第78話 たいせつ
「えっと……ここは魔力濃度だから……」
魔導機を操作して、ここ数日で得たデータを打ち込んでいく。数値とかはそのまま情報を移動させるだけでいいけれど、細かい部分は自分で文章を考えなくちゃいけないのが、報告書の面倒くさいところ。
「んにゅ……」
「メドリ、眠いの?」
「んあ……ぅ……」
メドリも最初は一緒に報告書を纏めてくれていたけれど、途中から画面を眺めてるだけになってしまった。頭がゆらゆらと揺れていたし、私が手を握っても力なく握り返してくれるだけだった。
よっぽど眠いのかもしれない。でも、今日は朝からイチちゃん達と魔物調査に行って、たくさん歩いたし、戦いも少しあった。疲れて当然といえば当然なのかも。
「ぃにぁ……」
呟くように私の名を読んで、甘えるような声をだす。もう完全に体重を私に預けてるし、目も開いてない。
「今日はもう寝よっか。ほら、メドリ……ここで寝ちゃ冷えるよ」
開かない目をぴくぴくさせながら、もたれかかって甘えてくれるメドリを見ていると、報告書なんてどうでもよくなってしまう。
ふらふらなメドリを手で少し引っ張って寝床へと誘う。メドリは弱々しい手つきで、布団の中へと潜っていく。それに続いて、私も同じ場所へと。
「んぅぁ……にゅ……」
「今日は疲れたもんね。お疲れ様。よく眠れるよ」
曖昧な言葉を漏らすメドリの頭を撫でて、紫髪をとかす。やっぱりメドリは可愛い。こんな風に甘えてくれるメドリはその中でも特に可愛いメドリ。
普段も甘えてくれるけど、なんというか……弱い部分を見せてくれるというか。信頼されてるって気がして嬉しくなる。
あの日からメドリは私を素直に求めてくれるようになった気がする。それまでもメドリは私を好きって言ってくれたけれど、なんというかその中に不安があったような……それが悪いわけじゃないけれど、今のメドリにはそんな強い不安は見えない。
メドリにはいつでも安心していて欲しいから、それは嬉しい。メドリはそれが私のおかげって言ってくれるから、さらに嬉しくなる。
「好きだよ」
「……ん……ぅき……」
「うん……私も好き」
私の想いが思わず漏れる。
メドリは声にならない声を出すけれど、私にはしっかりと聞こえた。好きって言ってくれた。
また好きになっちゃうな……メドリは好きになるほど不安が増して怖かったと言ってた。私が離れるのが怖かったって。
それを聞いて私はすごく安心した。私はメドリに捨てられる方だと思っていたから。病気持ちだし迷惑かけてるって思ってるから。
でもメドリも同じ気持ちだった。同じなら……一緒にいても、ずっと一緒にいてもいいんだって思えた。だからメドリが、私と一緒にいない方がいいって言った時も、強引に一緒にいるって誓えた。
これは少し傲慢かもしれないけれど、メドリは私を好きって思って、一緒にいて欲しいって思ってるはずって考えてたのもある。
でもきっとそれは間違ってない。
強引に抱きしめてから、メドリも私を求めてくれた。一緒にいると安心するって、嬉しくなるって言ってくれる。
「ぁ……ん……すぅみ……」
思考にふけっていると、急にメドリが動いて唇に少し感触が触れ、すぐに離れていってしまう。離れると言っても、唇が離れるだけで、身体を動かす体力はなかったのか顔は近いまま。
そしてメドリはもう意識を保つのが限界なのか、すぅという寝息を立て始めてしまう。
「うぅ……いつもそうやって……」
少し惚けてた思考を持ち直す。顔が熱くなる。
好きだけれど、好きだからこそ、こういう不意打ちは嬉しいけれど、感情が揺れる。突然にくる強大な幸福に心が揺さぶられる。恥ずかしいというより、驚きというか。
メドリが起きていたら、この昂った気持ちをメドリに伝えて求めていたかもしれないけれど……もうメドリは寝てしまった。疲れてたみたいだし、ゆっくり寝ていて欲しいけれど、これは少し生殺しというか……
