第108話 しゅうち

 そして時は経って、私達は二度目の未開拓領域侵入を果たした。

 道中は何事もなく進み、もう何度も来た古代施設へと到着した。


「ナナちゃん。大丈夫?」

「うん! 絶対イッちゃんのこと助ける!」


 結局ナナちゃんは私たちについてくることになった。2人はあれ3日間ほとんど一緒にいて、話し合った結果ナナちゃんの意見が通った。

 夜になれば、怒鳴り声に似た大きな声が響いていたりもしていた。喧嘩をしたのかと心配になったりもしたけれど、最後は穏やかに会話をしていた。イチちゃんもナナちゃんへの心配が消えたわけじゃないと思うけれど、納得はしているようだった。


 ……ナナちゃんはイチちゃんを助けようとしているようだけれど、私としては2人を助けるつもり。2人はこのままじゃいつか大きな病気にかかったりしたときに、治療ができない。それは避けなくちゃいけない。

 回復魔法は効くみたいだから、身体は私達とほぼ変わらないと思うけれど、それも魔力変質まで。そうゆっくりはしてられない。イチちゃんのことを考えるとあと3年以内には見つけたい。


「セルシアさんも、その、ありがとうございます」

「いいわよ。イチちゃんのためなんでしょう?」


 セルシアさんにももうほとんど話してしまった。

 流石にアヌノウスの話まではしていないけれど、2人が特化魔力であることと、イチちゃんは特化魔力の人だけがかかる特殊なもので、その治療のヒントが古代施設にあるかもしれないといって、協力してもらうことにした。


 イチちゃんは怖がっていたけれど、セルシアさんは特に気味悪いとかはいうことなく、協力するといってくれた。作られた人ということは言ってないから、まだすべてを受け入れてくれるかはわからないけれど、セルシアさんなら大丈夫だと思う。無理して言わなくてもいいけれど、2人の理解者は多いと思うから。


「特化魔力といえばだけれど、マドル国ってわかるかしら?」

「聞いたことはありますけれど……」

「昔、あった国だよ。私たちが生まれる前の戦争でなくなって、今の国ができた……であってますよね?」


 戦争があったことは知ってるけれど……あ、たしか、メドリと同棲を始めたぐらいに行った壁跡がマドル国のものだっけ……もうもぬけの殻になってた場所だよね。


「あってるわ。確かあの国は、特化魔力の人ばかりだったはずよ」

「え! そうなの?」

「えぇ。魔力変換ができなくて、魔力を直接取り込まないといけなかったはずだから、ナナちゃんとはちがうけれどね。それに、その大半は魔力最適化の時に特化魔力じゃなくなっていたけれど……もしかしたら、資料とか残ってるんじゃないかしら」


 そんな国があったんだ……けれど、魔力を直接取り込むなんて……すごく大変そう。多分、それじゃあイチちゃんとナナちゃんの設計図はないよね。全然違うし……けれど、病気に対する対策みたいなのはあるかもしれない。

 あれ? でも……

 

「資料ってまだ残ってるのかな……?」

「それはたぶん、図書館とかにあると思う。マドル国はなくなったっていっても、今の国に変わっただけだから」


 滅ぼされたとかじゃないってことね。

 政府とか引き継いでるのかな……それなら確かに残ってるかも。


「ありがとうございます。セルシアさん」

「いいのよ、これぐらい。私にできることなら何でもするわ」

「ありがとう!」


 その時、備え付けられてる拡声器から、少し雑音が流れる。


「ガジだ。今回は第二層へ行く。計画はこうだ」


 ガジさんの声が流れ始め、今回の計画が伝えられる。

 前回で第一層はほとんど制圧した。その中で第二層へと続く昇降機が5台発見されて、そこから侵入することになるらしい。下は敵対的な魔導兵器が多くいると聞いていたから、てっきり大勢で行くものだと思っていたけれど、各班ごとにわかれていけることになった。第二層の通路は広いとは言えないからだとか。


