第83話 あたたか
「またここ……」
パドレアさんからの連絡から数日。私達は次の仕事の場所へと来ていた。と言っても、新しい場所じゃなくて、前も一度来た場所。
アミカ。
私達が最初に魔物調査にきた場所。
そして、イチちゃんとナナちゃんに出会った場所。
「久しぶり……かな?」
「4ヶ月ぐらいだよね」
4ヶ月。長いような短いような。
「わー……! 久しぶりだね!」
「わっ、待って! 走ったら危ないっていつも言ってるのに……」
いつも通りナナちゃん元気いっぱいに興味の向くものへと走り出す。それに呆れたように、けれど同時に嬉しそうについていくイチちゃん。
そんな2人を見て少し安心する。
この場所は2人にとってあんまり良くない場所かと思ってたから。
一応来る前にも話したけれど、現地に着いたらどうなるかわからないから少し身構えてた。辛そうだったら、すぐに帰ってパドレアさんに連絡いれないと、とか考えてたけど杞憂だったみたいでよかった。
「2人ともこっちだよ!」
「うん! 今行く! イッちゃんこっち!」
「はぁ……はぁ……ナナ……はしゃぎすぎ……」
来たばかりなのにイチちゃんはもう疲れちゃったみたい。イチちゃんがあんまり動くのを好まないのもあると思うけれど、ナナちゃんがはしゃぎすぎなのはあると思う。私もあんなに動き続ける自信はない。
あれだけ元気のあるナナちゃんについていってるイチちゃんすごい。毎回疲れてるけれど。それでも2人でいる時は楽しそう。まぁ2人でいない時はほとんどないんだけれど。
「うぅ……やっぱりちょっと寒いね」
「もう冬だもんね……雪積もると面倒かも」
この前来た時は強光月ぐらいの季節だったから、まだ本格的に寒くなる前だったけれど、今はもうただ単に寒い。ここら辺は結構雪も積もるみたいで、地面にはまばらに白いのが点在している。
できれば雪が積もる前に帰りたいけれど……少なくとも1ヶ月はここにいることになるだろうし無理な気はする。
でも……どこを調査するっていうのかな。前は向こうの森の方だったけれど……今はまだマシだけれど、もう少ししたら雪がすごいからこの街からでるのも大変な気がするけれど。
その影響で、前来た時のような人の賑わいはない。彼らは未開拓領域へと行く人がほとんどだったから、これからの動けない季節までこの街にいる人は少ないんだと思う。
「この道歩いたことある気がする……」
「前と同じ宿だからね」
イチちゃんの呟きにメドリが答える。
今回も前と同じでパドレアさんが、というかゲバニルが手配してくれた宿。
「その、大丈夫そう?」
2人に問いかけてから、言わなくてよかったかもと思う。けれど、気になってしまった。
イチちゃんとナナちゃんにとってここには辛い記憶が多いんじゃないかって。ここに来たら、アヌノウスにいたときのことを思い出しちゃうんじゃないかって。
「……昨日も言ったけど……私達感謝してる。お姉ちゃん達が助けてくれてよかったって。ここはお姉ちゃん達と会えた場所。だから……」
「お姉ちゃん達といるから大丈夫ってこと! 私達だけじゃ無理なことでも助けてくれるもん!」
イチちゃんは少し照れながら、ナナちゃんは元気よく、大丈夫って言ってくれた。私達がいるから大丈夫って。
「そっか……なら、うん。よかった」
もちろん2人にとって1番の支えになってるのは、お互いだろうけれど、そんな2人を助けることができてるなら、私も嬉しい。
あのとき、2人を助けるって決めてよかった。今なら素直にそう思える。これからも助け続けれたらいいな。いつか私の、私たちの助けなんて必要じゃなくなるその日まで。
宿に着いたら、明日に備えて休憩することにした。
明日は顔合わせと説明だけらしいけれど、それはそれで消耗しそうだし。
荷物を適当に置いて、持ってきた食事を出す。と言ってもそれは私達用じゃなくて、イチちゃんとナナちゃん用だけれど。これでも一応栄養がありそうなのを選んだ……つもり。
料理とかできたらなにか違ったの何か違ったのかもしれないけれど、昔から冷凍食品と携帯食料だけしか食べてこなかったからそんな能力はない。
「先お風呂入る? 身体冷えたでしょ?」
「うん。ありがと! イッちゃん、ほら早く!」
「あっ、ちょ、ちょっと待って……」
2人が居なくなって、一気に静かになる。
イチちゃんとナナちゃんがいる時みたいに賑やかなのもいいけれど、こんな風にメドリと静かで穏やかな時間は何にも変えがたいもの。
「結構冷えたね……イニアの手、冷たい」
