第26話 このさき
「鍛えるって言っても、そんな難しいことをするわけじゃない。魔導機の使い方や、危険への対処、そういうのを教えるだけだからね」
……それを難しいっていうんじゃないの?
頭良くないとできなさそうだし……
早々学校を辞めた私なんかにできるのかな。メドリはできるかもだけど……
「まずはだけど、君たちがなにができて、なにができないのか。つまり君たちのことだね。それを知らなければ、やりようもないからね」
メドリと目を合わせる。
困惑が目に浮かんでる。
ほんとに、鍛えるの?
ていうか鍛えるってどうやって?
いや、それを聞かれてるのかな……どうしよう。
「じゃ、早速質問だけど……あ、忘れてたよ。自己紹介ね」
そういうと隊長さんはいきなり立ち上がり、魔力を身体の周囲に円になるように配置する。
「俺はゲバニルの実働部隊の隊長、アイン!」
アインさんは手を頭上に掲げてポーズを取る。それと同時に魔力が魔法に変化し、小さな火花になる。
魔力は、アインさんが照らされる演出だったみたい。
「……どうだった? 俺の自己紹介。結構インパクトあるでしょ?」
「え、あ、まぁ、たしかに……はい」
「そうかな……?」
思わず本音が漏れてしまった。
メドリが驚いたように私を見る。それでお世辞ってやつだと気づいた。しまった。
でも……言葉を飾らず言うなら……正直微妙だった。
たしかにインパクトはあったけど、なんだかそこまでする? みたいな感じがある。いや、さっきみた魔力から考えたら、あんな魔法なんて児戯なのかもしれないけど。
「あはは……微妙かな。メムナのいうとおりだったね……で、君たちは?」
アインさんは座り直して、私達と向かい合う。
ついでに机を少し叩いて、机の地図が消え普通の机に戻る。
「あ、はい。イニアと言います。で、こっちはメドリです」
「よろしくお願いします」
「うん。よろしく。で、なんだけど」
自己紹介を終えると、アインさんはいろんなことを質問した。答えられるものも、答えたくないものも、答えれないものもあった。
今までやってきたこと。
交友関係。
特技。
苦手なこと。
とかとか。
「ふむふむ。うん。おっけ。イニアは戦えるんだね」
「はい……多分、それなりには」
これでも一応、生物駆除者だったし。
その中でもそれなりに強いほうだったと思う。複数人でなら、私と同じような強さの魔物を倒してる人なんてたくさんいたけど、1人なのは少なかったし。
けど……
「けど、今は難しいです……」
「どうして?」
アインさんが不思議そうな目をする。
「その……私、魔力多動症で前までは大丈夫だったんですけど、最近悪化しまして……」
「大丈夫なのか?」
あれがもう3ヶ月ぐらい前になるんだ……
なんだか時間の流れが早い気がする。
あの時はすごいしんどかった気がする。
余裕がなかった。苦しくて、気持ち悪くて、うるさくて。
メドリにも……あたってしまって。
でも。
「その、今は大丈夫なんです」
「それは、鎮静剤かい?」
アインさんが問いかけてくる。
メドリを見る。
「いえ、メドリといるからです。メドリといると大丈夫です」
メドリがいれば、私は大丈夫。
一緒にいれば安心するし、心地いいし、楽になる。
メドリのことが好きだから……大好きだから一緒にいれば、それで何もかもいい。一緒にいれれば。
「それは、なんていうか……珍しい例だね」
「だから、私1人じゃ戦えません……でもメドリは」
「戦うのが得意じゃない、なるほど……」
正確には多分数秒なら、メドリが急にいなくなっても動けるとは思うけど。たった数秒じゃ何もできない。
メドリがいなくなる……メドリを感じれなくなると、多分もうだめになる。動けなくなって、うずくまって、何もできなくなる。
「私も戦えたらよかったんですけど……だから、せめてイニアをサポートできるようになりたいって思ってて……」
メドリが口を開く。
その言葉に心が温かくなる。
メドリが私のために、何かをしたいって思ってくれてる。それがすごい嬉しい。
「そうだね。ある程度の魔物は倒せるようにはなっておいてほしいから……うん。そういうことなら、メドリはパドレアとかに魔法理論を教えてもらうのがいいかな、あ、でも」
「はい……私達離れたくないので……その……」
メドリがそんなことを言ってくれる。
離れたくないって……一緒にいたいってことだよね……
嬉しい。顔が熱い。
よく言ってくれるけど、こんなふうに第三者に言ってるのを見ると、普段とは違う嬉しさと恥ずかしさがある。
「そうだよね……じゃあ、とりあえず当分は魔法理論や基礎知識の勉強といこうか。それでその日程なんだけど」
そんなこんなで今日の話は終わった。
仕事……というか勉強のために、基地に来るのは週4日。3日は休み。
あとは通信魔導機ももらった。
基地に入るための鍵も兼ねてるらしい。
これがあるといろんなところの昇降機や階段がつかえるようになるのだとか。
今日きた階段も普段は偽装で見えなくなってるらしい。今日は特別に解放してると言っていた。
家に1番近い昇降機に乗って帰る。
これからはここを使おう。
「なんか……すごいことになっちゃったね」
「そうだね……まさか秘密機関だったなんて……」
メドリと手を繋いで、昇降機が上がっていくのを眺める。
メドリの体温を感じる。
「でも、やることは言われてたとおりだし……多分、大丈夫だと思うんだけど……」
「うん。それに、私もイニアの力になれるかもしれないし……」
メドリが私の方を見て、決意を固めるようにいう。
私としてはメドリがいるだけで、私の大きな力になっているし……そんな焦らなくてもいいと思う。けど、何かをしようとしているメドリは、すごく……綺麗。
「な、なに?」
「ううん。嬉しくて。ありがと」
「そんなの……だって……」
メドリはそこで言葉を区切って、恥ずかしそうに俯く。
頬にほんのり赤くなってる。
「こ、恋人……なんでしょ? 私達」
「う、うん」
私も恥ずかしい。
やっぱり……まだ慣れない。
メドリが……私の好きな人が、大好き人が、私と恋人同士で言ってくれる。私と両思いって言ってくれる。好きな人って言ってくれる。
心が揺れて、全身が熱くなる。
けど……少しも不快感はなくて。
「好きな人のためだもん……イニアと一緒にいたいから……」
「うん……私も一緒にいたい」
「あ、でも……」
突然メドリの声色が変わる。
少し悲しいような怒ってるような声。
「あの時……最初にコムトさんだっけ……にあった時、イニア、戦おうとしたでしょ?」
「え……あー、うん……その……」
あれはメドリのことをわかったかのように責めたコムトが許せなくて……パドレアさんが止めてくれたからよかったけど、多分戦ってたら勝てなかったと思う。
「私のためでしょ……?」
「そう……かもだけど、私が怒ってたのもあるよ?」
「私……ああいうの……もう気にしないから、危ないことしないで……? それより……私のそばにいて?」
メドリが私の手を強く握る。
不安そうに震えてる。
「私、イニアがいてくれたら、大丈夫……だから、危ないことはしないで?」
「ご、ごめん……わかったよ」
「……ありがと」
震えるメドリに手を強く握り返す。
震えが止まるように。ずっと離さないように。
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