第97話 ふたりが
「避けて!」
イチちゃんの声が聞こえると同時に、地を蹴って身体を左に動かす。
さっきまで私がいた場所に、大小の質量体が高速で通り過ぎていく。
イチちゃんの魔法によって投射された石は、私たちの前に現れた自立魔導機の装甲にめり込み動力系を停止させる。それでも、動きが止まっただけで、魔導機は抵抗をやめない。
取り付けられている砲台の魔力反応が高まる。
「任せて!」
ナナちゃんの言葉を信じて、私は魔導機へと一歩を踏み込む。完全に魔砲の発射状態へと移行しつつあるものに向かっていくのは自殺行為だけれど、ナナちゃんがいれば話は違う。
これぐらいの魔砲の威力なら、ナナちゃんが打ち消してくれる。4か月前に見たあの魔導機……人の域を超えたあの威力は難しいだろうけれど、ナナちゃんの魔法なら、これぐらいの魔砲なら簡単に打ち消せる。
「っ……!」
魔力の変換ロスによる熱を肌で感じながら、手に持った魔導剣に動き続ける魔力を流し込む。相変わらず私の魔力操作は下手で、魔導剣からは光と熱が溢れる。
魔砲に集まっていく魔力が霧散して、一気に熱が引いていく。慌てたように魔導機が回避運動をしようとするけれど、動力系を破壊され、足を失った魔導機にそのすべはない。
私の膨大な魔力を注ぎ込んだ魔導剣は、ほぼ抵抗なく魔導機の装甲を切り裂く。
そして、それ以降魔導機は完全に停止した。
「ふぅ……」
「やったー!」
「ナナ……大丈夫? 頭痛くない?」
「うん!」
イチちゃんが嬉しそうに叫ぶナナちゃんを気遣う。
ナナちゃんは誘拐された時に魔法演説領域に強い負荷がかかってしまった。その影響で魔法の広範囲発動や、効力を強めるのはナナちゃんを苦しめてしまう。
もちろんそんなことなくても、無理に魔法を発動するのは危険だけれど、ナナちゃんが普通よりずっと危ないことは確か。
「……無理しないで。痛くなったら言って」
「ありがと……イッちゃんは優しいね!」
「そ、そんなこと……」
……今回は、大丈夫そう。
あんまり魔法を使わないで欲しいけれど……ナナちゃんが私達の力になりたいって言ってくれた。その言葉を私は遮れなかった。
あれだけ心配そうにしているイチちゃんだって、ナナちゃんが魔法を使うこと自体には肯定的なのに……肯定的というよりは、自分たちのことはできるだけ自分たちでやりたいという思いなのかもしれない。
もっと頼って欲しい……そんな気持ちがないわけじゃないけれど、そのお互いを認め合って、一緒に生きていこうという気持ちに、私は強く共感してしまった。
だから……私にはナナちゃんを……2人を止められない。止められないし、止めたくない。2人がそう決めたなら、私はそれを助けたいから。
2人の命に関わることになれば、もっと強く止めるかもしれないけれど……イチちゃんだって、ナナちゃんが無理をしてまで魔法を使うことを良しとしてるわけじゃないし。
「さて、さっさと終わらせましょ」
「あ、手伝います」
観測機を持って、倒した魔導機に近づくセルシアさんの後を追う。こうして倒した魔導機のデータを取ることも重要な仕事の一つ。
……正直、ここまで来たら見た目から、今まで出会った魔導機のどれかがわかるから、あんまりやる意味はないけれど。それでもイレギュラーがあるかもしれないし。
「ありがとう。2人はそっちの方よろしくね」
「はい」
メドリと手を繋ぎながら、片手で観測機を魔導機の方へと向ける。これにもだいぶ慣れた。
もうこの古代施設に来てから4か月。
こんな風に魔導機に遭遇して戦闘になったことも何度もある。それでも、思ったより少ない。まだ、第一層にいるからかもしれない。
けれど、これでとりあえず私たちの担当する場所は終わり。結局見つかったのは住居と生活のために必要な施設……あとは昇降機だけ。昇降機は複数発見されて、各地に点在してるらしい。
