第82話 おかしく
「ごうどう……って、大勢ってことだよね……」
夜、寝床の中でメドリに今日の昼に見たことを伝える。想像通りというか、案の定というか、メドリはあんまりいい顔はしない。
「うん。多分そう、だと思う。その……きつそうなら、パドレアさんに言ってやめてもらうけど……」
そんなことをしていいのかは知らない。
元々そういうこともあるよ的なことは言っていたし難しいかもしれないけれど、メドリが嫌っていうなら、無理にでもやめてもらう。それで仕事がなくなっても仕方ない。
メドリが嫌がることをして生活ができても意味がない。メドリに喜んでいて欲しいし、楽でいて欲しいし、幸せでいて欲しいから。
「ううん……大丈夫。イニアも、いるんでしょ?」
「もちろん。ずっと一緒だから」
「なら……うん。大丈夫だと思う」
それなら、いいけど。
無理をしてないか気になるけれど、今のメドリなら我慢せずに全部話してくれるし、大丈夫、だと思う。
それに一緒にいるから大丈夫って言葉が、私の心を暖かくしてくれる。私の存在がメドリの支えになれてる気がするから。
「な、なに?」
気付いたら目の前にあったメドリの髪に触れて、さすっていた。触り心地のいい髪。ずっと触れてたい。
「んー……嬉しいなって……メドリの支えになれてるなら、すごい嬉しい」
言ってから髪に触れていた理由にはなってないことに気づいた。いやでも、間違ってはないか。嬉しいからメドリに触れたいし、メドリに触れていたら嬉しいもの。
「……うん。私……イニアがいないとだめだもん。イニアも、そう、だよね?」
「そうだよ。私も、メドリがいないとだめ……だめだし、一緒にいれば大丈夫。一緒にいれたら他に何もいらない」
「私も、私もそう。だから、何があっても大丈夫。イニアはずっと一緒にいてくれるんだもんね。ずっと、大丈夫……ね」
手を握りあって、見つめ合う。
メドリの瞳の中に私がいる。私だけがいる。メドリは今、私しか見てない。私だけを見てる。
「好き」
思わず呟く。
また好きって気持ちが溢れ出る。
メドリと話すたびに、メドリと触れ合うたび、メドリに支配されて、見られて、メドリが私のことを考えているってわかるたびに好きって気持ちが強くなる。
「私も、んっ……」
我慢できなくなって動き出した唇を奪う。
少し驚いたようなメドリだったけれど、私のこんな行動にも慣れ始めたのか、すぐに舌を絡ませてくれる。
くちょくちょと絡み合う音が響く。
もう何度もこうしてキスをしたけれど、私はやっぱりまだ慣れない。好きな人と、メドリと深く繋がってる幸せに慣れてる気がしない。
何度しても新鮮なままで、私の心を暖めて、潤してくれる。好きで好きで仕方ない。こうしてる間も好きって気持ちはもっと、ずっと大きくなる。ずっとこうして、メドリの瞳の中に私がいて欲しい。
「っ、っはぁ、ん。イニア……」
長いキスを終えて、メドリは少し頬を赤くしたまま私の名を呼ぶ。キスで力が抜けてしまったのか弱々しい声は、私の耳から入って思考をぐちゃぐちゃに溶かしそうになる。
「ん……メドリ……」
いつのまにか、思考は熱に浮かされたように、暖まっていてメドリのことだけになっていた。
いろんなことを忘れて、メドリだけを見ている。メドリが私の心に熱を与えてくれる。一緒にいると生きてる気がする。幸せになれる。一緒にいれたら、それでメドリが幸せでいてくれたら、それ以上に嬉しいことなんてない。
「イニア……大好き。ずっと、ずっと一緒にいて……」
メドリの声が私の思考をさらに溶かす。
そんな声が近づいて、耳の中へと入っていく。耳が声の中に包み込まれて、息遣いが耳から直接入ってきたときに、耳が舐められてるって気づく。
メドリの唾液が直接耳にかかる。舌が触れる。メドリに食べられてる。求められてる。
「んんっ……ぁぅ……」
気持ちいい。
思わず声が漏れる。あんまり大きな声をあげたら、イチちゃん達を起こすから、よくないってのはわかってるけれど、我慢なんてできない。
けれど私もメドリもお互いを求めて感じたい気持ちを抑えるなんてできないから……
「……顔赤いね……気持ちいい?」
「ぅん……っ! そ、そこ……ぁっ!」
耳を舐められてるだけでも気持ちいいけれど、その中でいきなり首をさすられる。メドリの指が私の首を軽く押す。
メドリの触り方の問題なのか、私の首が弱いのか、それともその両方なのか、全身に痺れに似た快楽が走って、急激に思考が弱くなる。
「ここ……弱いの? かわいい」
「や、ん……メドリ……まって、なんか、へんっ、あぁっ!」
自分のものとは思えない声が響く。
思考が弱くなっていくのと同時に感覚がどんどん鋭くなっていく。こんな風に快楽に溺れそうになることは今までも何度もあったけれど、その比じゃない。
頭がぽわぽわして熱いし、全身が浮くような感じがする。自分の身体じゃないみたい。ちょっと怖くなっちゃう。なんだか快楽の中に沈んで帰ってこれない気がして。
「ぁぅ……ぃぁ……」
「ふふ……ね、そんな顔して……もう、かわいい……イニア……好き……大好き……」
声が出ない。
声を出そうとしても、私の口から漏れるのは息と小さな音だけ。力もはいらない。メドリにもっと触れたいのに、力が入らない。それに握っていた手もいつのまにか組み直されて、メドリの左手で両方の手首を頭の上で掴まれてる。片手だけなのに今の私じゃその拘束を抜け出すことはできない。
「ぁっん! ね、……まっ……ぅぁ!」
力がはいらなくて唾液が口から溢れてるのがわかる。それになぜか涙も出てきた。濡れてるはずなのに熱に浮かされた私の身体はそんなの感じない。
「あっ……イニア……嫌だった……? も、もうやめるね。その、ごめ」
「な……んで? やめ、ぁぃで……ね……」
私の涙を見て首から手を引っ込めて、拘束を解くメドリにか細い声で引き留める。
メドリの顔には少しの驚きが見れたけれど、それはすぐに安心と嬉しさに変わって、また私の首に手をかける。手をかけると言っても、指が伝うぐらいだけれど……それがたまらなく快楽を生む。
「……もう、私、止まれないよ?」
「ぅ……ん」
やっぱり、こんなの始めて。
メドリに触れられて、こんな風にメドリの目に私だけが映ってるのに涙を流すなんて。しかも少し怖いとも思ってる。自分が自分じゃないみたいで。
でも……それでも、だからこそ、もっと触れて欲しい。
もっともっとメドリに触れられて、私をおかしくして欲しい。私をメドリに変えて欲しい。メドリだけの私になりたい。メドリの求める私に。
今のメドリの目には私しか映ってない。私だけを見てくれてる。嬉しい。やっぱりすごい好き。好きで好きで、その中で私が変になっちゃう恐怖なんて少しのもの。
おかしくなって暴走しちゃってメドリを傷つけるのは怖いけれど、このおかしくなるのはきっとそういう方向じゃない。だからもっとおかしくして欲しい。
「んん!」
また自分のものとは思えない声が部屋に響く。
その声を少し遠くに聞きながら私は快楽に沈んでいく。
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