第85話 すべての
通路を歩いていくと大広間のような場所へと着く。ゆっくり歩いてきたけれど、余裕を持って宿を出たおかげか予定された時間まではもう少しある。
それでも私達と同じように集められたと思われる人は大勢た。大抵1人みたいであんまり話してる人はいない。逆に大勢のところは大勢で、その一帯だけがすごい賑やかになっている。
「私達はこっちのほうにいようか」
私達も4人と多いといえば多いし、邪魔にならないようにと端っこへと向かう。
女だけ、しかも子供が2人の私達はこの中では物珍しいようで好奇の目線がいたい。あんまり見ないで欲しい。
「時間なので、そろそろ始める」
視線を感じつつも、気にしないように努めながら、時間は過ぎていき、拡声器を通した静かな、けれども遠くまで通る声が響く。音のした方向を見ると、ちょうど広場の向かい側に男が立っていた。
「人数は……10……20。25人。全員いるようだな」
そんなにいるんだ……そんなに集めてどんなことをするんだろ……危なくないのがいいけど。普段の魔物調査も危ないといえば、危ないのかもしれないけれどね。
「俺はガジ。今回の作戦……任務といった方がいいのか。それの主導をさせてもらう。普段は未開拓領域の調査などをしている。よろしく頼む」
未開拓領域……あそこに普段から行ってるってことはすごい強そう。未開拓領域には今の発展した魔導機や魔法があっても太刀打ちできない場所らしいし……
ここに集められたってことはやっぱり未開拓領域に行くことになるのかな……メドリと一緒だし、危ないことはあんまりしたくないんだけど……
「一応……言っておくが。今回の任務は、いや、今回の任務も極秘となる。これまでいろんな任務でも言われてきたことで今更かも知れないが、今回は特に極秘だ。関係者以外には、例え親族でも言わないように」
……今までそんなこと言われてたっけ?
ゲバニルに関しては言わないでね、とは言われてたけど、任務内容も言っちゃダメだったのかな? 私は別にどこで仕事してるみたいに言う相手がいないからいいけど、メドリは親に聞かれなかったのかな?
「では、今回の任務の概要を説明する」
そうして、なんというか少し重々しいというか、普段とは違う雰囲気で始まった説明は、いつもどおりのことを説明していた。
ある場所に行って、そこの調査をする。ただそれだけ。
違いがあるとすれば、行く場所は未開拓領域であること。それもその中で発見した巨大な施設。恐らく古代のものと思われる施設らしい。
と言ってもその施設の設備はほとんど死んでいるようで、中には魔物や自立魔導機がひしめいてるとか。その場所を調査して、地図を作って、制圧する。それが今回の任務。
正直……今からでも謝って辞めさせてもらおうかと考えるぐらいには危険な任務な気がする。一応中の魔物の強さは私達でもなんとかなるぐらいの強さらしいけれど……未開拓領域というのが、尾を引く。
未開拓領域がなぜ未開拓なのか。それは単純に太刀打ちできないから。
見上げるほど巨大な魔物や、どんな攻撃も効かない装甲を持つ魔導機。そんなのがさらに強力な魔物に破壊され生存権を脅かせれる。そんな場所。
もちろんそんな強力な魔物ばかりなら、未だに人類は壁の外には出て来れなかったと思う。けれど彼らは未開拓領域の奥の方にいて、何故かそこからほとんど出て来ないらしい。
さっきの説明を聞く感じ、そこまで奥に行くわけじゃないけれど、彼らが奥から出てくる可能性が0なわけじゃない。
しかも、ほとんど出て来ないっていっても、それは全体の数からみた話で、毎年観測されるぐらいには出てくる。防衛兵器や、強い人達が大勢集まればたまに一体ぐらい出てきてもなんとかなってるらしいけど、もし私たちがそれに遭遇したら……想像もしたくない。
つまり……怖い。
危険な場所なんて行きたくない。死にたくないから。死にたくないというより……メドリと一緒にいたいから。一緒にずっといるためにも危険な場所なんて……
「次は、班を決める。班員は5人だ。こっちで決めてもいいんだが……今までの任務で一緒になったやつもいるだろうし、顔見知りと組んだ方が何かといいかと思ってな。勝手に決めてくれ。少ししたら声をかける」
思考を巡らせてるうちに説明は終わり、次の話題へと話は移っていた。
5人の班決め。
