第23話 いいから

 やってしまった……!

 理性が飛んで、いろんなことを口走ってしまった気がする……! 言わなくていいことまで……


「大丈夫?」


 落ち着いてきて、自分のしてしまったことを理解した。理性が帰ってきた。帰ってきてから、心がパニックになっている。


「……ご、ごめんメドリ……!」


 理性が戻って、さっきより慌てている。慌てて謝る。

 なんで……なんで私あんなことを……


「どうしたの?」


 メドリは慌ててる様子はない。

 思えば、メドリは私みたいに本能に飲まれてなかった気がする。


「あ、あんなこと……言うつもりじゃ……」

「あんなことって?」

「私だけを見ていてとか……なんか自分勝手なことを……メドリがどんなことをしてもいいって言ったのに……」


 どんなメドリでも良い。メドリならどんなことをしても好きでいるって約束したのに……メドリに求めるようなことを言ってしまった。


 後悔と自責の念が押し寄せてくる。

 メドリとの、好きな人との約束を守れなかった苦しさが。


「ごめん……ごめん……! 嫌いにならないで……? あっ……ち、違うの……だから、その……」


 嫌いにならないでっていうことも、約束と違う。

 私はメドリがいてくれるだけで良い。そう言ったはずなのに、いつのまにかいろんなことを求めるようになっていた。


 嫌いにならないで欲しい。

 好きでいて欲しい。

 目を離さないで欲しい。


「……少し驚いたよ……? イニアがそんなに独占欲強いなんて……でも、少し驚いただけ」

「ほんとに……?」


 すごい不安そうな顔をしてるって自分でもわかる。

 きっと……メドリが私のことを好きって言ってくれたことが嬉しいから。好きでいて欲しいから。好きでいて欲しくなってしまったから……


「うん。それに……嬉しかったよ。その……私にことそんなに、なんていうか……も、もとめてくれて」


 ほんのり顔を赤らめながら、メドリが言う。

 可愛い。いやそうじゃなくて。


「また……メドリに求めても良いの?」

「うん。あれぐらい求めてくれた方がいい」

「メドリ……!」


 思わずメドリに抱きつく。

 抱きしめる。


「……私怖くて……あんなこと言って嫌われたかもって……!」

「……もう……私がそんなことでイニアのこと嫌いになるわけないでしょ? こ、恋人なんだから」

「ぅ……うん。そ……そうだね」


 恥ずかしい。

 恋人だなんて、はっきり言われるとすごい恥ずかしい。

 両思いなんだよね……私達。


「じゃあ……求めてもいいんだよね……?」

「いいよ? どうして欲しいの?」


 メドリの優しい声が私を包む。

 どうして欲しいの……メドリが私の要求を飲んでくれる。それは、すごい……興奮する。


 どこまで許されるんだろ……キスはいいんだよね……?

 じゃあ……それ以上なら……?

 でも……今、私がメドリにして欲しいのは……


「もうちょっと……こうしてて……」

「……うん。いいよ。久しぶりに甘えん坊さんのイニアだね」

「そう……私、メドリに甘えたいの……」


 メドリの胸に頭を預けて、目を閉じる。

 メドリを全身で感じれる。

 暖かい。


 メドリが頭を撫でてくれる。 

 キスも気持ちいいけど……こうやって頭を撫でられて、メドリのことを感じれるのも、すごい嬉しい。

 暖かいし……メドリが私を受け入れてくれてる感じがする。


「……ね」

「なーに?」

「イニアは私がなにしても嫌いにならないんだよね?」

「ぇ……うん。そうだよ……? メドリのこと……だ、大好きだから……」


 自分の顔が赤くなってるのがわかる。

 大好きって言う時は、やっぱり顔から湯気が出そうなくらい熱くなる。

 いつか、ずっと一緒にいたら慣れるのかな……?


「ん……」


 そんなことを考えてると、私の魔力が別の魔力に触れる。

 誰の魔力かなんてことは、考えなくてもわかる。

 メドリの魔力。


「メドリ……! ちょっと……!?」

「だめ……?」


 今度はメドリが甘える声を出す。

 そんな声されたら、断れないよ……!


