第69話 こんどは

「ん……」


 泣き疲れたのか、寝てしまったメドリの頭を撫でる。突然泣き出してしまったメドリを慰めるように撫でているうちに、私の意識はほぼ完全に覚醒してしまった。こんな風にメドリの寝顔が見れるなら、それでもいいような気もして来るけれど。


 メドリの上に覆いかぶさっていた身体をずらして、隣でメドリを見つめる。メドリの紫髪を手ですくう。綺麗な紫髪。

 食べたい……美味しそう。少しぐらい口に咥えても……バレないかな? 起こさないようにそっと……咥えるだけだから……はむ。


「……ぅぁ……」


 ……大丈夫かな? 起きてないよね?

 これぐらいにしとこう……メドリにゆっくり寝ていて欲しいし……寝顔をこうやって眺められるだけ、特等席なんだし……

 うぅ……でも離したくない。けど、起こすのは……メドリはすごく頑張ってくれたし……


 メドリが勇気を出して、ナナちゃんを助けるために動いたことを知っている。最初だって一緒についてきてくれたし、途中から記憶が曖昧だけれど、目が覚めたらナナちゃんが近くにいたし、メドリもいてくれた。


 結局私はなんの役にも立たずに、メムナさんに助けてもらったけれど……それでもメドリが頑張ったことに変わりはない。メドリが行かなければ、もっと悪いことになっていたと思う。

 私が目を覚ました時にはメドリの電撃の残滓がそこら中にあった。実験用の魔導機が破壊されていたし、きっとメドリがナナちゃんを少し助けてくれたんだと思う。


 メドリがいてくれたから、私も病気のことを気にせず動けるし、それになんだかメドリがいてくれるだけで安心する。メドリが私を見てくれてる、メドリを守れるって思えるだけで、力が湧いてくる。


 やっぱりメドリはすごいよ。メドリは自分のことをそんな風には思ってないかもだけれど、私は知ってるよ。メドリはすごく優しいし、助けてくれる。

 私のそばにずっといてくれたことがそれを物語ってる。こんなわけわからない病気持ちの私の。それも……私の好きって気持ちを受け入れてくれる。


 どんどん好きになっちゃう。たださえ、大きな気持ちがさらに大きくなるのがわかる。特に……私が怪我をした時の、私を心配する目……あれは良かった。メドリに言ったら怒られそうだから言わないけれど……あんな風に私をすごく心配してくれて……思い出すだけで、ぞくぞくする。


 あの目は私だけを見ていた。私以外のことが目に入ってなかった。それがすごく良かった……でも、メドリには心配して欲しくないから、もう見なくていい……わけじゃないけど。できるなら見たいけれど……メドリを心配させてまで見たいものでもない。


 メドリはすごい人だから、メドリを好きになる人は沢山いる。だからその気になれば、私から離れることだって……だからこそ、私だけを見つめてくれる時はすごく好き。メドリが私を支配してくれる時なんて……もうたまらない。

 メドリが私を選んでくれてるって感覚が、メドリの思考を私が占領してる感覚が、ひどく好きで……


 なんか……好きって気持ちが大きくなるたびに、どんどんこの気持ちの欲望が酷くなってる気がする。最初は友達としてでもいいから一緒にいたかった。

 それがメドリのことが欲しくなって……選んで欲しくなって……なんというか醜くなったというより、化けの皮が剥がれていってるというのかも。


 多分調子に乗ってるんだと思う。

 私がどんな気持ちをぶつけても、メドリはそれを受け入れて優しく包んでくれるから。いつか嫌われてしまうかもって思うときがないわけじゃないけれど、一度受け入れられる快感を覚えた私の心は留まることを知らない。


 けど、もしも受け入れられなくても……私はメドリを嫌いになんてならない。そりゃショックだろうけれど……私はメドリのことが好きだから。メドリがいてくれる、ただそれだけで私はすごく幸せになって、嬉しくなる。


 だからメドリがいなくなるのが1番怖い。私のそばから離れるだけならまだいい……いやよくはないけれど、死んじゃうよりは何億倍もまし。

 その恐怖が戦いの場では心を占めることが多い。そのせいでメドリのお願い聞けなかった。ほんとは聞きたいけれど……そのせいでメドリがいなくなる方が怖いから。


 イニアにとって邪魔だからでしょ……


 メドリの言葉を思い出す。

 できれば見ないふりをして、気づかないふりをしたかった言葉。私を責めるように見えて、メドリは自分を責めていた。それがたまらなく辛い。


 私じゃその苦しみを取り除けなかった。メドリに辛い思いや、苦しい思いなんてして欲しくないのに。けど、どうすればよかったのかなんて今もわからない。

 メドリから離れずに戦うなんて無理だし、逃げるという選択肢もなかった……わけじゃないけれど、ナナちゃんのことも心配だったし、それにメドリも守りたかったし……


 ……わかんないや。

 メドリが1番大切で、どんなものと比べてもメドリに必ず傾く。でも、メドリの安全と、メドリのお願いだとギリギリ安全に傾く。


 私が弱いから。メドリのお願いを聞きながら、メドリの安全を確保する強さがないから、その2つを天秤に乗せる事になってしまう。

 一応……その2つを同時に達成しやすい方法がなかったわけじゃない。ナナちゃんを助けにいくのをゲバニルの人に向かせて、どこか安全な場所に隠れていれば良かった。けどそれはできなかった。


 それはメドリが罪悪感を持ってしまうという思考もあるし、イチちゃんとナナちゃんを助けるって約束のこともあるし……何より、私のわがまま。

 ただ2人を助けないと、私の心が苦しくなりそうだったから助けたかった。ただそれだけ。そのわがままをメドリは認めてくれたって思ってた。


 いやきっと……認めてはくれてたと思う。けど同時に、不安だったんだと思う。私の気持ちが離れていかないか。メドリは不安になりやすいから、すごく怖かったのかもしれない。私がメドリのことを好きじゃなくなるんじゃないかって。

 そんなことはありえない……けど、それをメドリは疑ってしまったのかもしれない。不安になってしまったのかもしれない。私がその度に安心させてあげるって約束したのに。


 あぁ……そっか。

 私、また沢山約束を破っちゃったんだ。

 ごめんねメドリ。私も不安だから……メドリがいなくなるんじゃないかって怖くなっちゃって。でも……ありがとう。さっき起きた時、メドリが隣にいてくれて、私すごい嬉しかった。


 身体に触れても、拒絶されなかったし……すごい嬉しかった。まだメドリは私のこと好き……かな? 約束破ってばっかりの私だけど……好きでいてくれるのかな。


 確かめたくなる。

 メドリを起こして、好きって言い合いたい。言って欲しい。好きって伝えたい。メドリがまだ不安に思ってるのかはわからないけれど……もしかしたらもう好きじゃなくなってるかもしれないけれど……好きって伝えたい。


 メドリは自分が私にとって邪魔で足手纏いって言っていた。そんなことは全然ないのに。それが伝わってなかったわけじゃないと思うけれど、そう思ってしまったんだとしたら、私のせい。

 だから、好きって伝えて、今度はもっと一緒に進んで行きたい。私も勇気を持つよ。覚悟も持つ。メドリが危険なところにいても絶対守るよ。私だけで前に行ったりしないよ。

 メドリ、だから……だからまだ一緒にいてね。ずっと一緒にいてね。

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