第19話 あやしい

 貯金がなくなる前に、お金を稼がないといけない。

 そのための仕事……別に仕事じゃなくてもいいけど、方法を通信魔導機で探してみるけど。


「……ない」


 いろんな意味で何もない。

 私にできそうなこともないし、メドリと一緒にできそうなこともない。


 よく考えたら、まず私ができることっていうのが少ない。

 身体強化魔法がそれなりに使える。ただそれだけ。戦い以外は何もできない。その戦いもメドリがいないと戦えない。

 多分メドリから離れている状態で戦えるのは、身体強化魔法で魔力を消費させても数十秒ぐらいだと思う。試したことはないし、試したくもないけど。

 そんな状態だから今の私は何もできないのと大差ない。


 それにメドリは怖がりだから……人と関わるのが怖いから、不特定多数と関わる仕事も難しい。練習すればできるようになるのかもしれないけれど、嫌な思いはしてほしくない。


 わがまますぎるかもしれないけれど……そうじゃないと嫌だから。


「あんまりいいのないね……」

「うん……どうしよ……」


 メドリと一緒に眺めている。

 この時間はすごく幸せだけど、何もできることがないのはまずい。

 私がもっとたくさんのことができたら、よかったのに。


「えっと……2人一緒にいれて……私達でもできそうなこと……」

「あ、これ! ……どうかな」


 メドリが求人募集のひとつを指差す。


「魔物の調査……?どういうのなのかな……」

「わからないけど、資格や年齢、人数までなんでもいいって書いてるよ? これなら、私達でもできるかもだし……一緒にいられるかなって……」


 ……ちょっと……いや、結構怪しいような……

 でも、給料はいいみたい。

 詳細な仕事は、説明会と面接で話します……うーん。


「……でもこれ以外にないしね……とりあえず行ってみよっか……あっ、でも学校が……」

「いいよ。その……私もイニアと一緒にいたいし……」


 かわいい。

 顔を赤くして……抱きしめたい。

 いや、そうじゃなくて。


「ありがと。じゃあ、一緒にいこ。えっと、日程は……1番近くの会場だと、9日後だね」


 早いところだともう終わってるみたい……というかいろんなところでやってるんだね……


 けど、9日か……結構かかる……

 けれど、どういう仕事内容かもわからないし……準備とかしたほうがいいのかな。いや……それよりは。


「……これ以外にも探しとこうか」

「そうだね。怪しいもんね」


 そうは言っても、求人広告なんてこんなもんなのかな。

 メドリはもちろん、私もまともに仕事なんて探したことない。メドリは学生だし、私は生物駆除以外に思いつかなかったし。


 ちょっと不安だけど……メドリもいるしきっと大丈夫……だよね?




 9日経ち、説明会の日がやってきた。

 これまでに、この求人広告について調べてみたけど、ほとんど情報はなかった。まず、この会社ができたのが最近みたいで、実態はよくわからない。


 あとは情報掲示板で怪しいって言われてたりはしたけど、実際に説明会に行った人は少ないみたい。数少ない行った人の情報もデマに紛れてよくわからない。意見の食い違いが多い。


「実際に行ってみてから考えればいっか」

「うん」


 きっと何とかなる。

 それにやばそうなら、仕事なんてやめたらいい。

 またきっと何か見つかるよ。うん。


 説明会の場所は思ったより近くて、メドリと手を繋いで歩いていく。この前までは瓦礫だらけだった道は、かなり修復されている。だけど、人気がない。


 この街は魔物の王が直接登場した街。

 1ヶ月も経てば、別のところに逃げた人も多い。


 今でも街に残ってる人はよほどこの街が好きか、私達のように何も考えてないだけ。私はどこでもいい。メドリと一緒にいれるならどこでも。


 けど、少し危ないかもとは思う。

 でも、今度も同じところに魔物の王が現れるかはわからないし……

 

「ここ……?」


 そんなことを考えてる間に、指定されている場所に到着する。そこには階段があって、地下に続いている。

 指定されている座標を通信魔導機で確認してみても、ここを指している。


「そう……みたいだね」

「なんか……ちょっと怖いね……」


 メドリの手を少し強く握りしめて、地下へと降りていく。

 なんだか不安になってきた。いきなり閉じ込められたりとかしないよね……?


