第24話 このこを

 久しぶり……ってほどでもないけれど、この前来た階段まできた。相変わらず人通りは少なくて、少し怖い。魔物の王が出たから仕方ないのかもだけど……


 けれどやっぱりあれ以来魔物の目撃情報はないみたいで、私のように生物駆除者を辞める人も少ないみたい。もしかしてそんなに魔物が少ないなら、魔物調査って仕事もすぐ廃業になったりして……


 まぁ……その時はその時だよね。

 メドリと一緒だしきっと大丈夫。


「結構冷えるね……」

「うん……地下だからかな」


 少しづつ階段を降りていく。

 2度目の階段はまだ全然慣れてなくて、かなり怖い。何もないのかもしれないけど、ほとんど知らない場所だし、何かがあったらメドリを……私達を守れなさそうだから。

 不安だからメドリと指を絡ませる。強く繋がってる感じがして、安心感が強くなる。


「……じゃあ、開けるよ?」

「……うん」


 扉を開ける。

 そこは前も見た通路。だけど何かが違う……何が違うんだろ……?


「人の気配……?」


 人の気配がする。前回来た時はしなかった……

 どこ……? ぱっと見はいないように見えるけど……


「やあ!」

「わっ!」


 その声が後ろから聞こえた。

 後ろにはだれもいなかったのに……

 肩を叩かれたメドリが踊りた声を上げて、私の後ろに隠れる。私もメドリを庇うように、男の前に立つ。


「おっと! そんな警戒しないでよ」

「……突然現れて、驚かしてくる人を警戒しないわけには」


 それに私ならともかくメドリを驚かせた。

 メドリにはずっと安心してて欲しいのに……しかも、メドリの肩に気安く触れるなんて……!

 私の強い独占欲が顔を出してる。


「メドリは大丈夫?」

「う、うん。私は少し驚いただけでだから……だから、イニアもそんな怖い顔しないで? 私はどこにもいかないから」

「……そんな怖い顔してる?」


 メドリが私を安心させるように手を強く握ってくれる。

 メドリの存在を感じて、心が安らいでいく。


「うん……けど、ありがと。私を守ってくれて」

「……当然だよ。そういう約束だから……ね」


 それに好きな人……恋人なんだから。

 メドリと私なら確実に私の方が戦えるし、守ろうとするのは当然。


 メドリは私ほど警戒していないようで、それを見てると私も毒気を抜かれる。密かに仮起動状態にしていた身体強化魔法も同時に解除する。


「……そろそろいいかな? 僕の名前はコムト。よろしく」

「……よろしくお願いします」

「とりあえず僕が案内人だからさ。ついてきてよ」


 そういうと、私達の横を通り通路を進んでいってしまう。

 本当に信頼していいのかな……いや、このタイミングで出てくるってことは多分会社の人なんだろうけど……


「おいていくよー?」


 なんか……どことなくふざけてる感じがする。

 メドリに触れたのは許せないけど……別に悪意がある感じじゃないし……


「いこ?」

「……うん」


 メドリと手を繋ぎ直して通路を歩いていく。

 この前説明を聞いた場所を抜けて、パドレアさんが来た通路の方に入っていく。


「ここまで来たってことは、仕事してくれるって事でいんだよね? 仲間ってことで」

「……そのつもり……ですけど」

「だよね。じゃあこれから話すこと聞いたら、もう引き返せないけど、仲間だしいいよね」

「えっと……?」


 たしか前来た時は言えないことがあるみたいなこと言ってたっけ。それのことかな……?

 けど……引き返せないとか、ちょっと怖いな。


「じゃあまずは……」

「あ、あの。そんな危ないことなら聞きたくないんですけど……?」


 コムトさんが話そうとしたすると、メドリがそれを遮る。

 たしかに。私達が何のためにしてるかってのは正直気になるけど、それで私達に何かあったら嫌だし……


「……仲間になりにきたんじゃないの?」

「わ、私達は別に……危険なことは……」


 コムトが前の方で立ち止まる。

 なんだか雰囲気が変わる。

 

「……そんな覚悟で来たの?」


 途端にコムトの声が冷たくなる。

 コムトは少し前にいたはずなのに、メドリの目の前にいた。

 それに……動きが見えなかった……!


