第41話 あなたの
「どんなこと……どんなことでもいいの?」
メドリの上で甘えながら、確認するようにメドリに問う。
それにメドリは強く頷いてくれる。
それが安心できて、暖かくて、私でも気付いてなかった心がドロドロと溶け出てくる気がする。良くないもののような気もするけれど、今更私の思考は止まらない。
「あの、あのね」
「うん」
「私だけを見て欲しくて。ううん……見るだけじゃ、やだ」
欲望が止まらない。
私の中のメドリへの欲望は止まることを知らず、どんどん変質していく。変質して、ドロドロとした心が形をなしていく。
「私を監視して? 私を管理して? 私を支配して? 私の全部をあげるから……メドリのものにして?」
私の冷静なところは、言わない方がいいって言ってる。
けれど、私は熱に浮かされたように、メドリに覆いかぶさりながら、目を見つめながら、必死に口は動く。息を吐き、メドリに欲望をぶつけてしまう。
「私……私を大切にして? ううん……大切にしなくてもいい。しなくてもいいから、私に飽きないで? 私をどうしてもいい……うん。どうしてもいいよ」
私はもう必死だった。
メドリを別のものに取られそうなのが嫌だったから。
どんなことでも言っていいって言ってくれたメドリに甘えて、私の心は制御を離れて、身体を勝手に動かす。
「どうしてもいいから……私を見てて? 私のことばかり考えて? 私以外に笑いかけちゃ、やだ。やだよ……」
「大丈夫……大丈夫だよ」
また涙が溢れそうになる。
けれど、メドリが頭を撫でて、受け入れてくれるかた、泣きじゃくることはない。けれど、行き場を失った涙で、視界がぼやけてしまう。
メドリの顔をもっとはっきり見たくて、目をぱちぱちさせて、涙を払う。けれど、あんまり変わらない。
「私……私、メドリとずっと一緒にいたい。メドリに独り占めしてほしい……メドリに私を見てほしい。メドリが私以外の場所見てたらやだ。
メドリを私のものにするんじゃだめなの。沢山の選択肢があっても、私を選んでほしいの。沢山……私より素敵なものなんて沢山あるかもだけど……私を……私だけを選んで……好きなってほしい」
「イニアは1番素敵だよ。他のものなんて見えなくても、イニアが見えればいいぐらい。イニアが好きだもの」
メドリが私に言い聞かせるように言ってくれる。
その言葉に甘えるように、私の心はさらに漏れ出していく。
「どれぐらい? どれぐらい好き? どこが好き? どんなところが好き? で、でも嫌いなところがあったら言ってね? 直すから。メドリが嫌だと思うところは直すから」
その言葉にメドリは微笑んで、静かに話し出す。
私の耳元で囁くように。それにぞくぞくしながら、一語一句逃さないように耳を澄ます。
「嫌いなところなんてないよ。イニアならなんでも好きだもの。大好きだよ。全部。
そうだね。まず私と一緒にいてくれるのが好き。離れずにいてくれるのがすごい好き。いつでもいてくれる。お風呂に入っても、トイレの時も、寝る時も、一緒にいてくれるから好き。
それに、それにね。私が不安になっても、嫌な顔せずに、抱きしめてくれて、頭を撫でてくれるのが好き。優しいイニアが好きだよ。
あと、可愛い……可愛いから好き。その私を見てくれる目も、撫でさせてくれる髪も、綺麗な脚も、抱きしめてくれる腕も、舐めると反応してくれる耳も、私に触れてくれる指も、かわいい胸も、大好きだよ」
もう真っ赤だった。
嬉しいって気持ちと恥ずかしいって気持ちが、思考の中でぐるぐる回って、混ざり合って、口がただぱくぱくと動く。けれど声が出ない。
「どうしたの? さっきまでイニアが私に恥ずかしいこと言ってたのに。でも、そんなところも好きだよ。恥ずかしがってるイニアも好きだよ。
でもね。でもやっぱり1番はね。私が不安になって……イニアを信じれない時でも、それでもいいよって言ってくれるところ。私……あの時の私は、嫌われてもしょうがないと思うのに……それでも好きでいてくれるって言ってくれるよね。私はそれがすごく嬉しいよ。そう言ってくれるおかげで、私、安心できるもの。イニアの隣にいてもいいって……一緒にいたいって、思えるもの」
「だって……好きだもの。メドリのこと好きだから」
どんなメドリでも私の好きな気持ちは変わらない。
それはきっと私から離れてもそう。