 それなりに深く潜ったところに扉が現れる。

 鍵がかかってはなさそうだけど。


「開けていいのかな……」

「……えいっ!」

「あっ!」


 私が扉の前で悩んでいると、隣のメドリが扉を押して開けてしまった。私はまだ心の準備ができてないのに。


 咄嗟にメドリの顔を見ると、メドリも私の方を見て笑っていた。


「大丈夫だよ。イニアもいるし」

「……うん!」


 そう言われると大丈夫な気がしてくるから不思議。

 メドリの言葉が、行動が、私の力になる。


 扉をくぐって中に入る。

 そこはさらに狭い通路になっていて、奥に開けた空間が見える。きっと、あそこが今回の説明会の会場だと思う。


「えっと……誰もいないね」


 開けた空間には何もない。机と椅子は少し置いてあるけど、人は誰もいない。


 騙された……? もう帰ろうかな。


「すいませーん! 遅れましっ、ぎゃ!」


 私達が通ってきた通路とは別の方から声が聞こえる。

 聞こえたと思ったら、こける音といろんなものが落ちる音がする。


「あはは……すいません……ちょっと、ドジなもので……」


 メガネをかけた女の人。

 柔和な雰囲気がある。なんか、どこか抜けてそう。


「えっと、今日は2人ですね……じゃあ、早速説明を始めたいと思います……あ、その、こっちに」


 女の人が私達を手招きする。

 近くに机と椅子がある。あれに座れってことなのかな。


 結局私達以外には誰もいないし、少し怖い。

 そんなことを思ってるうちに、椅子が近づいてきて、2人で座る。


「あー、えっと……」


 席に着いて相手の様子を伺う。

 とりあえずそんな悪い人には見えないけど……ううん。人は見かけじゃ判断できない。


 そうこうしてるうちに女の人が話し始める。


「まずは、そうですね……えー」


 話始めようとして、口が止まる。

 なんだか資料が詰まった情報魔導機を操作してるみたいだけど……


「だから、こういうの苦手だって言ったのに……! なんで私が……!」


 小さな声で毒づいてる。

 ほんとに大丈夫なのかな。


「んー……まずは、自己紹介……えっと、パドレアと言います。よろしくお願いします……」

「あ、はい。イニアです。よろしくお願いします」

「私は、えっと、メドリです。よろしく、お願いします」


 メドリは人見知りを発動しているのか、少し私の影に隠れている。かわいい。


 だけど……パドレアさんの声が少し聞こえづらい。

 周りは静かだけど、多分下を向いて喋ってるからだと思う。

 まぁギリギリ聞こえるし……大丈夫かな……?


「早速説明なんですけど……えっとー、どこから説明したらいいのかな……あぁ、まずは仕事概要ですね」


 情報魔導機を必死に操作して、言うことを確認してる。

 明らかにこういうことに慣れてない。人材が足らないのかな。


「簡単にいえば魔物調査ということなんですけど、それが何をするのか、というと……えー、あ、はいはい。私達の指定した場所の調査ですね」

「えっと……調査っていうのは?」

「あっと、その場所の魔力濃度や魔物の数、生態やら色々ですかね。あ、そこら辺は調査器具を渡します」


 よかった。そんなの私達じゃどうやって調べればいいのかわからないし。


「でも……なんでそんなことを?」

「うーんっとですね……あっ、ここからは言っちゃいけない……」


 ん? なんか不穏な雰囲気が。


「あー、そこら辺はその……今は話せません。引き受けてくれるなら、話せるみたいです」


 ……なんというか……その。


「怪しい……」


 メドリから私の思いと同じ言葉が溢れた。

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