 これはかなりありがたかった。

 大勢だと2人の情報を探すのも一苦労だったと思う。


 昇降機付近の安全はゲバニルの人が維持するらしい。そのために強力な魔導機を持ってきたとか。正直心配だけれど、信用するしかない。

 ゲバニルの人だって、別ルートから探索するらしい。誤って攻撃しないように注意って言ってた。流石に大丈夫だとは思うけれど……


「制圧できれば一番なのだが……恐らく厳しい。よって、第三層への入り口の発見、または3か月経過で、探索を一時終了とする。その後は再度連絡する」


 3か月……それまでに見つけないといけない。

 第三層があるかはわからないけれど、それが発見されるかもしれないことを考えると、もっと期限は短い。


 もし探索が打ち切られたら、私たちだけじゃここには来れない。流石に危険すぎる……本当は危険でも助けたいけれど、死ぬとわかってるところにはいけない。

 メドリに死んで欲しくないのはもちろんだし、私たちが行けばナナちゃんもついてくると思う。ナナちゃんが死んでしまったら、もしイチちゃんが助かっても意味がない。イチちゃんとナナちゃんは2人でいないと。


「探索は明日からとする。以上だ」


 拡声器がぷつんときれ、静寂が広がる。

 静かになると途端に不安になりそうになる。本当に2人の元となった設計図がここにあるのかとか、まず生きて帰れるのかとか……


「イニア。大丈夫。一緒にいるから大丈夫だよ」

「……うん」


 少し心に雲が陰る時、いつでもメドリが私を助けてくれる。私の手を握ってくれる。私に声をかけてくれる。それがとてもメドリのことを感じられて、私を落ち着かせてくれる。


「それじゃあ、また明日ね」

「はい。おやすみなさい」

「おやすみ」


 まだ早いけれど、セルシアさんは自分の部屋へと帰っていった。明日からは大変だし、私達も早く寝た方がいい。


「ナナちゃん。1人で大丈夫? それとも一緒に寝る?」

「ううん! 大丈夫! それにお姉ちゃん達の邪魔したくないもん!」


 いつもイチちゃんと一緒に寝ているから寂しいかと思ったけれど、大丈夫みたい。

 けれど、邪魔って……ナナちゃんが邪魔だなんて思ったことないけれど……あ。


「じゃあねー!」

「うん。おやすみ」


 その可能性に気づいたとたん、私の中に羞恥心が広がって、おやすみとは言えなかった。言おうとしたけれど、私の思考は焼き切れるほど熱を持っていたせいで、何位も言えなかった。


「イニア? どうしたの? 顔赤いよ?」

「ね、メドリ……もしかしてだけど……ばれてるの?」

「なにが?」

「私たちが、そ、その、えっちなことしてるの、ナナちゃんに……」

「うん。そうだと思うよ」


 それを聞いた途端、自分でもわかるぐらい顔が赤くなって熱を発してるのがわかった。

 すごく恥ずかしい。え、じゃあ、あんな声やこんな声も聞かれてたってこと……? うぅ……そんな……


「まだ子供だから、何か変なことしてるぐらいだと思うけれどね」

「……メドリは恥ずかしくないの?」

「ちょっとは恥ずかしいけれど、それよりイニアのかわいいところみたいから」


 たださえ羞恥心でいっぱいの思考にメドリの言葉が入ってきて、さらに思考がやられてしまう。メドリにかわいいって言われるだけで、すごくうれしくなってしまう。うれしくなっつてしまって、思考リソースがパンクしてしまう。


「ふゅぅ……」

「い、イニア? 大丈夫?」

「ぅ……ん……」

「……疲れてたんだね。おやすみ。イニア」


 何も考えれなくなってしまった思考の中で、メドリの優しい声と触れる手によって、穏やかな眠りへといざなわれていった。

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