第22話 もとめて

 暗闇の中から意識が戻ってくる。

 メドリの顔が目の前にある。寝ているみたい。

 まだ夜……夕方に寝てしまったのかな……?


 けど、なんか記憶が飛んでる。なんか重要なことがあったような……

 えっと……たしか……メドリが私の魔力を触って……


 そこで思い出す。

 全身が熱くなるのを感じる。


「ききき、キス……しちゃった……」


 口に出してみると余計恥ずかしい。

 メドリの顔がまともに見れない。


 くちょ……


「ぅう……!」


 初めての口づけ……その感触が鮮明に思い出す。

 舌と舌が絡まって、唾液が混ざり合って……

 痺れに似た快楽が全身を貫いて……


「ぁあ……ぅ……!」


 なんであんなことしてしまったのかな。

 なんか魔力にメドリの魔力で触られて、思考が弱くなっていた気がする。それで、なんでキス……!?


 私から求めてた……はず。

 そんなにメドリと、その、キスしたかったの……?


 はしたない子って思われたら、どうしよう……嫌われてないよね……? というか……メドリも結構乗り気だったような……


 指で唇に触れる。

 ここにメドリの唇が触れてた。唾液がまとわりついてた。


「ぅぁ……!」


 悶える。

 恥ずかしい。


 けど……すごく気持ちよかった。

 正直もっと……したい。

 ……今なら、メドリは寝てる。


 咄嗟に思いついたことを振り払うように、首を動かす。

 でも、その思考は簡単には離れてくれない。


 少し……少しぐらいならいいかも……

 ほんの少しなら、メドリも起きないと思うし……

 それにほら、この前耳を食べられたのお返しだから……


 ゆっくりと顔を近づける。

 メドリを起こさないように。静かに、そっと。

 目を閉じる。


「……ぅうん……イニア……?」

「……!」


 今までにないぐらい身体は高速で動いた。

 早く、でも静かに距離を取る。


 危なかった……メドリが寝てることをいいことに襲いそうだった。理性が弱くなってる気がする。きっとさっきのせい……さっきのキスの……


 また顔が熱くなる。

 ぅう……もうメドリの顔を素直に見れないよ……


「イニア……」

「な、なに?」


 メドリはまだ完全には目覚めてないみたいで、半分が目が開いてない。眠そう。

 ……メドリはさっきのことどう思ってるんだろ……


「……キスしないの?」

「へぁ!?」


 思わず大きな声が出てしまう。

 いきなりメドリがキスとかいうから、心がびっくりしてしまう。

 メドリも赤くなってる。やっぱり恥ずかしいんだ……


「今……しようとしてたでしょ……?」


 バレてる。


「ぅ……ん」

「次はイニアから……して欲しいな」


 なにこれ!

 なにこれ、メドリがいつもの数倍かわいい!


