第39話 ふあんを
魔導機の最初の実験から、少しづつ魔導機は改良されていって実験が重ねられた。最初の実験で私達でも魔導機の効果範囲なら離れられることがわかったから、2回目からはパドレアさん達が実験していた。また吐いちゃうわけにもいかないしね。
その間私達は特に力になれることもないので、別のことをしていた。それは戦闘技術の習得。
メドリの勉強がひと段落したということと、魔導機を使えば、最低15mは動けるということでね。
戦闘訓練は隊長……アインさんが主導でやってくれた。
この前魔力の塊のように見えたアインさんは、魔法で戦うタイプなのかなと思ったら、身体強化もかなり使えるようで、魔法なしでも私は全く歯が立たなかった。本人曰く身体強化とはちょっと違うらしいけど。
メドリも魔導機の練習を始めた。
私の術式のサポートをしても、メドリの魔力操作の技術があれば、魔法演算領域にはまだまだ余裕があったから、さらに私の力になればと言って、始めてくれた。
そんなふうに私のために何かをしてくれるメドリはすごいかわいい。私も何もかもしてあげたくなる。
メドリはいろんな魔導機に触れてみたけれど、私の兼ね合いを気にして、広範囲系の魔法が使える魔導機を選んでいた。すごい高そうなやつ。経費じゃなかったら、私の貯金の大部分が吹き飛んでいたかも……いや買えたかもわからない。
でもその分十分な効力があって、多少は魔力操作は難しいけれど、範囲内に強力な電撃を生み出すことができる。魔力操作をしくじれば、範囲内のどこに飛ぶかわからないから、私に当たるかもしれないけど、メドリの技術があれば大丈夫。
けど、メドリの助けを借りても、隊長には勝てなかった。
隊長というだけあって凄く強い。隊長さん以外とも戦ってみたけれど、誰にも勝てない。やっぱりゲバニルはすごい人が集まってる組織なんだと思う。
でも、ところどころ良い戦いになったのもある。特にコムトさんを思いっきり殴れたのは気持ちが良かった。私はまだメドリを傷つけたことを忘れてない。そのあとボコられたけど。
あとはメドリ1人だけでも、脅威に対処できるような訓練もしてた。魔導機を高速かつ正確に発動できるように。
メドリが1人で戦ってる状態は訓練と分かっていても、凄く怖くて、つい手を出しそうになったことも一度や二度じゃない。
けれど、メドリは私の力になりたいって言ってたから。
それに……もし私が戦えなくなっても、メドリを守ってくれる力は必要だと思ったから。そんな世界は想像したくないけど。だから堪えた。
そんな生活が続いて、半年経った。
「……今日は、こんなもんかな」
「っはぁ……!」
隊長が合図を出して、深く息を吐く。
魔力が枯渇しかけなのがわかる。体力もほとんどない。
凄く疲れた。
「お疲れ。明後日だっけ?」
明後日。なんのことか言わないけど、私達にはわかってる。
「はい……ちょっと怖いですけどね」
「大丈夫さ。メドリも魔導機の発動速度も上がってるし、魔力操作だけなら、この組織でもトップクラス。それにイニア、君もね」
隊長が私を見る。
私に手が伸びる。それを疲れた身体に鞭打って躱す。
「……避けなくても良いじゃないか」
「メドリ以外には触れられたくないので」
「頭を撫でようとしただけなのに」
……前から少し思ってたけど、隊長は人との距離が少し近いと思う。頭を撫でられるなんて、よっぽど仲が良くないとできないと思うんだけど……
「ま、まぁ……イニアも強くなってるってことが伝えたかったんだよ。最初に比べれば、動きが良くなってるよ。周りの見えるようになってる」
……それは、そうかもしれない。
私の動きはこれまで独学だった。ただ速度と力に任せた動きしかしてこなかった。けれど、隊長とかとの訓練でそれなりには、理にかなった動きができるようになったとは思う。
「だから大丈夫だよ」
「そう……だと良いんですけど」
でも正直あんまり自信はない。
きっとメドリと一緒だから。