「いい……けど、私またおかしくなっちゃっ……!」


 魔力が撫でられる。

 頭と一緒に撫でられる。

 また、理性が緩んできてる気がする。

 気持ちいい……!


「いいよ……おかしくなっても。おかしくなっても、私のこと好きでいてくれたら……」

「ぁ……んっ……! ぅ……ぁ……!」


 必死に声が出ないように我慢するけど、声が漏れ出てしまう。我慢しないと、快楽を我慢しないと、また……!


「……もう……強情なんだから……」

「っはぁ……ん……ぁ……ぅ!?」


 全身が熱くて、息がしにくい。

 そんな中で突然息ができなくなった。

 メドリが私の口を防いでしまったから。


「っ……! ぁ……ん……」


 くちょくちょという音がする。

 もう4度目のキス。けど全然慣れない。

 気持ち良すぎて、少しの保っていた理性が崩れ始める。


 メドリと目があったまま、長い間キスをしている。

 メドリが私を見てくれてるのがわかる。

 私の目にもメドリ以外写ってない。


 キス……やっぱりこれ癖になる。

 気持ち良くて、やめられない。

 メドリもきっと同じ。だから、今キスしてくれた。


 メドリと違うのはキスをされたり、魔力を弄られたりすると私は理性を失って、なにをしでかすかわからないこと。

 けどそれも、メドリが可愛いから……!


 あぁ……メドリ、可愛いなぁ……

 こんな風にメドリの視線を独占できて、メドリと見つめあえて、キスまでしてるなんて。


 ずっとキスしてたい。それ以上も……

 メドリともっと……もっと深く繋がりたい。

 メドリをもっと感じたい。


「っ、は……!」


 口と口が離れる。

 長らく空気を入れてなかった体が空気を求める。

 息が荒い。それだけじゃない。興奮してるから……


 メドリの息も荒い。

 メドリの目も私のことを見つめてる。

 興奮してる……


「イニア……」

「メドリ……」


 お互いの名を呼び合ってまたキスする。

 言葉はいらない。

 お互いがお互いを求め合ってる。

 甘えあってる。


 頭の中がメドリに染まっていく。

 やっぱり、好き……大好き。


 その時ピロロと通信魔導機の音がする。

 会話着信の呼び出しの音。

 暖かい思考が急激に冷めていく。


「…………もう!」

「あはは……タイミング悪いね」


 唇が離れる。

 もっとメドリとキスしていたかったのに……あわよくばそれ以上もしたかったのに……


「もしもし!?」


 思わず大きな声が出てしまう。

 邪魔されたことが嫌だったから。メドリとの時間を邪魔されたことが嫌だったから、つい攻撃的な口調になってしまう。

 ……今度からは通知オフにしておこう。


「あ、魔物調査の件ですけど……」


 魔導機の向こう側からは、この前の説明会の時に聞いた声が聞こえる。パドレアさんだっけ……


「とりあえずありがとうございます! 引き受けてくれて!」

「えっと……あ、はい」


 次第に興奮してた思考も落ち着いてきた。

 たしか、こっちの準備ができたら連絡するって書いてたっけ……これがその連絡かな……


「それで、なんですけど……隊長が……え? あ、はい」


 向こう側で誰かと話してるのがわかる。

 私もメドリと話して対抗しようかな。


「あー……とりあえず来て欲しいみたいです。今から来れますか……?」

「…………」


 どうしよう。正直行きたくない。

 もっとメドリを感じたい。

 もっとメドリに甘えたい。

 もっとメドリを求めたい。


「……もう、イニアったら……また、今度ゆっくり……しよ?」


 メドリが私の唇に指を当てて、そんなことを言う。

 かわいい……かわいいよ……!

 でも、でもまた今度なんて……


「ぇ……ぅ……」

「それに、キスぐらいならいつでもしてあげるから……ね?」

「……ぅ……わかったよ……」

「ありがと……ちゅ」


 軽く頬にメドリが口付けをしてくれる。

 それだけでも私の心は暖かくなる。


「あの……?」

「あ、はい。じゃあ……3時間後ぐらいに行きます。前の場所ですよね?」

「そうですねはい。よろしくお願いします」


 こうして私は、私たちは初出勤することになった。

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