「メドリはあったかい……好き」
「そう? じゃあ、私が温めてあげる……」
メドリと私の手が重なって、指が絡まる。メドリの手はすごく暖かくて、さっきまでの寒さが嘘みたいに吹き飛んでいく。
心地良くて、穏やかで、暖かい。そんな時間。
「2人とも、大丈夫そうだったね……よかった」
「……うん。イニアは気にしてたけど……2人は大丈夫だよ。だって、ずっと2人でいたんだから」
「そっか……私達と一緒だね」
隣に好きな人がいるって言うことが、どれだけ心に活力を与えてくれるのか私は知っているから。そう考えれば、イチちゃんとナナちゃんじゃ、私が思ってるよりずっと強いのかもしれない。
「ううん、一緒じゃないよ……私達はこれから……そうでしょ?」
「そう、だね。これからずっと一緒だもんね」
そっか……そうなんだよね。メドリとの生活が幸せでずっと一緒にいるような気がしてたけれど……
今までは、ほんの1年半ぐらい前までは、私達は別に一緒じゃなかった。私にとっては出会ってからずっと1番の人だったけれど……メドリがどう思ってたかはわからない。それに、ずっと一緒ではなかった。
あの時は辛いことも苦しいことも1人だった。
だから、これから。
「これからはずっと……どんな時も、どんなことも一緒だからね」
「うん……」
メドリの相槌を聞きながら、メドリの腕の中に抱かれる。暖かいメドリの体温が私を包む。一緒になってる。一緒に熱くなって、どろどろに溶けて1つになってる。
辛いことも苦しいことも……全部。楽しいことも、嬉しいことも、幸せなことも……全部。ぜーんぶ。一緒。
「甘えん坊だね……かわいい」
「んぅ……だって、メドリが甘やかしてくれるから……」
「いくらでも甘やかしてあげるよ……」
繋いでいた手が片方離れて、私の頭を撫でてくれる。優しく撫でてくれるだけで、いろんなことが思考から消えていって、優しさと暖かさと安心で包まれる。
メドリと一緒にいるこの瞬間がずっと続けばいいのに。心地良い。心がどんどん満たされていく気がする。
「……ありがと。私と一緒にいてくれて。私と一緒にいることを選んでくれて」
「ううん……メドリこそ、ありがと。私を好きになってくれて……すごい嬉しい。こんな風に一緒にいれるだけで私……」
「うん……私もそうだよ」
そっか……メドリも幸せなんだ……私と一緒にいて、メドリも嬉しくなってくれるんだ。それが1番私は嬉しい。メドリが幸せになってくれることが、私の1番の幸せだから。私がメドリを幸せにできてるなら、それが何よりも嬉しい。
「ね……明日はどんな感じかな」
「うーん……どうなのかな。説明と顔合わせだけとは聞いてるけれど……」
「雪降るのにどこに調査に行くんだろね」
メドリの問いかけに少し思考を巡らせる。
街の中……とか? それなら街の外に出るよりはいいような気もする。でも街の中の魔力濃度なんて測るなんてそれこそ意味がわからないし……
あ、でもここら辺にはイチちゃんとナナちゃんがいた場所があるのか。そこだったりするのかな。流石にもう撤収してるような気もするけれど……
「わかんないや……メドリは?」
「私もわかんない。でも、いろんな人がいるんだよね……怖い人がいないといいな」
少し怯えたように恐怖に包まれた声をあげる。
メドリは今でも対人関係が苦手みたい。それは嫌われるのが怖いから。前まではそのせいでいろんなことができなかったみたい。でも今は違う。
「そうだよね。怖いけど……私がいるから。何があっても一緒にいるから、大丈夫。ね?」
「……うん。まだ怖いけど……でも、イニアはずっと好きでいてくれるもんね……ありがと……」
「当たり前だよ……ずっと、ずぅーと好きだから」
今も怖いのは怖いらしい。
でも、私がいるから。私はずっと好きでいるから。そのおかげで、前よりは大丈夫になってきたって言っていた。
それを聞いた時、私はすごい嬉しかった。
そんな風に支えになれてることがすごく……嬉しく嬉しくてたまらなくて……また好きになる。また好きが強くなって……
「お風呂あついー!」
「ナナ! ちゃんと拭かないと!」
お風呂から上がったらしい2人の声が聞こえる。
それを聞いて、少し目を合わせて微笑み合う。
「……私達もお風呂入ろっか」
「うん」
手をとって、一緒に歩く。
まだお風呂には入ってないのに、冷えたはずの身体はのぼせたように温まっていた。
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