私の隣にいないメドリを見るのは苦しくて、悲しくて、気持ち悪くて、吐きそうで、死にたくなるけれど、メドリが好きな気持ちはきっと変わらない。
「だから……だからね? 私はイニアのこと大好きだから。大丈夫だよ? イニアが他のもの見ないでっていうなら、イニアだけ見ておくよ。イニアが選んでほしいっていうなら、イニアだけを選ぶよ」
「う、嬉しい……嬉しいけど……いいの? そんなに受け入れてくれたら……私、もっと求めちゃう……それで、嫉妬して……」
好きだから、大好きだから独占欲が止まらない。
好きって気持ちと、嫉妬心から生まれる黒い感情が同時に存在してしまう。
そうなるともう私にはどうにもできない。
さっきも気づいたら、メドリを押し倒していた。
それが怖い。メドリを傷つけたくない。
「いいよ。ちょっと驚いたけど、傷つけられたって。私はもうイニアのもなんだから。そんなことで嫌いにならないよ」
「私……私、なんか今日変……変だよ。どんなメドリでも嫌いにならない。受け入れる。一緒にいるって約束したのに……さっき、メドリが私以外を見てる時、苦しくて、悲しくて、辛くて、やだったから、メドリのことが……その……」
その先を言うのを躊躇う。
言うのが怖い。言いたくない。私の嫌な部分だから。
けれど、メドリにはそれも知っててほしい。
私の醜い、汚い部分も受け入れてほしい。それにきっと受け入れてくれるような気がする。幻想かな……でも、メドリなら、優しいメドリなら……
「憎かったの。メドリが私を見てくれないと憎くて……たまらなかった。で、でも! 好きな気持ちもあったよ? ずっとメドリのこと好きだもの……でも怖い……自分が自分じゃないみたいで……」
怖かった。
気づけば、メドリのことを見れなくなっていた。
今メドリがどんな顔をしているのかわからない。けれどそれを知るのが怖かった。
「……そっか」
「う、うん……」
「退いてくれる?」
少し萎縮して、素直に言うことを聞く。
メドリの声はいつもと変わらないような感じだけど、メドリをまた傷つけたかもしれない。それが怖くて、嫌われたくなくて、身体を起き上がらせる。
少し広めの座席の上で、私達は向かい合う。
けれど、私は自分の足元を見るので精一杯だった。
怖い……嫌われるのが怖い。気持ち悪いって思われるのが怖い。見てもれなくなるのが怖い。
「ご、ごめ……やっぱり変だよね。好きなのに憎いなんて思っちゃうなんて……嫌いになったよね? それに気持ち悪い事ばっかり言っちゃうし……」
「イニア……私の気持ち教えてあげる」
「う、うんっん!」
気づけば私は天井を見ていた。
天井がメドリの顔に遮られていて、驚いて声が出そうになるけれど、声は少しも出ずに、メドリの口の中へと消えていく。
メドリが私を、私だけを見つめて、押し倒して、手首を掴んで、拘束して、キスをしていた。
舌が私の口内に入ってきて、私の舌と絡まる。唾液を交換して、くちょくちょと卑猥な音を立てる。
メドリと私の目が合う。
押し倒されて、力を入れても振り解けない。振り解こうとも思わない。
唇が少し離れて、メドリが耳元で囁く。
「……どう? イニアのこと、私が支配しちゃってるよ?」
電撃が身体を貫くような感じがした。
快楽が思考を侵して、私の感覚を刺激する。
「支配して……管理して……監視して……大切にしてあげる。イニアからずっと目を離さない。それなら私のこと憎まないでしょ?」
「う、うん……」
「じゃあ、目を閉じて?」
目を閉じると、私の口の中に指が入ってくるのがわかる。
「舐めて?」
「ん……」
「イニア……かわいいよ……好き」
必死に舐める。
しゃぶりながら、味わいながら、舐める。
メドリに奉仕する、支配されてる感覚を味わう。
「ずっとイニアを私のものにしてあげる……だから、自分のこと気持ち悪いなんて、変なんて言わないで?」
「ん、ん」
舐めながら頷く。
「なら……大丈夫。私がイニアのこと包んであげる。イニアしか見えてないから……大丈夫だよ」
メドリの声が私の頭の中で心地良く鳴り響く。
メドリが私だけを見てくれてる。それをメドリを見なくてもわかる。
それが快感で、私の意識を溶かしていく。
溶けて、メドリと癒着していく。離れないように、私をずっと忘れないように。私だけを見てくれるように。
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