリが少し不安そうに聞く。

 ゆっくりと首を振る。


「ううん……というか、もっと好きになったかも」

「そ、そうなんだ……耳舐められるの……好きなの?」


 不安そうな表情から、恥ずかしそうな顔になる。

 ほんのり赤くしてる。かわいい。


「好きっていうか……メドリがしてくれるから好き……かな」


 恥ずかしいこと言ってる。

 けど、素直な気持ちを伝える。


「……舐めてくれる?」


 メドリが指を見せてくる。

 かわいらしい、美味しそうな指を。


 ごくりと唾を飲む音が私の中から聞こえる。


「い、いいの?」

「うん……」

「いくよ……?ん……」


 メドリの指を咥える。

 まずは味わうように、舌で指を一周する。


 私の唾液で指を包む。

 じゅこという音が鳴る。


 爪が少し当たる。

 爪も舐める。


「ぁ……ん……!」


 メドリがの声が漏れでる。

 爪と指の間に唾液を流し込む。


 ぎゅっ……

 どんどん唾液が生成されていく。

 美味しい。


「んっ……」


 優しく、大切に、舐める。

 けど、もっとほしくなって、付け根まで咥える。


「ぁ……!」


 メドリの指が一本全部口の中に入ってしまった。

 指の下から、舌でつんつんとしながら、先っぽまで戻す。


 甘い。

 ちゅぱちゅぱという音を立てながら、指を舐める。


 付け根から先っぽまで。何度も出したり、入れたりして。

 咥えてる感じがする。

 美味しい。


 メドリが私に指を預けてくれることがすごく嬉しい。

 今、私はメドリの一部を取り込んでる。


 指からメドリのことが伝わってくる。

 気持ちいいって思ってることを、メドリの綺麗に流れる魔力が教えてくれる。


 もっと……もっと、気持ち良くなってほしい。

 私も、気持ち良くなりたい。


 もっと、この甘い、美味しい指を舐めまわしたい。


「イニア……!激し……!」

「あっ、ごめ……」


 メドリの絞り出すような声を聞いて、思わず口を開けてしまう。けど、メドリの顔は、気持ちよさそうにとろけていて。


「ど、どうしてやめちゃうの……? もっと……もっと」


 なんて言ってくる。

 気づけば、私の心はメドリのことだけになっていた。


 メドリの指を舐めたい。

 メドリの指を唾液まみれにしたい。

 メドリの指に噛み痕をつけたい。


 夢中に指を舐める。舐め回す。

 食べるような勢いで。溶かすような勢いで。


 少し歯を立てて、指をつつく。

 メドリに痕をつけたくて。


「んっ……」


 メドリが私の耳を食べる。

 赤くなって、とろけたメドリの顔が見える。


 気持ちよさそうにしてるのをみて、私も嬉しくなる。

 それに、指を舐めるのはすごい気持ちいい。


 そこに耳の感触が追加されると、私の顔も柔らかくなっていくのがわかる。


 ぐちょぐちょ……ちゅぱちゅぱ……べちゃべちゃ……

 唾液の音が、舐め回す音だけが、空間を支配していた。


 メドリが私の耳を舌で舐めて、唾液まみれにして、味わう音。

 私がメドリの指を舌で舐めて、唾液まみれにして、味わう音。


 感覚が二方向からくる。

 気持ちよさが二方向からくる。


 気持ちいい。

 耳を舐められることも。指を舐めることも。

 すごく気持ちいい。


 2人だけの空間で。

 布団の中で私達は、お互いを舐め合ってる。

 お互いを求めて、甘え合ってる。


 幸せ……幸せが心を占めていく。

 メドリが心を占めていく。

 それがただ心地いい。

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