第25話 そしきに
「えっと……そろそろ……?」
泣いているメドリの頭を撫でていたら、パドレアさんが気まずそうに声をかけてきた。……正直メドリのことで頭がいっぱいで、半分ぐらい忘れてた。
「あっ……! ご、ごめんなさい!」
メドリが顔を真っ赤にして、私の胸の中から出て行ってしまう。けど……恥ずかしがってるメドリもかわいい。
「いえ……メドリさんは大丈夫ですか? きっとコムトさんがなんか言ったんでしょう?」
「そうですけど……もう大丈夫です……」
真っ赤なまま、私の方を見てる。
泣いた影響で少し晴れてるけど、大丈夫そう。
手を繋ぎ直して、指を絡ませる。
「コムトさんも悪い人じゃないんですけどね……この組織に外部の入るのは初めてなので、慣れてないんですよ」
「やっぱり初めてなんですね」
やはり通信魔導機で調べても情報がほとんど出てこないのは、初の募集だったから。設立したてなのかな。
……その割にはこんな地下にこんな空間を作れてるなんて。すごいお金がかかりそうだし……それに国の許可とかいるんじゃないの?
「で、それでなんですけどね。仕事の話なんですけど」
「あ、はい。でも……聞かない方がいいことなんですよね……? それなら別に……」
知りたいか知りたくないかでいえば、そりゃ知りたいけど、無理して聞くことでもない。知ってるだけで危険なこと何てあるのかは知らないけど。
「いえ、そんなことはないですよ?」
「え……? いやでもさっき、聞くと引き返せないとか何とか言ってましたよ?」
「あー……多分それコムトさんの嘘ですね。多分ですけど……イニアさんとメドリさんの気持ちを試したんだと思います。すいません」
……試すって。試すってなに?
どれぐらいまでこの組織への想いがあるかってこと?
それでだめだったから、メドリを傷つけたってこと?
あの人……やっぱり嫌い。
「コムトさんは、少し仲間を大切にしすぎなところがあるんですよ。仲間の中の輪を壊さられるとでも思ったんでしょうね……ほんと、すいません」
「…………そう、ですか」
仲間を大切にね……少し、ほんの少しだけど共感してしまった。私がメドリをなによりも大切に思ってるのと、似てるかもって思ってしまったから。
「えっと、じゃあその秘密? ていうの聞いても大丈夫っていうか……なにもないんですか?」
メドリがパドレアさんに問いかける。
「そうですね……守秘義務ぐらいですかね。じゃあ、早速説明していきますね」
守秘義務……まぁそれぐらいなら……
けど……秘密ってそんな大したものなのかな。たしかにこの会社は不思議な点がいくつもあるけど。
「まず……ここは会社じゃないです」
「……え?」
いろんな想像をしてたけど、そんな思考は吹き飛んだ。
思考が固まってる。
「会社じゃなくて、国の秘密機関ゲバニル。特殊な事態から国を守るためにあります。例えばこの前の魔物襲撃は」
「ちょ、ちょっと待ってください」
え、え? どゆこと?
