第20話 どうしよ

「あっ……」


 思わず、怪しいと口から漏れたメドリが、慌てて口を押さえる。そんなことしても、意味ないのに。

 でも、口を押さえてるメドリは小動物みたいでかわいい。


「あはは……怪しいですよね……」


 パドレアさんも自嘲気味に笑ってる。

 でも、どうしよう……怪しいのは確かだけど……


「で、でも! 基本的には何もないはずですよ。……えっと、お二人は一緒に働きたいんですよね?」

「そう……ですね。はい」


 そこら辺は説明会に応募するときに書いて、情報を送っておいた。離れるなるなら嫌とか、私は割と戦えるとか。

 人数は多い方がいいぐらいしか書いてなかったから、大丈夫だと思うんだけど……


「もしかすると他の人と協力して、みたいなこともあるかもしれないので、それだけ言っておこうかなと……」

「なるほど……」


 どうしよう。

 2人きりじゃなくても、大丈夫かな……多分街の外で、やることになるだろうし……怖いような気もするけど……。


「基本的には2人でもいいですけどね……危険かもしれないので……そんなことはほとんどないですけど」

「あ、なるほど」


 それなら……大丈夫。

 危険なところは避けていくか、私の身体強化でなんとかできる……と思う。いやでも、危険な場所にメドリを連れていくのは怖いし……なんか、わからなくなってきた。


 どうすればいいのかな。

 調査っていうからには、街の外とかになると思う。

 街の外が危ないなんて当たり前だった。そんな場所にメドリを連れて行っていいのかな……


「あとは……給料とかの説明もしますね?」


 パドレアさんが情報魔導機を操作しながら、話してくれる。

 説明を聞く限り、悪い情報はない。

 給料もいいし、仕事の頻度も多くなさそう。

 多少危険はありそうだけど……前の仕事に比べたら、安全なのかな……でもメドリもいるし……


「えっと……どうしよっか」


 メドリが私に問いかける。

 私と目が合う。悩んでるのがわかる。

 決断するのが怖い目。


「ちょっと……考えさせてください。資料ってもらえます?」

「あ、はい。見れる範囲なら」


 いくつかのデータを送ってくれる。

 今日言ってくれたことのまとめみたいな。


「じゃあ……今日はこれで」

「あの!」


 行こうとすると、パドレアさんが今日1番の大きな声を出す。


「その……もしやってくれるなら歓迎しますから! 人手が足らないんです!」

「あはは……」


 直球な悩みだった。

 なんて答えたらいいかわからないし、苦笑いしながら通路を歩いていく。


「……どうだった?」


 通路を歩いていると、メドリが隣から問いかける。

 メドリと繋がってる手が少し強く握られる。暖かい。


「うーん……ちょっと怪しいけど、パドレアさんも悪い人は見えなかったし、とりあえずやってみてもいいかなって思ったけど……」

「けど?」

「その……危険もあるだろうって言ってたから、怖いなって」


 そんな危険な場所には行かないとは思うし、私がいれば相当な状況じゃない限り守ってあげれると思うけど……怖いものは怖い。


「たしかに……イニアが危険な目に遭うのは……」

「そうじゃなくて!……メドリに万が一があったら……」


 足を止め、メドリの方をはっきりとみる。

 やっぱりこうみると、可愛くて綺麗で、すごく大切な人。ずっと一緒にいたい。守ってあげたくなる。


「……ふふ」

「どうしたの……?」


 メドリから微笑が溢れる。

 何かくだらないことに気づいたような、かわいい笑い。


「私達、お互いに危険な場所に行って欲しくないんだね」

「……それは、だって」


 大切な人だから。好きな人だから。

 一緒にいるって誓った人だから。


「でも私達……一緒にいるんでしょ? どんなに危険な場所でも……いてくれるんでしょ?」

「うん……だけど、私……」


 メドリに危険な目に遭って欲しくない。

 それなら……それなら。


