第9話 冒険者ギルド

 広場にはまだ何軒かの露店が出店しているようだが、ほとんどは既に店仕舞いして空間だけが開いていた。

 近くの町や村から物を売りに来ていたのかも知れない。

 広場に面して教会や衛兵の詰め所等の大きい建物が建っている。

 冒険者ギルドもその一つだ。


 冒険者ギルドの建物は広場の北東側に建っている。

 これはコンソールに表示されているコンパスで確認されている。

 それで分かった事だが、どうもこのテサーラの街は南半球にあるようだ。

 太陽の位置が北側に位置しているからそう分かった。

 なぜ曖昧な表現になっているかと言うと、グー〇ル先生こと『異世界知識』のレベルが低いからなのか、その知識が頭の中に無いから。

 レベルが20になれば1人でも知っている人が居れば正しい知識なら分かるようになるのだが。

 もしかしたら地面が丸い事が一般的に知られていないのかも知れない。

 あーっ、と言うかこの世界、太陽が西から昇って東に沈むのか。

 何かのアニメの歌みたいな世界だな。

 現実世界でも南半球に行った事無かったから、太陽の動きとか考えたこと無かった。

 南半球にいて太陽が西から登ると日本と違和感が無くなるのか。


 冒険者ギルドのアーチ型の入り口をくぐる。

 扉は開かれていた。


 中に入ると外よりも暗い内部に慣れるまで少し時間が掛かる。

 カウンターには明かりが灯っていて、受付の女性が座っていた。

 女性はパシリアと名乗ると冒険者ギルドへの来訪の用件を聞いてきた。

「冒険者になろうと思う。登録をお願いしたい」

 俺の格好を見て予想していたのだろう。

 街に入る時に貰った仮の身分証の提出を要求されるのと時間を置かず、何かのアイテムを別の職員が奥から持ってきた。

 登録用の石板らしい。

 表面がつるっとするまで磨かれた黒曜石みたいな黒い石。

 血を1滴垂らすとクラス(職業)やステータス、スキルそしてレベルが表示され、クラスとレベルがタグに転写される。

 タグには名前と年齢、所属ギルド、ギルドランク、クラス、レベルと現在受けているクエスト等が表示されるそうだ。

 で、ギルドランクが上がる時又は前回の登録更新から1年が経った時に登録を更新する事。

 今回、街に入る時に税金として入街税を払ったが、この冒険者タグを見せれば所属ギルドの街とクエスト先の街では入る時の入街税は掛からなくなる事。

 所属ギルドを変える時も退出するギルドから転入するギルドに紹介状を書いて貰えば、転入時には入街税は免除になる事。

 タグを紛失した時の再発行費用は5000G必要になる事。

 冒険者が亡くなった時に可能ならタグを回収する事。

 又、ギルドランクを上げるのに必要な功績ポイントやランクを維持するのに必要な功績ポイント、登録が抹消されないための功績ポイントなどの説明を受けた。

「まずあなたは『ニュービー』という初心者のランクに所属します。このランクは新規冒険者が最大1年間所属する事になります。1年間の間に上のランクに上がれなかった場合は除籍になります。余程の事が無い場合は除籍になる人はいませんが」

 そう言ってパシリアさんは安心させるように微笑む。

「そうは言っても居ない訳ではありませんが、それよりも亡くなってしまう人の方が多いのが現状です」

 悲しそうな顔をして言うパシリアさん。


 この人たぶん演技派だな。

 コロッと騙されてる人が多そうだ。

 今も何人かの人の視線を感じるのは気のせいじゃないだろう。

「ニュービーの上のランクはEランクです。EからAまで上がって行き最後がSランクです。Sランクの冒険者は我が国でも5つのパーティに所属する20人しかいません」 

 そういえばこの街が所属する国について調べて無かったな。

 まぁ後でいいか。


「これで大体の説明が終わったのですが、何か疑問等がありますか?」

 質問はできた時にすればいいかと特に無いと伝えると、カウンターの下から少し大きめの針のような物を取り出して、

「血を1滴ここに垂らして下さい」

 と、石板の少し窪んだ部分を指さした。

 いざ俺が左手の人差し指を針で刺そうとした時、すぐ近くで声が上がった。

「痛い!」

「えっ?」

 パシリアだった。

「あっ、すみません。私の事は気になさらずどうか『ブスッと』やっちゃって下さい」

 呆然としてパシリアさんを見ていると。

「私こういうの苦手なんですよ。自分の指じゃなくても針が刺さって血がぷっくり出てくると『痛い』って感じてしまうんです。私の事はいいんです。さぁ一気にやっちゃってください」

 あの~、すごい近いんですが。

 鼻息凄いです。

 ひょっとして興奮してます?

 色々突っ込み所あるけど無視して血を石板に垂らした。

 パシリアさんは顔を興奮に赤らめながら『ほうっ』と溜息をついて満足したのか、タグを作る作業に入った。

 俺はパシリアさんを見て、この人はSだと確信した。

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