いきなりの急展開に脳が追いつかない。
しかも国の秘密機関って……もしかして、なんかとんでもないところに入っちゃった? 本当に大丈夫かな……
「それでですね……」
そしてパドレアさんは私達に一通り話してくれた。
もちろん全部じゃないだろうけど。
話してる間、私達はこの地下通路を歩いていたけれど、そこにもいろんなものがあった。
武器庫や訓練場、食糧庫、研究所、何かを加工していた部屋、寝床……本当に色々あった。
それにいろんな人がいた。遠目で見ただけの人もいれば、話した人もいる。
けど、多くはなかった。
せいぜい全員合わせても15ぐらいだと思う。
その人手不足が組織の求人を出していた理由だという。
この秘密機関ゲバニルは少し前の戦争の終戦時にできたらしい。ラムダ国とイコ国の戦争が終結して、今のメコアムス国になる時、戦争で特に強力だった人を集めた組織ということらしい。
国の緊急事態への対処や、国家転覆を企む組織の殲滅、強力で大きな被害が見込まれる魔物の排除などをしてるらしい。この前の魔物の王の時も出てきてたんだとか。
パドレアさんはその中の研究者で、魔法理論の研究などが仕事みたい。戦争でその魔法が使われ、その功績を見たゲバニルのボスが引き抜いたらしい。
「私の魔法が人殺しに使われたのは、正直嫌ですけど……私の魔法のおかげで守れた人がいるなら、それでもいいかなって思ってます」
パドレアさんはそう言った。
その横顔は複雑そうだが、確かな誇りを持ってるように見えた。
……想像もつかない。戦争ってどんな感じだったのかな。
私達生まれる……15年前だっけ。
怖い……けどそのおかげで今があるんだものね……
もし戦争がなくて、ラムダ国とイコ国で別れていたら……老いを克服することも、魔力の最適化も、魔導機の発展もなかったのかもしれない。
「……そんな感じですかね。この組織については」
一通り見終えたあと、休憩室に入る。
机と椅子、あとは飲料ぐらいしか置いてないけど。
「ええっと……情報が多すぎて……メドリはわかった?」
「ううん……想像もしてなかったから……」
……こんな都市伝説みたいなこと知らされて、本当に大丈夫なのかな。口封じに殺されるとかないよね?
怖くなってきた。
「はは……まぁそうですよね」
パドレアさんが相槌を打つ。
……というかこの話も本当かどうかわからないよね……いや、地下にこんな巨大な基地を作ってる時点である程度信憑性はあるけど……
それに他の場所にも同じような基地があるらしい。
ここはその中で大きいほうらしいけど、小さくてもこんなのがたくさんあるなんて……
「で……それでなんですけど。メドリさん達に頼みたい魔物調査なんですけど……」
「あ、はい……それでここにきたんですもんね」
衝撃の情報が多すぎて忘れかけてたけど、私達には極論関係ない。私達は魔物の調査をして、お金を貰って、2人でいる。そのためにここにいるんだから。
「詳しい説明は、隊長からなんですけど……あ、来ましたね」
休憩室の扉が開かれ、青年が入ってくる。
けれど、それが人には見えなかった。人というより魔力のように見えた。魔力がそのまま歩いているような……
「隊長、魔力漏れてますよ」
「あ、ごめん。さっきまでメムナと訓練してたから……」
「自分で呼び出しておいてそれですか?……えっと、じゃあ私がこれで。またわからないことがあったら聞いてください」
パドレアさんはそう言って、立ち去っていった。
……聞くって言ってもどうやって聞くの? 研究所に行けば、会えるのかな。
「よいしょ……じゃあ、どこまで話したのかな?」
青年が机を挟んで、私達の前に座る。
さっきのような魔力は感じれない。完全に引っ込めれるみたい。
……こう見ると一見ただの青年だけど、さっきの魔力に見えるぐらいの魔力量もそうだし、隊長という呼ばれ方して……多分すごい人だと思うんだけど。
「あ……その、この組織の成り立ちぐらいです」
「ふむふむ。じゃあ、魔物調査の話だよね?」
そういうと、隊長さんは机に手を置く。魔力が動いてるのがわかる。ほんの少ししか感じれない。この人も魔力操作が上手い。
机は魔力を検知すると、机の上に画面が現れる。
これは……地図? この国の地図みたいだけど。
「とりあえず、こことここだね」
そういうと、地図上の2点が光る。
「ここに行って、魔物の存在の確認、いるならどんなやつかとかを調べてきてほしい。できれば危険そうなら排除までしてほしいが、ま、できたらでいいよ」
「なるほど……えっと、それ誰でもできますかね?」
たしか、求人広告には誰でもできるって書いてたはず。
倒さなくてもいいとはいえ、どんな魔物がいるかもわからないし、結構危険なんじゃ……
「できないかもね。だけど、できるようになる。これからね」
「え……?」
「俺たちが鍛えるんだよ」
えぇ……やっぱりくるとこ間違えたかも。
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