第6話 たたかい

 旧マドル国壁跡は観光地らしくお土産屋や宿泊施設がそれなりにある。遠くには大きな壁がある。ところどころ穴が空いてたりするけれど。

 あそこらへんに昔は黒い霧があって入れなかったのかな……どんな感じなのかな……


「じゃあ、どうしよっか」

「そうだねー、とりあえず歩こうよ」


 目的もなく歩き出す。

 観光地や、店を意味もなく回っていく。けれどそれが楽しい。メドリと一緒に歩いてるだけで楽しい。

 なんだか……こうしてると昔に戻ったみたい……


 昔もこうやって2人でいろんなところに行った。近くの公園とか、本屋、それにゲームの中でも。いろんなところを冒険した。

 あとは……そう……たしか昔は……


「……どうしたの?」

「昔はこうしてたなって思って」


 メドリの手を握る。

 手を繋いで歩く。

 そうやって2人で歩いてた。


「そうだね……もう何年前だろ……10年以上前かな……」

「うん……あれからずっと友達でいてくれたよね……」


 そうじゃなかったら、私は今頃どうなっていたかわからない。鎮静剤に溺れていたかな……それとも、仕事もせずにどこかで死んでいたかな……


「当然だよ。それにイニアが私と友達でいてくれたからでもあるんだよ?」

「そうだね……うん。メドリがいてくれてよかった」


 本当に……本当にそう思う。

 メドリがいなかったら……メドリじゃなかったら……どうなってたかな……想像もできない。


「うん。私もイニアといれてよかったよ」


 嬉しい。

 けれど……だからこそ、私早くこの病気に慣れないといけない。ずっとメドリの力を借りるわけにはいかない。1人でも大丈夫なようにならないといけない。


 でも……


「うわぁ……色々あるね」


 メドリの横顔を見る。

 笑って楽しそうにしている顔。


 それが好き……いつかは1人でも大丈夫なようにならないといけないけど……今ぐらいは……


 メドリが私の方を振り向いて目が合う。


「どうしたの?」

「ううん。そろそろ暗くなってきたら、泊まるとこ行こ」

「そうだね」




「じゃあ……そろそろ行ってくる」

「うん……気をつけてね。辛くなったら連絡して」

「ありがとう。じゃあ……」


 夕食を食べて、いつもならまだ少しごろごろしてる時間に外に出る。けれど今日は依頼のために外に出る。


「はぁ……」


 動き続ける魔力を無理やり制御して、身体強化を発動する。

 地面を蹴って目的地を目指す。


 今日の依頼は壁跡の中に住み着いた魔物の駆除。

 領域系の魔法を使うタイプで、あたりが浸食されて、観光業にも影響が出てるのだとか。


「ここ……」


 壁跡の近くまで来ると、なんだか変な感じがする。

 魔力が薄いというか……


「ううん」


 そんなこと言ってる場合じゃない。

 急がないと。


 身体強化魔法のレベルはまだ低めにしてるけど、それでも魔力はどんどん減っていく。こんな場所で魔力切れになったら、死んじゃうし、とっとと倒して帰ろう。


 それにまた急に魔力がうるさくなり始めたりするのも怖い。魔法発動中だし多分大丈夫だと思うんだけど……


 壁の中は通路のようになっていた。

 そしていろんなものがある。誰かが生活していたような跡も。壁にはところどころに穴が空いている。


「……」


 穴から見る壁の内側にはなにもなかった。

 荒野が広がっていた。何もない。人が住んでた場所とは思えない。


 ほんの少し草とかはあるみたいだけれど……相当魔力が少ない場所みたい。黒い霧があった影響かな……


 通信魔導機の地図を見ながら進んでいく。

 ところどころ崩落してたりするところも恐る恐る進んでいく。いきなり崩れたらどうしよう。


 そろそろ目撃情報のあった場所……準備しておこう。

 魔導機を取り出して、警戒しながら進んでいく。


 今回の対象は領域系の魔法から見るに、マドリアリス種という説が濃厚らしい。強力な毒性を撒き散らすので注意とか、動きを阻害する系放つので注意とか書かれてある。


 その時、壁が揺れ始める。