メドリは凄く私に力を与えてくれる。術式を綺麗にしてくれたり、魔導機でサポートしてくれたり。それに、その存在が私に力をくれる。そこにメドリがいてくれるから、私に力が漲る。
でも……同時に怖くなる。
戦いの場にメドリがいるから怖い。
メドリが傷つきそうで怖い。
だから必死に準備はしてきた。でもその準備はいくらしても私の不安は消えない。メドリが傷つくところを想像しただけで、気が狂いそうになる。
「今日はまだいるんだっけ?」
「そうですね。魔導機を取りに行かないといけないといけないので」
「そっか。じゃあがんばってね」
「はい」
隣で息を整えて、休憩していたメドリの手を取り訓練場を出て行く。メドリはあまり動かないけど、魔力操作に集中してるのもあるし、今まで戦ってことなかったから、毎回私より辛そう。
それを見るたび、ちょっと苦しくなる。
けれど、私達のための苦労だと思うと、ずっと好きになる。
「どれぐらい範囲伸びてるかな?」
「うーん……どうだろ。もう何回も実験してるんだよね」
「えっと、たしかもう17回目とかだっけ」
「じゃあ、20mぐらいになってるといいね」
私達がおこなった遠隔魔力干渉機の実験の後も、繰り返し実験は行われていたみたいで、ちょこちょこ私達にもその結果を聞いていた。
少し驚いたのは、私達以外に魔力を完全に共有できた人はいなかったみたい。魔導機側の問題かと思って、一度私達もやってみたけど、変わらなかった。
パドレアさん達はなんでだろうと考えてたけど、きっと親愛度だと思う。相手を自分の中に受け入れることは、やっぱりお互いが好きじゃないとできないだろうから。
それにそうだったらいいと思う。
それならメドリと私の思いが凄く強いってことだから。
「ど、どうしたの?」
少しメドリへの思いが強くなって、指を絡める。するとメドリは照れたように私を見つめる。
今更これぐらい照れなくてもいいのに。でも……照れてるメドリも可愛い。
「んー? うんっとね。好きでいてくれて、嬉しいなって思って」
「え……!? そ、そうだよ? 好き……好きだよ」
メドリの顔が少し赤くなる。
メドリもそう言って指を絡めてくれる。
体温を感じる。暖かい。心地いい。
「イニアは……?」
メドリはさらに顔を赤くして、見つめる。
その顔には少し不安が見える。
そんな不安な顔をしなくても私の心は決まってるのに。
「好きだよ。大好き!」
「わっ……もう、いきなり……」
メドリに抱きつく。
好きって気持ちを伝えたくて。
「だめ?」
「いいけど……ここじゃ、恥ずかしい」
メドリが顔を真っ赤にしている。
組織の通路には誰もいない。人通りも少ないけれど、誰がこないって決まってるわけじゃない。私も見られたら恥ずかしい。
けど、恥ずかしがってるメドリはとてもかわいくて、さらにいたずらしたくなってくる。けれどその気持ちをぐっと堪えて、メドリを離す。
「……ここじゃなかったらいいからね?」
歩き出そうとすると、メドリが横から確認するように言ってくる。そう言って、私を受け入れてくれてるメドリがかわいくてまた抱きしめたくなる。
「私はいつでも良いけどね?」
「も、もう! いこ!」
さらに照れて、メドリが少し私の前を歩く。
そうやって引っ張ってくれるメドリも好きだけど、やっぱり隣にいたくて、少しペースを上げる。
「でも……もう明後日なんだね」
「明後日……私、不安だよ……」
メドリの手を強く握る。
不安が強くなれば、メドリと強く触れたくなる。
「うん……でも、イニアが守ってくれるんでしょ?」
その言葉に頷く。
強く頷く。
「なら、大丈夫だよ。私もイニアを守るから」
「……うん。そうだね……」
まだ不安は完全には消えない。
メドリがいなくなってしまうかもって、少し考えるだけで苦しくなる。でも、メドリが大丈夫って言ってくれたら、私も勇気が起きる。
そう言って通路を歩いて行く。
そして明後日は来る。
明後日の初任務が。
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