「メドリが危険な目に遭うくらいなら……わ、私1人……でも……」


 どんどん声が小さくなる。

 いいわけない。1人になりたいわけじゃない。けど、けど、一緒にいてメドリが危険な目に遭うなら……


「……イニア。そんなこと言わないでよ……」


 やってしまった。

 メドリの顔を見てそう思った。

 メドリは怒ったような、悲しような顔をしていた。


「ごめん……」

「それに……そこまでしなくてもいいよ。それならもうやめとこうよ。それとも……やっぱり私と一緒にいるの嫌になっちゃった?」

「そんなことない!」


 思わず声が大きくなる。

 そんなわけない。一緒にいたくないなんてそんなわけ。


「だって……だって、メドリのこと好きだから……大好きだから……」


 どうしよう。

 どうすればいいのかわからない。

 働かないと、仕事をしないと、お金は手に入らない。

 お金がないと生きていけない……わけじゃないけど……あった方がいい。メドリに不自由な思いをさせたくない。


「……ぅう……こんなとこで……恥ずかしいよ」


 メドリの顔が赤い。

 その顔を見てると悩みを少し忘れる。

 私は……メドリと一緒にいれればいい……それだけでいいって思えてくる。


「だからさ。私達一緒にいるんでしょ? なら、私がもっと強くなるよ。そうすればイニアも守れるし」

「それなら……たしかに……」


 もしメドリが危険な目に遭っても対処できるように慣れば、一緒に危険な場所に行っても大丈夫かも。だけど……怖い。


「怖いの?」

「え?」

「顔に書いてあるよ」


 そんなふうに見えたかな。

 本当はそんな顔したくないのに。

 メドリに安心していて欲しいから。


「うん……うん。怖いの。メドリが……いなくなったら、また私……ひとりぼっち……!」


 それが怖い。

 私の隣にいてくれた人。

 私が好きになった人。


 メドリがいなくなるのが怖い。

 だから危険な目にあって欲しくない。


「私も怖いよ……イニアと一緒にいれなくなるのは……だから、だから私も力が欲しいの。イニアと私を守れる力が……」

「力……?」

「うん。イニアみたいに直接戦う力でも、知識でも、なんでもいい。イニアを守れる……ううん。イニアと私を守れる力が欲しいの」


 そう言ったメドリの目の中には決意が見える。

 私とは違う……悩んでいる私とは違う。


「私……学校辞める」

「うん……え!?」


 いきなりの言葉に思わず大きな声が出てしまう。

 辞める……? 今学校辞めるって聞こえたんだけど……


「だって、学校なんてあったら、イニアと一緒に働くなんてできないでしょ?」

「そ、そうかもだけど……そんなの……」


 もったいないというか。

 今時学校なんていかなくても、なんとかなるのかもしれないけど……それでも、ある程度の学校を卒業しておいて方がいい……とは思うけど。


「いいの。イニアと一緒にいたいから。そのためなら学校なんていいよ……私も、イニアの事好き……だからね」

「う、うん」


 少し恥ずかしそうに、メドリが私のことを好きって言ってくれる。それが嬉しくて。気恥ずかしくて。


 思わずメドリの指に私の指を絡める。

 普通に握るより、こうして指と指の間に私の指がある方が、存在を強く感じれて好き。少し気持ちいい。


「積極的だね」


 私の耳元でメドリが囁く。

 メドリの吐息が耳にかかって、暖かい空気を耳で感じる。

 耳が熱い。顔も熱い。


「この前はメドリの方が……」

「そうだっけ?」

「朝から耳……食べられた」


 寝ぼけて耳を食べられて、唾液まみれにされた。

 それを見たことをメドリも思い出したのか、メドリも赤くなる。


 沈黙が辺りを包む。

 お互い恥ずかしくて何もいえない。

 それ以上に一緒に入れることが嬉しくて何も言わない。

 目線が交差する。


「……帰ろっか」

「……うん」

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