「もう……」
ただのキスなんて何度もしてるのにまだ慣れない。ずっと慣れない気がする……特にメドリからしてくれるキスは特に。
……ただのキスじゃないから当然かもしれない。メドリからのキスも、私からするキスも、メドリと触れ合ってる時点で、ただのキスなんかじゃない。もっと特別な……特別よりもっとすごい……特殊というか、他の比べられない行為だから。
なんでこんなに好きなのかな。好きって気持ちが溢れて、私の心を包んでる。この温もりが少しでもメドリと共有できてたらいいな。
メドリが辛いなら、苦しいなら、この温もりで包んであげたい。メドリは自己評価が低いから、またこの前みたいにそんな資格がないなんていうかもしれないけど……そんなの私には知ったことじゃない。
メドリがなんて言おうと、私の自己満足だろうと、私がメドリのためにしたいことを、メドリにしたいことをするって決めたんだから。
どれだけメドリが拒んでも私はメドリと一緒に居たいし、メドリも私と一緒にいることを望んでるって信じてる。メドリの私を好きでいてくれるって言葉を信じてる。だから私はメドリとずっと一緒にいるって誓ったんだもの。
もし私が病気じゃなくても……病気じゃなくなっても、ずっと一緒にいる。
「そういえば……」
いつからか魔力鎮静剤なんて使わなくなったし、メドリといれば魔力多動症のことを気にしなくなってる。魔力に関してはすごい知識のあるアマムさんでもその理由はわかってないみたいだった。
私も気にならないわけじゃないけれど……なんだろ、病気によって起こる不快感より、メドリといることによる安心感とか多幸感の方が強いってことなのかな。頭の悪い私が考えても仕方がないことかもしれないけど。
それもメドリのことが好きだから……いつからこんなに好きになったのかな。最初に話して一緒に遊んだ時には、もうメドリに心を占められていた気がする。
最初は小さな好きだったけれど、それがどんどん強くなって……気付いたら我慢できなくなって……つまり、最初から好きだったのかな?
けどその好きが恋愛的な好きだったのかと言われればよくわからなかった。今ならそうだよって即答できるけど、あの時はメドリ以外との関係を知らなかったから。触れ合って、抱きしめて、キスして、あんなことやこんなことまで……そうしたいって思うのはメドリに対してだけ。
それにメドリは何より大切だし。イチちゃんとナナちゃんや、パドレアさん達が大切じゃないというわけではないけれど、メドリとは比べることもできない。
メドリ以外だとイチちゃん達は大切といえばそうなのかもしれない。私のような厄介者によくしてくれる人はみんな大切だけれど、その中でもイチちゃん達は特に大切というか……
彼女達がどう思ってるかはわからないけれど、私は勝手に妹みたいなものだと思ってる。お姉ちゃんと呼ばれてるのが余計にそうさせてるのかもしれない。
家族だと思ってるから、大切にしてあげたい……けれど、家族として大切にするってこれであってるのかな。私も家族の温もりを知らないわけじゃないんだろうけれど……もう全部忘れてしまった。
メドリとの記憶の方が大切で、メドリとの思い出で、メドリの温もりがこれまでの記憶を全て塗りつぶしてくれたから。
「家族……」
メドリとの関係は家族、なのかな。私はメドリが好きで、メドリも私が好きで……恋人で……でも家族ではないのかな。別に家族じゃなくても一緒にいれればいいけれど……ただの恋人なのかな。
「ぁぅふぁ…………」
メドリの安らかでかわいい寝顔を見ながら考え事をしていると眠くなってきた。もう少しメドリを眺めていたい気もするけれど、そろそろ寝よう……
そう思うと同時に視界が暗くなって意識が薄れていった。
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