第8話 テサーラの街

 マジックアイテムは鑑定しないと使えないので、『鑑定』スキルを取得するまで放置しておく。

 その他の装備品は身に着けられるものは装備してしまう。

 でも装備品を手に取ると色が黒になるのは何かの呪いだろうか?

 消耗品は倉庫の中に入れておく。


 その後、もう2組合計7匹のほぼゴブに遭遇して倒した。

 5体のスケルトンを引き連れていたので、全く危なげが無かった。

 本日の1匹目と5匹目、そして10匹目を倒した時にファンファーレが鳴った。

 レベルが5まで上がったのだ。

 さすがに『獲得経験値20倍』はすごい。


 そう言えば最初のファンファーレからの変更が行われたようだ。

 これなら大丈夫だろうというファンファーレになった。

 そして先程までのファンファーレの記憶が俺の中から消えた。

 たぶん皆さんの中からも……

 そのようなファンファーレなど鳴らなかったのだ。

 夢でも見たのかい?


 スケルトンを20体まで召喚できるようにスキルレベルを上げて、スケルトンを12体に増やす。

 周囲をスケルトンに守られながら移動する様は異様だ。

 途中で茂みに引っ掛かる奴が出たりして愉快だ。


 今日はもうここまでだろう。

 既に日は傾いて来ている。

 街まで急いで3時間。

 門が閉まる時間は知らないが、あまり余裕は無いだろう。

 というか昼飯喰っていないどころか、最後に飯食ったの何時だ状態。

 緊張?興奮?して考えていなかった。

 レベルアップしてステータスポイントを割り振ってある分、以前よりもスタミナがあるように感じるが、気を付けないと動けなくなってしまうかもしれん。


 急ぎ街道まで戻って街に向かう。

 すでにこの辺りに人が居る時間帯では無いのだろうか。

 街道では人と遭遇することもなかった。

 街の姿が見えた頃には太陽が赤みを帯びて遠くに見える山脈の稜線に掛かろうとしていた。


 門の方を見るとまだ街の中に入ろうと手続きを待っている人の列ができていたので、間に合ったと思っているとざわめきが聞こえた。

 何だ?と思っていると明らかにこっちを見ている。

 ん?という状態でいたら兵士の集団がこっちに走ってくる。

 スケルトン共は警戒状態で俺の周りを固めている。

 兵士たちが俺たちから一定の距離を保って槍を構えている事でやっと気付く。

 スケルトンを引き連れてきたのがいけなかったのかと。


 兵士たちの隊長から誰何の声が上がる。

「貴様は何者だ!このテサーラの街で何をするつもりだ!?」

「冒険者をするつもりでこの街に来た!スケルトンは街に入れないのか?」

 冒険者と言う職業があるのはグー〇ル先生で確認できていた。

 ここに冒険者ギルドが有る事も。

「ネクロマンサーか?スケルトンが街に入れれる訳ないだろう。パニックになるわ」

 隊長は訝しそうにしながらも、スケルトンが襲ってはこないのを見て少し警戒を解いたのか、近づきながら呆れたような感じで話しかけてきた。

「こいつら片付けちゃってくれや。急げよ。門閉めちゃうぜ」


 兵士達は隊長の撤収の掛け声と共に門の方に戻っていった。

 取り残された俺達はどうしたものかと考えていた。

 スケルトンを還すのは簡単だが、また死体集めから始め無くてはいけない。

 正直、めんどい。

 何かいい方法は?と考えていると、一つの方法が頭に浮かんだ。


『サーナリアさん』

 頭の中で通信することを意識して呼びかけたら少し間があってから返事があった。

『はい。何かありましたか?』

 俺は相談した。

 スケルトンを『時空間倉庫』に収納することは可能か?と。

 会話には少しタイムラグがあるようだ。

 海外からの中継を見るような感じだ。

 気にならない訳では無いが、支障は無い。

『そうですね、無生物ですし、収納することは可能ですね』

『ありがとうございます』


 早速行動に移す。

 12体のスケルトンを収納していく。

 音もなく消えていくスケルトン達。

 あっという間にボッチになってしまった。


 門の方に向かうと、入街を待つ人の列はだいぶ短くなっていた。

 慌てて列の最後に並んだ。

 すぐ前には冒険者らしい4人が並んでいた。


 列の進み具合から見てちょっと時間がありそうなので、『コンソール』で増えた表示物の表示位置を調節しようと思ったんだが、イメージだけでやろうとしたがうまく行かない。

 で、スマホを操作するみたいな感じでやるといいんじゃないかとやってみたら、結構思い通りに動かせるのが分かった。

 こういったものは慣れるまでは仕方が無いかと思う。

 一番苦労したのは『ミニマップ』

 表示サイズ、縮尺、表示位置、透過度。

 視界を妨げ無い様に調節するのが難しい。

 敵の攻撃とか見えなくなると致命的だから。

 そんな時には一時的に非表示にできるんだけれど、ミニマップに気配を確認した敵の位置を表示させる事ができるため、表示させたままにできるならその方が便利なんだが……。

 なんて考えながら調節を、ピンチイン・アウト、ドラッグ、タップなどを繰り返していたら周りが騒がしくなっていた。

 意識を『コンソール』から周りに移して見ると、みんながこっち見てた。

 えっ、また俺?

 目の前の冒険者の若い娘さんが胸を両手で隠すような仕草でこっちを睨んでた。

 ヤバいと思ったがもう遅い。

 冒険者パーティのリーダーらしい男が、娘さんを庇う様にこちらに出てくると言い放つ。

「俺達のパーティメンバーに不埒なことをしようとしたってのは本当か?」

 ヤバい、ヤバい、ヤバい。

 咄嗟に使っていないスキルポイントで『話術』スキルをレベル20まで上げて対応する。

 本当なら『交渉』スキルとか『言いくるめ』スキルが取れればよかったのだが、取得するには冒険者レベルが足りなかった。

 必死に誤解である事を訴え、あれは宗教的な祈りの動作だとか言いくるめながら交渉した。

 結果、娘さんの今夜の飲み食い代を奢ることで何とか納得させた。

 最後、向こうのパーティの『シーフ』との交渉になったんだが、奢りがパーティ全員か娘さん一人かの戦いはヤバかった。

 まだ金が全然足りて無いからな。

 娘さんから食堂の場所を詳しく聞き、一旦は解散になった。


 入街の列が短くなっていき、俺の番になった。

 この街で冒険者になる事を告げると仮の身分証を作ってくれて入街税100Gを払って街に入った。


 15m程の高さの街壁に囲まれた街の中に入ると、まんまヨーロッパ風の街並みが現れた。

 周囲の建物は殆どが2階建てで石造りだった。

 門から街の中央に向かって広い通りが繋がっていて、言わばメインストリートとなっている。


 太陽が沈もうとしている。

 街が茜色に染まってゆく。

 正面やや左側に教会があるのだろうか?

 尖塔の建っている辺りから少し悲しそうな夕刻の鐘の音が聞こえてくる。

 街路灯に魔法使いが『発光ライト』で明かりを灯している


 周りの店も早いところは片付けに入っているようだ。

 閉まりかけの店で小さな水晶玉を買った。

 それをペンダント風に加工してもらう。

 水晶玉200G、加工材料100G、加工費100G。

 この水晶玉は『発光ライト』を灯すために使う。

 別に先程の街灯を見て気付いたわけじゃないんだからね。

 足りない物が多すぎて何から手を付けるか、考えるとため息が出る。


 そうこうしている内に街の中央にある広場にたどり着いた。

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