第53話 たすけは
「お風呂ありがとうございます! 気持ちよかったです!」
「……ありがとう」
お風呂から上がって来たイチちゃん達を、寝床の上で迎える。休日は大体ここにいる。メドリと1番近くにいれる場所だし……求めたくなったときにすぐに求めれるから。
「そ、そっか……それは良かった」
「その……顔赤いですよ……? 大丈夫ですか?」
ナナちゃんが心配そうに、私を気遣う。
自分でもわかるぐらい顔が熱い。きっと真っ赤になってる。さっきまでメドリに耳を舐められてたから。
けれど正直に言うわけにはいかない。恥ずかしいし、ナナちゃん達はまだ子供。メドリに支配されて、耳を食べられてたなんて、言えるわけがない。
「う、うん……大丈夫。その、ちょっと暑くて」
「そうですか? 結構寒いですけど……」
イチちゃんからは見えない布団の中で、メドリが指を絡めてくる。指を一本ずつ包むようにつかまれる。同時に指からメドリの魔力が絡みつくように、私の魔力を包む。
「メドリ……ちょ、ちょっと……」
さらに顔が赤くなるのがわかる。
指をきゅっと掴まれて、魔力を絡みついて、メドリに私の存在を離さないって言われてる気がする。それが嬉しくて、メドリを求める心が強くなってしまう。
「イニアは私のものなんだから、いい……よね?」
メドリが身体を近づけて、私の耳元でそう囁く。
それが私の理性や抵抗心を奪っていく。
「…………うん」
「とろけてるイニア、かわいい」
そう言われたら、私はもう逆らえない。
私の手を、メドリの指が伝う。同時に魔力も上がってきて、私の不安定な魔力をなぞる。感覚が重なって、変な声が出そうになるのを必死に抑える。
「ほんとに大丈夫ですか……? その、辛いなら少し休憩してからでも……」
「ううん。大丈夫だよ。イニアは……私といるといつもこんな感じだもん……ね?」
メドリの言葉にこくこくと頷く。
いつも顔を赤くしてるわけじゃないと思うけれど、心情的にはいつもと変わらない。そこにナナちゃん達がいるから羞恥心が追加されてるだけで。
けれどその羞恥心が余計私の思考を鈍らせてる気がする。いや、いつもなら抵抗もせずメドリに溺れてるからかもしれない。思考が安定してない気がする。
「えっと……その、さっきの話なんですけど……」
「ぅん……決まっ……た?」
私は必死に声を発する。けれど、その声はか細い。
メドリが求めてくれてるってことの快楽が、さっきの耳を舐められたときの感覚を想起されて、力が抜けていってしまう。
メドリが私の掌に力込める。優しいけれど、ちょっと痛みもある。それが嬉しい。メドリのものにしてくれてるみたいで。でも、ナナちゃん達に見せつけてるみたいで恥ずかしい。
けど、メドリって、誰かの前でもこんなに積極的だっけ……もしかして、私が思ってるより深く嫉妬してくれたのかな……だから私をこんなに離さないように握ってくれるの……?
「あの」
「ちょっと待って。確認させて」
何か言おうとしたナナちゃんをイチちゃんが制する。
「……ほんとに私達を助けてくれるのよね?」
「うん。それが、イチちゃん達の求めてる形になるかはわからないけど……」
イチちゃんの質問にメドリが答える。
「私達は……食べるものと、寝る場所……それと私達が嫌がる事をしないこと。特にナナを傷つけるのは許さないから」
「……え? それだけ?」
思わずメドリの口からそんな言葉が漏れる。
私も同じ気持ちだった。もうちょっと……なんていうか色々あると思ってた。
「……やっぱり無理なの?」
私達が困惑と共にフリーズしているのを拒否と捉えたのか、イチちゃんが少し悲しそうに呟く。
「ぅうん……! それぐらいなら……全然、大丈夫」
焦って、まだとろけた思考で言葉を紡ぐ。
メドリの手はすでに私の手首をすりすりと掴んで撫でてる。少しずつ快感と興奮に慣れてきたけれど、同時に感覚が敏感になるせいで、あんまり変わらない。
「そう……なら、その」
「よろしくお願いします!」
イチちゃんは小さく、ナナちゃんは大きく、頭を下げる。
「うん。よろしく。でも、これから一緒に暮らすなら、敬語じゃないほうがいいかな」
「わ、私……も、そう思う」
