第82話 王都1

 あんな事があった次の朝だが、タチアナさんは全然変わっていなかった。

 女って怖えええ~っ。


 朝食を食べたらいよいよ王都に向けて移動を開始する。

 まず、王都方面の高い位置を見ます。

 次いで『望遠テレスコープ』を唱えて目標の周りを確認してゲートの出口を設定する。

 実際にゲートを開いて1歩向こう側に足をつく。

 顔を入れて向こう側を確認し、問題が無ければ体を向こう側に移動させる。

 ちょっと面倒だと思っていたが必要だと思い知った。


 狙うべき目標は樹木の生えていない高い場所。

 ゲートの向こうに一歩を踏み出して二歩目の足を突こうとして……無かった。

 崖っぷちにゲートを建ててしまったようだ。

 足元を見て一瞬にして全身が固まった。

 唯一落下を防ぐためにできたことは後ろに倒れる事だった。

 立ち直るのに1時間ほど掛ったかもしれない。


 その後、順調に転移が進みお昼前にはバリーモアと王都の街の外にゲートの出口を設定して野営地に戻ることが出来た。


 最後とあって昼食は少し贅沢なものになった。

 タチアナさんも時間が潤沢にあったので、凝ったものを作ったようだ。


「おいひいれふ、ふぁひふぁなさん!!」

「はいはい、解りましたから。落ち着いて食べてください」

 異世界言語が正しく翻訳してしまったようだ。

 俺の言葉に関しては『何言ってるか分からない』という状態にはならないようだ。

 感想の言葉が軽く流される。だが、満更でも無いようだ。

 こういう事も大切だ。頑張った人には適切な評価を与える。

 まぁ、タチアナさんは領主様の愛人だし、落とすつもりもない。

 過剰に評価することはしちゃ駄目な人だ。昨夜の事は早く忘れよう。


 さて王都に行く準備を始めようか。

 先ずスキル『呪いカース』の愚鈍を取得する。

 愚鈍はそのままの意味で頭の働きを鈍くし、正常な判断をできなくする。

 馬にはかわいそうだが仕方が無い。


 『呪いカース』を使った詐欺師なんて居そうで怖い。


 皆に準備をしてもらい、各人の装備、馬車などを一旦『時空間倉庫』に仕舞って準備は完了。


 ゲートを王都の近くに開いて、馬に『呪いカース』の愚鈍を掛けて俺とマルケスで馬にゲートを潜らせる。


 他の皆にゲートを潜らせる。すでに通ったことのあるベルナリアとフラン以外、タチアナさんとテレーゼが不安そうにしていたが、ベルナリアとフランがそれぞれ手を繋いで連れてきてくれた。


 街道に出て、倉庫から馬車を出して皆で乗り込む。

 スケさん達は既に倉庫に仕舞ってある。


 皆で王都を見て『おぉ』と声を上げる。おうとを見ておぉと声を上げる。

……この異世界ではダジャレは通用しない。

『異世界言語』が翻訳するために全く意味が無くなってしまう。

「猫が寝込んだ」と俺が言っても、他の人には「The cat fell asleep」と聞こえるようなものだ。

 笑いの要素はそこには無い。


 いつか異世界言語のバージョンがアップして、同程度の冗談に変換してくれるようになってくれる事を祈る。


 王都エタナリアはそのままエタナリア王国のほぼ中央に位置し、王国の中でも第二位の人口(八万五千人)を擁し、東の要塞領都グリンウェルと同じく高い街壁に守られている。ちなみに人口第一位の都市は南の海都ギルビットである。エタナリアは内陸に位置し、海運が使えないので人口は第二位に甘んじている。

 武力についてはさすがに魔人領に接する国の王都。王の近衛ともいうべき真銀ミスリル騎士団が駐在していることもあり、『あそこが落ちれば人類は終わりだ』と言われている。


 王都の門に近づくと大勢の人々が審査を受けている。暫く待って、俺たちもベルナリアの護衛として審査を受ける。

 特に問題もなく街門を通され、人通りの多い街中を素通りし、貴族街の門でもまた審査を受ける。

 華麗な門でまるでヴェルサイユ宮殿の門かという立派な門だ。

 門を守る警備も立派な恰好をしていると思っていたら、この人たちが真銀騎士団だと言う。

 俺とフランは一時滞在を許され中に通される。

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