「終わったわ」
「こっちも終わりました」
案の定見たことのある数値が並らんだことを確認して、来た道を戻る。
「今日はこれで終わりね。大方制圧したはずだけど、気をつけて帰りましょう」
「……もうここは終わりなんだよね?」
「うん……いったん休憩になるんじゃないかな」
最初は終わりの見えなかった調査だったけれど、4か月の間にこの第一層は大体終わった。明後日までには、全部の班のデータを集めれば、全ての区域の調査が終わるはず。
今いるここ、建物ばかりのこの場所は、第一層と呼ばれることになった。
その下に何層まであるのかはわからないけれど、とりあえず私たちが見つけた昇降機を使えば、地下に行けることはゲバニルの人が調べていた。下は、住宅街のような子の第一層とは違って、もっと研究所的な場所が多かったらしい。
そちらを先に調査したほうが良いという意見も出たらしく、ゲバニルの人が先行したけれど、まだ本格的な調査までは進んでいない。その代わりとして、安全を確保してくれてるらしい。
というのも、下の第二層は第一層とは比にならないぐらい魔導機が跋扈しているらしく、昇降機で降りた瞬間に攻撃されたらしい。
だから、まずは昇降機付近の安全を確保するという計画に変わったのだとか。まぁ、たしかに昇降機を安全に使えなければ、ここに安全に帰ってこれないわけだから……
そう思うと、この第一層をとりあえず制圧できたのはよかった。昇降機で上がってきて不意打ちみたいなことになったらたまったもんじゃないし。
「どうなるかわからないけれど……一旦、街に返してくれるんじゃないかしら。ガジさん達も上に判断を仰ぐでしょう」
ここまで来た小さな魔導車に乗って、仮拠点へと帰っていく。こうやって走っているとたくさんの魔導機の残骸が見えて、長い間ここにいたんだなって実感する。
未だに最初に感じた恐怖が完全に消えたわけじゃないけれど、少しは慣れてきた。でもそれは第一層の話で、第二層は結構怖い。
けれど……多分第二層は行くことになると思うし、行かないといけない。聞いた感じ、第二層こそ、イチちゃんとナナちゃんの求めるものがあるだろうから。
そうなると……いつか話さないといけない。
「……けれど」
多分それは私達が決めることじゃない。
2人が……イチちゃんとナナちゃんが決めることだと思う。それを応援はしても、強制はできないし……したくない。
でもきっと、セルシアさんは2人のことを聞いても、拒絶したり、秘密を言いふらしたりはしないと思う。
この4ヶ月でセルシアさんのことは少しは分かったつもりだし、そんなことをする人じゃない……と思う。それに、今2人と笑い合ってるのが嘘だとは思えない。
「イニア……こっち見て」
「ぅん……なぁに?」
思考にふける私の肩をメドリが少し揺する。
それでメドリの方へと感覚が集中する。
「うぅん……ただイニアの目を見たかっただけ」
そんな可愛いことを言われて、私の心が喜びで跳ねるのを感じる。やっぱり、メドリの言葉いつまで経っても慣れない。ずっと私に新鮮な心地良さを与えてくれる。
……こうやってメドリと見つめ合うのは毎日のことだけれど、なんというか……この瞬間は本当に世界に私とメドリだけな気がする。
いや、多分きっと私たちだけしかいない。
どんな匂いも、音も、光も……全部なくても、メドリがいて、私がいる。それがすごく嬉しい。
その嬉しさと快楽で、私の思考は、一瞬感じていたはずの違和感をまたしても忘れてしまう。もう何度もあったような気がするけれど、その全てをメドリといることによる膨大な幸せがかき消してくれるから。
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