第10話 ギルド長

「例のネクロマンサーが来たって?」

 俺の背後から声が掛かった。

「このテサーラの冒険者ギルドのギルド長です。」

 パシリアさんが教えてくれた。

 後ろに立つ人物を見るといかにもな人物だった。

 日に焼けた肌をしたガッチリとした男だった。

 頬に走る傷跡が真っ当な人生を歩んで来ていない事を物語っている。


「ギルド長のグリシェルドだ。お前、街に入る時に騒ぎを起こしたんだって?衛兵隊長から指導要請が入ってるぞ。もっとうまくやれよ、うまく」

 ギルド長は面倒くさいのを隠そうともせずにそう言ってのけた。

「はぁ、すみません」

 相手がそんな感じなのでこちらも気のない返事になってしまったが。

「まあ済んでしまったことはしょうがない。次からは騒ぎにならないようにしてくれ」

「はあ」

 どううまくやれというのか?分らん。


「ところでネクロマンサーってことはアンデッドを召喚するんだろう?ちょっとやって見せてくれねぇか?」

 興味津々といった感じで言ってきた。

「ここでですか?」

「裏に訓練場があるんだ。そこでやってくれ」

 ギルド長は立てた親指で背後を指さすように示した。

「生き物の死体が必要なんですが……」

 そう言うとギルド長は顎に手を当てて考えると、後ろを振り返って声を掛けた。

「おい、ナマガウ、お前もういいだろう」

「何がですかい?」

 ナマガウと呼ばれた男が素直に返してきた。

 俺は話の流れについていけなかった。

 何がもういいのだろうか?

「お前さん、もう3年もDランクを維持するのが精一杯じゃないか。もういいんじゃないか?」

「だから何が『もういい』のか分からないんだが」

 そこまで説明させるのか?といった顔してギルド長が軽い溜息をつく。

「もう頑張らなくてもいいんじゃないか?って事だ」

「何だ?嫁さんでも紹介しようってのか?」

「いや、嫁さんじゃねえ。しいて言えば再就職先かな?」

「何だその再就職先ってのは?」

 嫌な予感でもあったのだろうか?ナマガウには。

「そこのネクロマンサーがアンデッドを召喚するのに死体が必要だと言うからよ……今なら2ランク特進にしとくぜ」

 やっと話が理解できたのだろう。

 ナマガウは顔を赤くして声を荒げた。

「冗談じゃねぇ!何でそんな理由で死ななきゃいけないんだ!!しかも2ランク上がっても死んじまったら何のメリットも無いじゃねぇか」

「最後くれぇ役に立ってもいいだろうに」

「まだ言うかこの親父。狂ってやがる」

 ナマガウはそう吐き捨てると入り口から出て行ってしまった。


 ギルド長は俺の方に振り返ると、

「どうやら振られちまったようだな」

 ん?俺が振られたと言っているのか?このおっさん。

「まぁ仕方無い。明日夕方までに用意させるから夕方以降にまた来てくれ。お前の能力を見たい」

「強制ですか?」

「まぁそういう訳じゃないが、ネクロマンサーは珍しい。正しい知識を持っていたいんだ。協力してくれ」

 俺の口から溜息が出てきてしまったのはしょうがないと思ってくれるだろう?

「分かったよ。明日の夕方以降だな」

 そう言うと冒険者の登録料1000Gと引き換えに、首から下げられるように加工されたタグを受け取り、足早に冒険者ギルドを出た。


 パシリアさんの、

「また来てくださいね~」って声が聞こえたが、何の反応も返す気が湧かなかった。

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