第11話 ピクシーガーデン亭

 冒険者ギルドを出ると陽は完全に山の稜線に沈んでいて、辺りは闇に支配されていた。


発光ライト

 俺は早速役に立った水晶玉に魔法の明かりを灯した。

 首から水晶玉を下げていると視界の下の方が眩しい。

 改良の余地がありそうだ。

 大体顔の下の方から明かりを照らすと、昔懐中電灯で顔を下から照らして人を驚かしたりしていたのと同じ状態になっているのではないかと心配になる。


 現代社会でスマホを見ながら夜歩いている人を見かけるが、ちょっと自分の姿を考えてみてほしい。

 特にきれいなお姉さんが下から青白い光に照らされて、横道から出てきたりなんかするとマジで心臓に悪い。

 Wでドキッとする。


 広場から東に延びる道に入り、200m程行った所にある北への道を曲がった5件目が、娘さんに奢ると約束の食堂兼宿屋の『ピクシーガーデン亭』だ。

 店は3階建てになっていて1階は食堂、厨房とオーナーの居住スペースになっていて、2階と3階が宿屋スペースだ。

 店の入り口のスイングドアを押して入ると一番奥のテーブルに見知った顔が集まっていた。

 店に入ると明かりが必要ないので水晶玉は服の中に入れてしまう。

 俺は軽く手を上げて挨拶をするとまず泊まるところを確保するべく女将らしき少しぽっちゃりした女性に声を掛けた。


「今夜泊まりたいんだが、部屋は空いているか?」

「人数は何人様だい?」

「一人なんだが……」

「二人部屋が空いているのでそこを使っておくれ。料金は一泊素泊まりで400G、夕食が70Gでアルコール1杯サービス、朝食は30Gだよ。支払いは前払い。それでいいかい?」

「ああ、それでOKだ。夕食、朝食付きで頼む」

「あいよ。部屋は2階の1号室だ。階段を上って正面の部屋だよ。鍵はこれ。外出する際はフロントに預けとくれ。貴重品は自己管理。掃除は昼過ぎに入るから連泊しないならそれまでに出てくれ。何か質問は?」

 女将にすごい勢いで言われた。

 マシンガントークだな。

「水は使えるか?」

「井戸なら奥の扉を出た所にある。体を拭くならそこで汲んで部屋でやっとくれ。トイレもその扉を出た所だ。きれいに使っとくれ」

 俺の場合、水は魔法で出すことができる。

 足りないのは桶とか手ぬぐい、歯磨きセットか?

 いや、そもそも『浄化クレンズ』の魔法で全部できてしまうのか?

 後で試せばいいか。

「了解した。夕食だがすぐ食べられるか?」

「適当な席に座っとくれ。そんなに時間は取らせないよ。今日の主菜はボタン肉と野菜のワイン煮込みか鶏肉のグリルのどっちかだ。どっちがいい?」

 俺はワイン煮込みを選んで告げると待ってる連中のいるテーブルに近づいた。


「お前もここに泊まることにしたのか?」

 既に出来上がりつつある連中から声が掛かる。

 もちろんこいつらは門の前でトラブルから知り合った連中で『ロードトゥグローリィ』と言うパーティを組んでいる。

 大層なパーティ名だが、パーティ名なんて大体こんな物なんだろう。

 あまり言うと自分に返ってきそうで何も言えない。

 まだ一人ぼっちなのでパーティも何も無いのだが。

「ちょうど泊まる所を探さないといけなかったからな」

 空いている席に座りながら答える。


 ロードトゥグローリィのメンバーは4人。

 リーダー戦士のオルタス。

 ハンターのハインケル。

 シーフのトニオ。

 プリーストの紅一点、ヴェルレナ。


 パーティの最大人数は8人なので4人では少ない方だろう。


 活動してからまだ日も浅く、このテサーラの街に来てからも1月が漸く経った程度なのだそう。

 俺はまだ本日冒険者になったばかりだと言うと驚かれた。


 料理を女将が運んできた。

 アルコールを何にするかを聞かれたのでミード(蜂蜜酒)を注文した。

 目の前に黒パン、サラダ、野菜スープと主菜のボタン肉と野菜のワイン煮込みが並べられた。

 他の人の前にも同じようなものが並んでいたのだろう。

 サラダや野菜スープは既に片付けられていたが。

 ヴェルレナとトニオは鶏肉の方を頼んだようだ。

 何か料理の味付けがシンプル。

 現代日本とは比べるまでもない。

 サラダは塩味とオリーブオイルっぽい油と酢?みたいな感じ。

 スープも野菜の味と塩。

 ワイン煮込みも大同小異でやはり色々な味が足りていない感がある。

 不味くは無いんだけど調味料が圧倒的に足りていない。

 ちょっと『ネットスーパー』の能力を取っておけばと後悔。

 いつか手に入れてやる。


 ロードトゥグローリィのメンバーにパーティに加わらないかと誘われた。

 だが、今の俺には秘密が多すぎる。

 何を明かしても大丈夫なのか?

 何だけは知られてはいけないのか?

 それすらも分らない状態ではパーティには加われない。

 もちろんそんなことをそのまま言う訳にはいかないので、

「俺はまだ初心者なので、加わっても足を引っ張ってしまう。もう少し実力を付けてから考えます」

 と言ってごまかした。


 そういえば朝からどころか、いつから食べて無かったのか分からない。

 当然普通の量で足りるわけもなく、追加で何品か注文することになった。

 アルコールも追加したのだが現実世界ではまだ未成年だったので、エールだのミードだのワインだの言われても何がおいしいのか分からない。

 一杯ずつ試すように飲んでみる。

 こちらの世界では16歳から飲めるらしい。

 16歳で成人として扱われるんだと。

 それに俺、1865歳らしいし。

 どうなっているんだろうね。

 意味不明。

 ん~、俺酔ったのかな?


 …… 

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