ここにいる人は25人だから5つ班ができることになる。さっきの説明を聞く感じ、基本的にこの班ごとに分けられて行動することになるらしい。
最初は困惑していた回るの人も一瞬の後に一斉に動き出す。
ある人は元々一緒に来ていたであろう人と話し始め、ある人は仲良さそうな別の人へと声をかける。
なんか……こういうの懐かしい。
学校に行ってる時もこういうのあった。班決め。どんな場面でもこういうのはあって、確か……
「どうするの……誰か誘うの……?」
イチちゃんの囁くが私を過去から連れ戻す。
そうだ。そうだった。
こういう時、私はいつもどうすればいいか分からなくて。どうしようもなくて。ただ立ち尽くすだけだった。
周りはどんどん仲の良い人とグループを形成していく。けれど私の周りには誰もいなくて……
「大丈夫。どうせ誰か余るよ。それに私たちだけでもいい……ね?」
メドリが繋いだ手に少し力を込めて熱を送ってくれる。その熱は過去の記憶で冷やされた私の思考を温めて、安心させてくれる。
昔もこうだった。1人っきりの私の側にメドリはいつも来てくれて、私と一緒にしよって言ってくれた。そう言われるだけで私には自然と笑みが漏れて。
「うん……そうだね。一緒だもんね……2人は、どう、かな? その、もう1人探した方がいい?」
もしイチちゃんとナナちゃんが私達だけで不安というのなら、少し苦手だけれど、誰かに声をかけるしかない。別に声をかけるのが無理なわけじゃない……と思うし。
「ううん! 別に大丈夫! お姉ちゃん達がいてくれたらいい!」
「……私も。うん」
「そっか。なら待っておこっか」
私達がいるから大丈夫……か。
なんだか少し買い被りすぎのような気もするけれど。私達は別に強くはない。メドリと2人でも、ここにいる人の半分以上にはきっと勝てない。だから単純に考えれば、もう1人誰かを誘った方がいいんだけれど。
「信頼……されちゃった」
「……苦手?」
「……うん。まぁ。でも、イニアと一緒だから」
だから大丈夫。そう言いただけに指を絡め直す。
「私も。メドリと一緒なら。それに助けるって決めたからね……」
そう決めた。
あの時の約束を、気持ちを、未だに私は持っている。これからもずっと。
今となっても何故2人をあそこまで助けようと思ったかはわからない。同情心か、道徳心か、良心か……それとももっと別の何かか。わからないけれど、助けるって決めたから。
「ね」
「なに?」
メドリの短かな呼びかけ。
それが私を思考から引き戻して、メドリの方へと心が吸い込まれる。振り向くとメドリは徐に顔を近づけて。
「でも……私を1番にしてね?」
メドリが耳元で誰にも聞こえないような声を出す。
吐息が直接耳にかかって、私の身体に電流に似た快楽が走って、思考が弱くなる。一瞬座り込んでしまいそうになるぐらい、全身から力が抜けてしまう。
メドリが嫉妬してくれた。それが嬉しくて、今にもメドリを抱きしめて、いろんなことを求めたくなる。
けれどそんな欲望を抑えて、全身に力を込めて座り込まないようにして、溶けそうになる思考を留める。こんなとこでいきなり座り込むわけにはいかない。
「ずっと、メドリが1番だよ」
そしてメドリに返答を返す。
私の中では決まりきった、絶対の答えを。
メドリより大切なものはない。メドリと比べられるものもない。メドリは特別で、1番で、絶対で、私の全てなんだから。
「……そっか。そうだよね。ありがと。私もイニアが1番だから。好き」
「私も……大好き」
メドリもそう思ってくれてるといいな。
ううん。きっとメドリもそう思ってくれてる。私と一緒。ずっと、全部、何もかも一緒なんだから。
「あの、ごめんなさい。今、ちょっといいかしら?」
メドリと心を通わせているところに知らない声が割り込む。
内心、少しむっ、と思いながら声の主を見る。
そこにはふわふわしている緑髪の女がいた。当たり前だけれど大人。大人だと何歳かは外見から判断できないけれど……雰囲気的にはそれなりぐらい。
「なにー!?」
いきなり話しかけられて、私達が一瞬言葉に詰まってるうちにナナちゃんが話しかける。
「えっと……その、私と班を組んでくれないかしら」
そしてそのふわふわしている緑髪の女はそう言った。
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