 顔を赤くして、私にキスをねだるメドリが可愛すぎて、理性が保てない。私も、私だって。


「……ん」


 気付いたら、メドリに口づけしていた。

 2度目の……キス。


 お互いの中で呼吸をする。

 お互いの空気を交換する。


 舌をメドリの口の中に入れる。

 メドリの口を侵していく。


 メドリと目が合う。

 夢中でメドリの口の中を味わう。

 無言でお互いの舌の味を、唾液の味を交換して味わう。


 いろんなものが見えてない。

 見えてないけど、メドリの目だけ見える。

 メドリが見える。メドリが私のこと見てくれてる。


 あぁ……私今……メドリとキスしてる。

 少しづつ全身から力が抜けていくのがわかる。

 快楽が私の身体を突き抜けて、私の思考力を奪っていく。

 唾液が口端から漏れる。


「ん……ぁ……」


 ちゅぱ……じゅ……くちょ……


 音が、音がする。

 音が私の中から、頭の中に響いてる。


 これすごい……これ……気持ちいい。

 快楽の渦が私の思考を支配する。


「ん……は……」


 どれぐらいそうやっていたかわからない。

 けどずっと……長いことキスをしていた気がする。


 空気が足りない。

 ずっとメドリに口を防がれてた……私が防いだんだった。

 私から……キスしてしまった。


 ……これ、癖になりそう。

 キスするたびに、舌が絡まるたびに、唾液を舐めるたびに、快楽が私の身体を突き抜ける。その快楽が今も残ってる。


「顔真っ赤だよ?」

「仕方ないじゃん……それをいうならメドリだって」


 メドリの顔は耳まで真っ赤に染まってる。

 多分私も。すごく顔が熱い。


 すごい恥ずかしい。

 キスなんてしたことなかった。ましてやこんな風に舌を誰かと絡ませたことなんて、なかったから。


 こんなに気持ちいいなんて知らなかった。

 キスしただけでこんな気持ちになるなんて。

 こんな幸せな……満たされた気持ちに。


 でも、多分これはきっと、メドリと繋がってたから。

 キスがいいんじゃない……メドリとキスするのがいい……

 あぁ……やっぱり私……


「メドリ……好き。大好き」

「ぅ……だから不意打ちは……!」


 たださえ赤い顔がさらに赤くなる。

 かわいい。

 すごい……好き。


 欲しい。メドリが欲しい。

 メドリと一緒にいたい。

 メドリに私を求めて欲しい。


「メドリ……ねぇ……私、メドリのこと好きだよ……?」

「う、うん。知ってるけど……」


 メドリに少しづつ近く。詰め寄る。

 メドリが近づくにつれて、私の理性が弱くなっていくのがわかる。本能が強くなっていってる。止められない。


「メドリは……? メドリは私のこと、好き?」

「……好き……だと思うけど……」


 好き……好き……

 その言葉が頭の中で反芻する。

 私はメドリのこと好き……

 メドリは私のこと好き……


「な……なら、両思いだよね……?」

「そう……だね」

「じゃあ私達……その、こ、恋人かな……?」

「恋人……!?」


 それとも夫婦?

 2人とも女だし婦婦?

 私達って……どういう関係なんだろ……?


 でも、お互い好き同士なら……恋人なんじゃないの?

 友達としての好きかも……でもそれなら、キスなんてしないよね……? 友達はメドリしかいないからわからないや。


「たしかに……恋人になるのかも。で、でもどうしたの?」

「その……メドリは私との関係どう思ってるのかなって……」


 私はキスまで許されて、両思いだし……恋人かもと思ってるけど……メドリも同じように思ってるかはわからない。

 もしメドリに拒絶されたら怖い……でも確かめずにはいられなくて……


「恋人……っていうのが何かはわからないけど……私も……その、イニアのこと好きだし……1番大切だから……なんていうか……」


 メドリが言葉を選んでる。

 私のために。私の要求に応えるために。

 かわいい。


「1番大切……?」

「え、うん……そう、だよ?」


 顔を真っ赤にしながら、メドリが答えてくれる。

 かわいい。好き。

 あぁ……欲しい。メドリが欲しい。


「なら……私だけ見てて欲しい。私だけを……私以外の人を見ないで……? 私だけを求めて……?」

「……独占欲?」

「……うん」


 メドリに私だけを見てて欲しい。

 私以外の人を見てるところを想像するだけで、嫉妬で狂いそうになる。メドリの目には私以外の人が写って欲しくない。

 

 すごく身勝手で、自分勝手な独占欲。

 言わない方がいいのはわかってる。わかってたはずなのに。

 私の口が私の思い通りに動いてくれない。


 私の理性はメドリを見ていると、いつのまにか何処かに行ってしまった。キスをして、顔を赤らめてるメドリがかわいいから。

 私の中の独占欲が強くなって、本能が私を支配してる。

 メドリを求める心が。


「……うん。わかった。ずっとイニアを見てるよ」

「……いいの?」

「いいよ。だって、私達……その恋人なんでしょ? ううん。きっとそれ以上だよ。ずっと一緒にいるんだから……そうでしょ?」

「うん……」


 メドリが私に覆いかぶさる。

 メドリの目に私が写ってる。

 メドリが私を見てくれてる。


「私も不安だけど……今はイニアと一緒にいたいって思ってる。イニアを感じたいって……イニアに触れたいって……」

「ほんと……?」


 わかってる。その言葉に嘘がないことくらい。

 けどそうやって確認しまう。


「イニアは……私がイニアのこと嫌っても一緒にいてくれるって言ってくれたよね?」

「……うん。約束した」


 ずっと一緒にいる約束。

 今思えば少しストーカーっぽいかも。

 だけど、本心。メドリを求める心の。


「私は約束とかはできないけど……不安なことばかりだけど……そう言ってくれたから、私……イニアを信じてるから」

「メドリ……」

「一緒にいてくれるって信じてるから。イニアが私のこと……その、好きでいてくれるって信じてるから……そんな人から目を離すなんて、できない」


 メドリが私の目を見る。

 私の手はメドリに掴まれてる。

 振り解こうと思えばできるけど……身体が拒否してる。

 メドリに支配されてる……メドリが私のこと……求めてる。


「好き……好きだよ。イニア」

「ぅ、うん。私も……私も大好き」


 3度目のキスをした。

 甘い……甘くて、気持ち良くて……長いキスをした。

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