少しずつ身体に戻ってきた力を必死に込めて、声を絞り出す。そろそろ我慢するのも辛くなってきたのに、メドリは私の手を離してくれない。いや握ってくれるのは嬉しいけれど、舐めるように触れられるのは、理性がやられてしまう。
ナナちゃん達がいなければ、もうメドリに擦り寄って、求めて溺れてた。正直今にもそうしたい。けど、今は2人にとっては大切な時。きっと私達が信頼できるか悩んでる時。そんなときに乱れた姿を見せるわけにはいかない。
「えっと、じゃあ、これからやめます! あっ……やめる!」
「無理しなくてもいいけどね? えっと……そうなると色々必要だけど……今日はちょっとやることがあるから、どうしよっか」
そうだった……今日は昨日の調査の報告書を書いて、送らないといけない。簡単な操作だけど、項目も多くてそれなりに時間がかかる。
「じゃあ、私達こっちにいま……る。お姉ちゃん達はお仕事頑張ってね!」
「うん……ありがと」
「じゃあ、ここ閉めるから……その」
イチちゃんが寝室とそれ以外を区切る扉を閉めてくれる。けれど、その途中で手を止めて、私たちに向き直る。
何か言いたそうにしているけれど、言葉が見つからないみたいで、口が開いては閉じる。
「まだ信じれてないけど……信じたいって思ってるから。助けたいって言ってくれて……嬉しかった……そ、それだけ!」
扉が大きな音とともに勢いよく閉められる。
明かりが入り込まなくなり、寝室の小さな明かりだけの薄暗い部屋でメドリと目を合わせる。
「ふふっ」
メドリと示し合わせたように笑う。
そうしていればなんだか全てうまく行ったような気がする。まだイチちゃん達のことはなにも知らないけれど、助けるって決めたんだから、これから知っていけばいい。もしなにも知れなくても、助ける。
「じゃあ、ちゃっちゃと書いちゃおっか」
「あの……ね」
一頻り笑い合って、きっと大丈夫って思えた後、通信魔導機に向かうメドリの袖を引く。
安心と2人がいなくなったことによる開放感が私の欲望を強くしている。そして何より、さっきまでメドリが私の手を舐めるように触れて、魔力を絡めてくるから。
「なにー? ひゃっ!」
「メドリ……メドリ……好き……」
もう欲望を押さえつけれなくなっていた。メドリに抱きついて、頭を擦り付けて甘える。メドリは少し驚いたように声をあげたけれど、すぐに頭を撫でてくれる。
「メドリ……ずるい……あんなにされて、我慢できるわけない。ねぇ……メドリ……? もっと……もっとして……?」
「もう……仕方ないね……」
仕方ないといいながらも、メドリも心底嬉しそうな声をだす。メドリの長く伸びた綺麗な紫髪を、口に咥える。
メドリ……メドリの味と匂いがする……メドリ……好き……大好き……こうやってずっと感じてたい。
「くすぐったい……お返し」
「っ……! んっ……!」
メドリに首筋に歯を当てられて、歯が撫でるように首を伝う。それだけで、快感で力が抜けて、髪を口から離しそうになってしまう。
まだメドリを感じてたいから、まだ咥えてたい。けれど、首にメドリの舌が触れて、唾液が肌を伝う度に力が抜けていく。
「ぁ……はぁ……ぅぁ……」
「もう……大丈夫? ほら、早く報告書書いちゃお?」
けれど、メドリは首を食べるのをやめてしまう。
それが寂しくて、やだった。もっとメドリが欲しい。メドリを感じたい。メドリが……メドリに……。
完全に理性が溶けてしまった私の思考は止まることを知らない。
「やだ……やだやだ……メドリ……もっと……もっとして……?」
「え……で、でも報告書が……」
「いいから……そんなの後でいいから……ね? メドリ……はやく……」
必死にメドリに懇願する。
もっと気持ち良くして欲しい。もっと、支配して欲しい。もっとメドリのものって示して欲しい。もっと舐めて欲しい。もっと食べて欲しい。
「しょうがない……私もちょっとやりすぎちゃったし……」
「メドリ……」
「わかったわかった……私のものってわからせてあげる……」
「メドリ……好き……」
「私も大好きだよ」
いろんなことを忘れて、メドリがもたらす多幸感と快楽に溺れていく。心地良さと静けさの中、メドリに塗れた思考で快楽を感じる。やっぱり私はメドリのもの……メドリだけのもの。
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