 コムトから敵意が現れる。

 メドリに対しての敵意が。


「メドリって言ったっけ? 困るよ。怖いから、危ないから、秘密を共有したくない? そんな覚悟じゃ、仲間を危険に晒す。君はもう帰ってよ。邪魔」

「……うるさい!」


 気付いたら叫んでいた。

 メドリとコムトの間に入り込んで、コムトと睨み合う。


 怒ってるのがわかる。全身がむかむかする。

 メドリは今にも泣きそうだったから、悲しそうな表情していたから。その原因を作ったコムトさんに怒ってる。

 私の中で今、敵として認識されている。


「……メドリの何がわかるんですか……メドリに謝ってよ!」

「イニアだっけ? 君もそっち側か? なら君もいらないや」

「私の話じゃない! メドリに謝ってくれなきゃ……!


 怒りに任せて、叫ぶ。

 こんな初対面の男にメドリが攻撃されたのが我慢ならない。

 メドリはたしかに怖がりかもしれないけど、私はそれが悪いこととは思ってない。メドリが好きだから。


 そんな好きな人を悪く言われて……邪魔って言われて黙っていられなかった。邪魔なわけない。私にとって1番大切で、1番必要で、1番求めている人。

 コムトさんの言葉を否定しないと精神が保てない。

 

「くれなきゃ……? 謝らなければどうする?」

「それなら……」


 蠢く魔力を押さえつけて、身体強化魔法を発動する。

 魔法に変換できなかった魔力が青い光になって漏れ出す。


「拙い魔法だけど……結構やるね。だけど、僕には勝てないよ?」


 コムトさんの魔力が動くのがわかる。

 やっぱりこの人すごい強い。

 魔力を動かすのがほとんどわからない。魔力操作がすごくうまい……それに沢山の魔法を待機状態にしてるのが辛うじてわかる。


 プレッシャーがかかる。攻撃されればやられてしまいそうだし、攻撃しても倒せそうじゃない。圧倒的な差を感じる。


 さっきメドリに詰めよる時も動きが早かったし、私じゃ勝てない。けど……今引くわけにはいかない。

 勝てないかもだけど、メドリを傷つけたこの人を許すわけにはいかない。


「い、イニア……いいのっ……!」


 メドリが私の手を引っ張って止めようとしてくれる。

 たしかに出勤初日から問題起こすのはまずいのかもしれない。それに、どうせ戦っても勝てない。

 それはわかってる……わかってるけど……


「だけど……!」


 感情がそれを良しとしてくれない。

 メドリを守る。守るって約束したから……


 逃げてもいいけど……逃げたら、メドリは言われっぱなしになる。傷つきっぱなしになる。それは……嫌。

 私の……私のメドリが……私が好きなメドリが……!


「やる気だね……!」


 動き続ける魔力を消費して、身体強化魔法を強める。

 コムトの中の魔力も高まっていくのがわかる。 


「あー! はいはいはい! そこまでです!」


 今にも魔力発散機を持って、攻撃を仕掛けようとした時、通路の奥から声が聞こえる。

 パドレアさんの声。


「どうしていきなり戦おうとしてるんですか!? あ、またコムトさんが何か言ったんでしょ!?」

「いや、こいつが……」

「いや、じゃありません! イニアさん達は初めて何ですから! もう……私が引き継ぎます!」

「いや……でも……」


 何だかさっきまで強気だったコムトさんがパドレアさんに押されている。どう見てもコムトさんの方が強いのに……もしかしてパドレアさんの方が強かったりするのかな……

 いやそうじゃなくて。


「だからメドリに……!」

「いいよ……いいよ、イニア……!」


 さらに突っかかろうとした私を、メドリが手を引いて止める。メドリの目には涙が浮かんでたけど、顔が悲しさより嬉しさが見える。


「え……で、でも」

「いいの……イニアはこんな私でもいいんでしょ……?」

「す、好きだけど……」

「ならいいよ。イニアがそう言ってくれるなら」

「そう……?」


 メドリがそういうなら、何も言うことは……ない。

 でも、このコムトさんとかいうやつは嫌いになった。メドリを傷つけようとするやつは嫌い。メドリが大切だから。


「はいはい。じゃあコムトさんは部隊の訓練でもしといてくださいよ……えっと、じゃあ私が案内するので……」


 コムトさんは少し気怠そうにどこかに歩いていく。

 そこにはさっきの圧はなかった。

 ……正直もう2度と会いたくない。


「イニア……私のこと嫌いになってない……よね?」

「うん。メドリのこと大好きだよ?」


 メドリを抱きしめて、紫髪を撫でる。

 やっぱり不安なのか、悲しかったのか少し泣いていた。

 私は泣いているメドリを撫でで、泣き止むまで待っていた。


 こうやって撫でてる時はすごく幸せで、メドリが私に甘えてくれることがすごく嬉しい。

 あぁ……暖かい……

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