第81話 すぎてく
家に帰ってきて2週間。
イチちゃんとナナちゃんと一緒に出かけたりして、日常が過ぎ去っていく。メドリと過ごす大切で幸福な日常が。
「イニア……イニア……好き……んぅ……」
「私も好きだよ……メドリ、可愛い」
「ぅ……にゅぁ……」
声にならない声を上げながら私の腰に手を回してメドリが抱きついてくる。微笑みながら、安心しきってふにゃふにゃになったメドリを見れるのはすごく嬉しい。しかも、私といてそうなってくれてることが、私の中の好きって気持ちをさらに強くする。
紫髪を優しく撫でる。
明るくはないけれど綺麗な紫髪。それを指でとかしながら、メドリの温かみを感じる。この暖かさが私を包んでくれる。指が紫髪に絡みとられてるみたいで心地いい。
「ん……」
「どうしたの? 眠い?」
「んぁ……」
あくびまじりの声にならない声をだす。同時にだんだん目は開かなくなっていって、メドリの中で眠気が充満しているのがわかる。
まだ昼過ぎなのに。
けれどメドリが眠いなら仕方ないかも。別に何か予定があるわけじゃないし……メドリともう少し話していたいって気持ちがないわけじゃないけれど、メドリの寝顔が見れるならそれはそれで。
「……すぅ……ぅ」
目を閉じてからも撫で続けていれば次第に寝息を立て始める。安心しきってるのが見て取れる。私がいきなり襲うかもしれないのに。
可愛いメドリが私にもたれて寝ている状況なのに襲わない方が難しい。けれど、今はまだ昼過ぎだし、近くにイチちゃんとナナちゃんもいるから、ぎりぎり理性が勝ってる。
そんな私の前で寝てしまうなんて。もう襲っていいって言ってるようなものなんじゃない? まぁメドリが眠いなら、気が済むまで寝ていてほしいし、襲ったりしないけれど。
寝顔を見るのは好きだし、信頼してくれてるって気がして嬉しくなるから。もしかしたら……襲われてもいいって思ってくれてるのかもだけれど。
「ふふ……可愛い」
思わず呟いて、前髪をさする。
可愛い……可愛いな。見てるだけで好きが溢れちゃう。側にいるだけで多幸感を感じて、だめになってしまいそう。
「すぅ……ぅ……ん……ぅ……」
寝息だって可愛い。
紫髪も、顔も、動きも、全部。
全部可愛い。
好きだから可愛いのかな。可愛いから好きなのかな。好きだからかな。メドリのこと好きだもんね。メドリ以外には別に可愛いとは思わないし……やっぱり好きだから可愛い。
メドリの全部が好きで、メドリが好きで……幸せ……
メドリにこうやって信頼されて、一緒にいれて……こんな日々が来るなんて、昔は思わなかったな。メドリがいてくれたから、一緒にいてくれたから全部うまくいってる。一緒にいることがうまくいってる証拠。
イチちゃんとナナちゃんも助けれたし。2人は……お菓子かな。私はお菓子なんてほとんど食べたことないし……美味しいのかな。別に食べたいとも思わないけれど。
美味しいものを食べるより、メドリを食べていた方がいいし……それにメドリ以外のものを感じる時間なんて少なくていい。味気なくていい。メドリとの時間さえ味わえればいい。
「もぐもぐ……んぐ……イッちゃんは食べないの?」
「私は……だって太りそうだし……」
「んぷ。大丈夫だよ! 美味しいし一緒に食べよ? それに太っても一緒に運動してあげるから!」
「で、でも……」
「ね?」
「……わかった。一口だけね?」
あの2人も仲良さそうで何より。幼馴染というか、それこそ同じ場所で育ったみたいだし姉妹のようなものなのかな。2人は、恋人……と言っていいのかな?
まぁ、なんでもいいか。一緒にいたいとは思ってるだろうし、それを助けれたらいいな。
「いぃぁ……」
「んー……どうしたの?」
「んぅ……ぅ……す、ぃ……」
弱々しい声で私を呼ぶ声が聞こえて、メドリの方に視線を戻す。起きたのかと思ったけれど、ただの寝言だったようで、可愛い寝息がまだ聞こえる。
けれどさっきより身体を絡み付けてる。しかもさっきの寝言は、好きって言ってた。私の名を呼んで、好きって。
「……もう。ほんとに」
ずるい。
また好きになっちゃう。
けどこの感覚が心地いい。好きになって、好きって気持ちが強くなって、全部捧げたくなって……メドリのことばかり考えちゃうこの感覚。
メドリへの恋心を自覚して、メドリがこの気持ちを受けれてくれたぐらいから、この感覚はあったけれど、最近はどんどん強くなっている気がする。
それは、メドリが前より私に触れることが増えたから。前までも触れてくれてたけれど……なんというか、私から触れることが多かった気がする。それが逆転してるっていうか。
嬉しい。嬉しいな。
メドリも私を求めてくれてるってことだよね。前より私を好きな気持ちが強くなってるってことだよね。
「私も……好きだよ」
「んぅ……」
我慢できなくなって、小さな声で好きを溢して、額にキスを落とす。メドリは少し身じろいて、息を漏らすも起きる気配はない。
全然起きる様子がないからさらにいろんなことをしたくなるけれど、その気持ちを必死に抑える。メドリの睡眠を邪魔したくないのもそうだけれど、そういうのはメドリが起きてるときの方がいいし。
「でも……」
少しぐらいなら。
メドリの紫髪をすくって、口に咥える。メドリの良い匂いが広がって、メドリに包まれてるみたいで……幸せ。暖かくて、優しくて、私を包み込んでくれる。
好き……好き……
こんな日々がずっと続けばいいな。
メドリと一緒にいて、好きって言い合って、お互いを感じて……イチちゃんとナナちゃんもいて……こんな幸せな日々が続けばいい。
「……あ」
けれど、現実はそういうわけにもいかない。
近くに置いていた通信魔導機が光る。
メドリを起こさないように、そっと手を動かして、画面を見る。そこには予想通り、パドレアさんからの連絡が来ていた。
「次の仕事……」
やだな……もっとメドリとこうやっていたい。
でも……もっとメドリと一緒に過ごすためにも働かないとだよね。それに、今の仕事が嫌いってわけじゃない。
規則はほとんどないに等しいし、メドリとずっと一緒にいれるし、難しいことをやるわけでもない。
結局ゲバニルが私達の仕事の成果をどんな風に使ってるのかは知らないけれど、給料は送られてくるし、まぁなんでもいい。
きっと悪いことではない……と思う。
悪いことに使っていても、私たちに危害がないなら別にいいのかもだけれど、嫌といえば嫌。無理に暴こうとは思わないけれど……
これでも1年近くゲバニルの人達を関わってから経つわけだし……パドレアさんやアマムさんはもちろん、隊長や他の人が悪いことをしてるようには見えない。
もちろん、そう信じたいだけかもしれないけれど。
「あんまり気にしなくていいかな……あれ」
考え事をしながら、次の調査の詳細情報を眺めていると、いつもと全く違うことが書かれていた。
今回は規模も大きく、危険度も高い場所なので合同ですよ!
「ごうどう」
私達だけじゃないってこと……だよね。
それは、ちょっと、かなり嫌だけど……仕事っていうなら仕方ない、のかな。こんなことがいつかあるかもってのは思ってたし。
まぁいいか。
メドリと一緒なことには変わりないんだし。メドリと一緒なら、うん。大丈夫。きっと大丈夫。
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