第107話 おなじの
「私も行く! 私も……イッちゃんを助けたい」
「ま。まってっ……だめ。ナナ、1人じゃ……けほっ!」
私たちがナナちゃんに行く意思があるのかを聞くと、ナナちゃんは行くと即答した。予想通りの答え。そして、イチちゃんの反応も。
イチちゃんは風邪で苦しいはずなのに、ナナちゃんを引き留める。私も最初はナナちゃんを止めようと思ってた。イチちゃんはナナちゃんと一緒にいたほうが安心すると思っていたし、ナナちゃんだって心細いと思ったから。
でも、そんなことは言えなかった。
ナナちゃんの目を見たら、止めることはできなかった。ナナちゃんの中にはどうしても好きな人を助けたいって覚悟が見えた。
「……危ない時は2人で助け合う……そうでしょ? この前イッちゃんが私のこと助けてくれたから、今度は私の番だよ!」
「で、でも……」
「大丈夫! すぐ帰ってくるよ!」
きっと、私もメドリが同じような状況になったら、同じように思う。そう共感してしまったから、私はナナちゃんを止めれなかった。
「お姉ちゃんたちも……止めてっ……!」
けれど同時にイチちゃんにも共感してしまった。
メドリが私を助けるために危険を冒そうとしているなら、私はそれを止めようと思う。一緒にいてほしいって思う。もし、それで私が死んでも、その時まで一緒にいてほしいって。
「……止めても行くよ。イッちゃんのために何かしたいの」
「2人の気持ち、どっちもわかるよ。だから2人で決めて? あと3日はあるから」
これは2人から逃げてるのかな。でも……他の人になんて決められたくないと思う。私なら、メドリとのことを誰かに決められるなんて嫌だから。2人が、2人だけで決めたほうがいい……そんな気がしたから。
「……わかった。少し話す」
「イッちゃん……無理しないで。辛くなったら、すぐ言ってね? 我慢してたら、絶対行くから」
「わかってる。今は、さっきよりは楽だから」
アマムさんのおかげかな。
ほんとにありがたい。私にはこんなことできないから。
「今日は、ここに泊まろっか。メドリはそれでいい?」
「いいよ。一緒にいれるなら」
「……私はここで寝てもいいかな? イッちゃんの近くにいたいの」
「もちろん」
というか、最初からそのつもりだった。
2人がここにいるんだから、私達も近くにいていたい。ゲバニルの基地にいるのに危険が迫るとは思えないけれど……イチちゃんの、2人のことが心配だから。
「じゃあ、話してくるから」
パドレアさんかアマムさんに泊まることを伝えないと。
病室を出ると、すぐに2人の話し声が聞こえた。喧嘩っぽい雰囲気の中に、安堵のような柔らかな声が聞こえて、2人に決めてもらったほうがいいって思えた。
「……イチちゃん、大丈夫かな」
私も不安になっていた。
正直言えば、今にでも未開拓領域に飛び出して、2人の情報を探したい。居ても立っても居られない。なにかをしないと、嫌な想像をしてしまいそうになる。
2人の前ではそんなとこ見せられないけれど、ふとした瞬間に無力感に苛まれる。メドリの言葉が、存在がなければ、私はもう何もできなくなっていたかもしれない。けれど、メドリが私に思い出せてくれた。私が何をするべきか。
「わからないけれど……助ければ、絶対大丈夫になるよ」
「そう……だね。助けたい」
「……うん。大丈夫だよ」
メドリが私の心を支えてくれる。私が辛くたって、苦しくたって、メドリが私を助けてくれる。メドリがいなければ私はもうとっくに心が死んでいた。だから私もメドリを助けたい。メドリの心の助けになりたい。
きっと、イチちゃんとナナちゃんもお互いを同じように思ってる。
2人は同じ施設で育ったって言ってた。同じ境遇で、しかもいつ死んでしまうかもわからないような場所で、2人は一緒にいた。お互いを支えあって生きてきた。
他にも8人同じ境遇の人がいたって言っていたけれど、きっとその中でも2人は特別な関係だったんだと思う。そうに決まってる。いつもの2人を見ていればわかる。
イチちゃんはナナちゃんのことを世界で一番大切に思っているし、ナナちゃんもイチちゃんのことが大好きって、伝わってくる。どこまで関係が進んでいるのかはわからないけれど、お互いを好きなことは間違いない。
そんな関係の2人なんだから、ずっと一緒にいてほしい。それを助けたい。
もし2人が相談した結果、ナナちゃんが一緒に来ても来なくても、私達は2人の情報を得てくる。
もしかしたら別の古代施設かもしれないし、古代施設じゃないところにあるかもしれない。もしそうなら、私達だけでも未開拓量池に行くし、アヌノウスの基地にだって行ってくる。
私は絶対2人を助ける。
……いつのまにか、私にとってここまで2人が大きな存在になってるなんて、ちょっと驚き。もちろん、メドリが一番なことは変わってないけれど……何だか2人のことはほおっておけない。
約束というよりは……やっぱり一緒に長くいたからかな。
子供というのも関係してるのかもしれないし、2人に共感したからというのもあるかもしれない。
けれど、それは2人だったから。イチちゃんとナナちゃんだったから、私はこんあにもなにかをしたいって思えてる。
「イニア。言っておいたよ。すぐそこの部屋使っていいって」
「あ、うん。ありがとう」
メドリがパドレアさんに送ったメッセージはすぐに帰ってきた。パドレアさんは基本的に帰ってくるのが遅いから驚いた。
「それと、次の予定が来たよ。未開拓領域のやつ」
「あ、それで」
それを送ってくれようとしてたから早かったわけね。というか、いつもパドレアさんを挟むのはなんでなのかな。上から直接私たちに伝えればいいような気もするけれど……そういうものって思っておいたほうがいいのかな。
「……一旦、帰ろっか」
まず着替えを取りに一度は帰らないといけない。そのあとは、食べ物……はここの食堂でいいかな。あと……なにかあるっけ。
「イチちゃんとナナちゃんにメッセージだしとくね」
「うん。ありがと」
そういうとメドリはすぐに文章を打ち込んだ。最後にいつもこれでいいかなと、私に見せてくる。毎回私は即答でそれでいいよと返す。
これはメドリが自信がないからなのかなとおもうけれど、私が頷くだけでメドリが動けるようになるならそれでいいかなと思ってる。
実際メドリの文章に問題なんてない。それどころか私が打つよりずっとよくできた文章だと思う。打ち込むのだって、メドリのほうが早い。
「いつも、ありがとね」
「うん……? うん。私もありがとう。イニアにいつも助けられてる」
頼りっきりにしてしまうから、もっといろいろしてあげたいって気持ちがないわけじゃないけれど……私たちはずっと一緒なんだから。何もかも一緒なんだから、きっとこれでいい。
「嬉しい。メドリ……大好き」
「私も好きだよ。ずっと私を好きでいてね。何があっても……」
「うん。絶対ずっと好きでいるよ」
私がメドリに好きっていうたび、メドリは心底安心したような、嬉しさに包まれた顔を向けてくれる。それがとてもかわいらしくて、そんなメドリをもっと好きになる。
メドリを好きって気持ちがいろいろな原動力になってくれる。メドリが隣にいるから私はいろんなことができる。二人を助けるのだって、メドリがいなかったら踏み出すこともできなかった。
何かあるたびに、日々を重ねていくたびに私はメドリを好きになる。
ずっと。いくらでも、私の気持ちは強くなっていく。
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