 隣の壁が割れ、大きな爪が現れる。

 爪が当たる寸前に身体をよじり回避する。


 ……突然の出来事で驚いた。

 回避できたのは幸運だったとしか言いようがない。


 こいつ……マドリアリス種にも見えるけど……なんだか爪が大きすぎるような……たしかベガリアリスだっけ……


 迫りくる爪を回避しつつ、そんなことを考える。

 けれど多分、依頼対象であってると思う。


「よし」


 大きくバックステップで距離を取り呼吸を整える。

 身体強化魔法の段階を一気に引き上げる。全身から魔法になりきれなかったロス魔力が、青い光になって漏れ出す。


 そして一気に距離を詰める。

 これで魔導機を起動すれば勝てる。ベガリアリスは体内魔力率がたしか55%ぐらいだったはず。


 ベガリアリスもそれがわかってるのか爪を槍のようにして対抗してる。けれどをそれが放たれたときには、私はもうそこにはいない。


 とっさに地面を蹴って天井に逃げる。

 そのまま天井を蹴り、前に進んでいく。


 こういう四方が壁に挟まれた場所だと、壁も天井も地面として使わないと、動きが単純すぎてすぐやられてしまう。


 いける……!

 もうベガリアリスの二本の爪は回避した。

 これで魔導機を起動すれば。


「がはっ……!」


 突然全身を衝撃が襲った。

 何が……?

 壁に打ち付けられてる……


「っ!」


 またしても爪が迫る。

 痛みを堪えながら、それをかわして、再度距離を取ったとき、何が起こったのかわかった。


 そこには爪が四つあった。

 そう……2匹いる。私が1匹目のベガリアリスにとどめを刺そうとしたときに、横から壁を破って出てきたのかな。

 

「2匹は流石に……」


 想定外。だけど、そう簡単に逃してくれるわけもない。

 ベガリアリス……というかマドリアリス種は大体1匹行動って聞いてたのに。


「きしゃっぁ!」


 どうするかを考える刹那の間に、ベガリアリス達は作戦を決めたようで1匹が私に向かってくる。後ろのもう1匹からは魔力が動く気配がある。


 片方が前衛で、もう片方が後衛。

 チームワークまであるなんて……


 四方から迫る魔法糸を回避しつつ、まずは目の前のベガリアリスを倒すことを決める。このままじゃ、どっちにしろジリ貧だし。


 魔法糸に当たれば多分行動が遅くなって負ける。

 爪に当たるのもまずい。どうする……


「ぐっ!」


 高速で切り裂く爪。それに当たる。

 けれどそれが狙い。

 身体強化魔法を、防御用に変化させて、無理やり受ける。


 そして爪を掴み、魔導機を押し当てて、起動する。

 これなら至近距離に行かなくても、相手から来てくれる。


 魔導機がベガリアリスの魔力を拡散させて、べガリアリスの力が抜けていく。動かなくなっていく。


「はぁ……はぁ……」

「ぎゃぁっ!」


 後衛で魔法を放っていたベガリアリスが恨みのこもったような目を向ける。

 次はこいつ……だけど、今ので結局魔力を消耗した。あと少ししか動けない。


「っ!」

「しゃっ!」


 残りの魔力をかき集めて、身体強化を強める。

 地面を蹴り、あたりの景色が引き延ばされる。

 けれど正面のベガリアリスだけは、ベガリアリスの爪だけははっきり見えている。


 躱さないと。でも、ここで横に躱したらもう動けるだけの魔力はない気がする。この一瞬……これで決める。

 前に躱すしかない。


 迫る爪を身体をそらして躱す。躱したと思った。

 けど、左腕に激痛が走る。けど、一歩を踏み出す。

 痛みを堪えて、前に足を踏み出す。

 ベガリアリスに近づき、魔導機を起動する。


 べガリアリスが消えていく。魔力になって。

 終わった。

 今日もなんとか……


「いたた……」


 爪で殴られたせいで全身が痛いし、かすったところは障壁が破られて、血が出てる。痛い。

 それに左腕に力が入らない。


「でも……」


 大丈夫だった。あとは帰るだけ……メドリのところに……

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