第42話 金髪縦ロールとの再会1
昨夜あんな事があったにも関わらず朝は普通に始まった。
しかしこのままにできない事もあるので敢えてデンジャーゾーンに踏み込んでいく俺。
「昨夜の傷はもう大丈夫か?」
「傷は魔法で治していただいたので大丈夫です」
俺は朝食を作る手を休めることなく話を続ける。
「この辺にもゴブリンがあんなにも出現するなんて……コボルトだけじゃなくて……」
「女性にとってゴブリンとオークは不倶戴天の存在だからな。心配にもなる。聞くところによるとゴブリンを専門に倒している奴も居るって言うしな」
俺は静かにフランを見つめて、
「フランの事は俺が守る。だけど安全な場所以外で単独行動するときには護衛のスケルトンの数を増やさせてもらおうと思う。昨日は怖い思いをさせて済まなかった」
「ありがとうございます。私も夜の単独行動は危険な行為でした。気を付けます」
俺たちのパーティ、世界樹の若枝はまだ2人しかいない。
フランと呼び、ユウキと呼ばれるようにしたとは言えまだフランの口調は固い。
焦って何かをするつもりは今のところは無いが、もう少し砕けた感じの関係を作りたいと思っている。
それには足りない物がまだたくさんあるのだろう。
美樹の様にはいかない。
美樹との関係はそれこそ10年以上掛けて作られた物だったのだから。
その美樹との関係ですら失ってしまった。
その時自分に何が足りなかったか?正解は無いかもしれないが考える時間は充分にあったと思っている。
最早美樹に会う事は無いと思う。
だからこそこれからの相手には間違えられない。
同じ間違いをしたのではそれこそ美樹に顔向けできない。
フランとの関係がどうなるのかは分からないが今度は、今度こそは後悔の無いようにしたい。
ノーラタンの街壁の中に入ったのは傾いて少し赤み掛かった太陽に照らされ始めた時間だった。
ノーラタンの街では商店が閉まる前に駆け込みたくて急ぐ人の中を縫って歩くような状態だった。
道行く人々が力強く生きており、良く食べ良く飲み良く笑う。そんな雰囲気が漂っている。
この街には冒険者ギルドは無い。
だからこそテサーラの冒険者ギルドに依頼が廻ってきたのだろうし、殆どの事はノーラタンの中で片付ける事が出来ていたのだ。
今回の依頼も長期でノーラタンを離れると言う事情が有るが護衛の人員に余裕があるわけでは無いと言う事で冒険者に依頼が廻ってきたという事らしい。
俺は街の門番に話を聞いておいた領主の屋敷の位置に足を運び、どうやら間違わずに目的の建物を探し当てたとホッと息を付いた。
領主の館は人が住む建物としてはこの街では一番大きいが、街の中で一番大きい建物は断然教会である。
祈祷や祭礼の為の場所だけでなく、修道士達の生活の場や修行の場、併設された孤児院にもかなりのスペースを割いている。
領主の館はそれよりは小さいがいざという時の為に必要になる部分もあるために、客室や集会室、広間等の普段は使わない部屋も広く必要だ。
おそらくユウキとフランも今夜は客室を宛がわれて過ごすことになるだろう。
屋敷の玄関ホールにてギルドからの紹介状を執事に渡すと応接室に案内された。
屋敷の全体的な印象は華美ではなく落ち着いた感じにまとまっており、装飾は最低限に抑えられているが丁寧に造られている。
個人的にはかなり好みだ。いい趣味してる。
これは昨日の親父に関する考察は杞憂に終わりそうだ。
ソファーに座ると間を置かずに40代半ばと思われるメイドさんが入室。
紅茶のような飲み物を入れて退出していった。
感想?見事な所作でした。
カップ等の調度品も華美に走らず、品の良い白磁を出してきた。
一介の冒険者に出すには過ぎた品だろう。
現にフランも口を付けていいのだろうかと戸惑っているようだ。
しばらく待っていると40代前半位の男性が応接室に入って来た。
品の良い仕立ての衣服から見るとこの人が領主のカークス=ウェスタ―卿だろう。
領主は辺境伯よりノーラタンの街と周辺の小さな町や村の統治を任されている。
一応貴族階級の最下層ではあるが、爵位は無く言わば騎士爵というやつで領主は世襲という決まりは無いものの、このところの何代かは世襲されている。
領主と思しき人物は迎えて立ち上がろうとした俺達2人を手で制すると、
「君たち2人だけかね?」
「はい。戦力としては私がネクロマンサーなので馬車1台ならば2人で充分と考えています。確認なさいますか?」
特に反応が無かったのでスケルトンを倉庫から待機状態で召喚。
ターンエンド。
思わず腰を浮かしかけた領主を今度は俺が制して、
「大丈夫です。スケルトンは私の制御下にあります」
領主は小さく頷くと話し始めた。
「今回君達に依頼するのは王都へ向かう娘の護衛だ」
詳しい話を聞くとこういう事らしい。
領主には2男1女の子供がある。
2人の息子は既に両方とも成人しているが今回末娘のベルナリアが成人までの2年間、王都にある学校に通う事を領主は望んでいるのだそうだが本人が乗り気じゃない。なら実際の入学は半年後だが入学前の見学を受けさせてはどうかという事になった。
受けた上でそれでも気に入らなかったら別の道を探すそうで早めに判断したいのでこのような状況になったと言う。
この世界で往復に40日も掛かる旅に娘を送り出せるというのは凄いな。
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