幼馴染に捨てられた俺は異世界で死霊術師(ネクロマンサー)になってハーレムを作る

蒼空 隆志

序章

第1話 序章1 異世界召喚はゆっくりと

「ふう……」


 俺、天城 優樹あまぎ ゆうきはもう何度目か分らないため息をつく。


 自分が巻き込まれた交通事故の後、ギブスが取れて軽くなった右腕と、未だに軽くならない澱んだままの自身の心を今だに持て余している。

 ゲーマーだった自分の部屋。

 将来はプロになろうと頑張っていた。

 今は部屋のテレビに向かってコントローラーやスティックを握りしめても、頭に浮かぶのはゲームの攻略法でも小パンチから繋がるコンボでもない。


 なぜ?どうして?たら、れば、もし。

 答えの出ない疑問と意味を成さない仮定ばかり。


 1年程前、高校のeスポーツ部のAチームに抜擢されて参加する最初の大会、当日朝に起こった自動車との事故だった。

 その日の朝、駅に向かう道と交差する場所で浅川 美樹あさがわ みきを見かけた。

 美樹は近所に住んでいる同級生で所謂いわゆる幼馴染おさななじみだ。

 まだ彼女ではなかった。

 友達以上恋人未満ってやつだった。


 駅の方向に歩いている美樹はスマートフォンを見ながらのながら歩きのようだった。

 美樹は近づいて来た自動車に気付いた様子もなくスマホに見入っていた。


 まだ若い男のドライバーはスマホの着信音に気を取られての前方不注意だったらしい。

 俺は考えるよりも先に体が動いていた。


 どうしてそんな動きができたのか今でも分からない。

 美樹に駆け寄ると両腕で抱え込んで道路の反対側に飛んでいた。

 どうやら俺は自動車を完全には避けられなかったようで、右腕と右脇腹と両足に痛みがある。


(どうやら命は助かったようだ。こんな事故で死んでいたら異世界に転生させられるところだったな)


 俺は美樹の俺を呼ぶ声を聞きながら意識を失った。


 だが全然無事じゃなかった。



 目が覚めると白い世界にいた。でも異世界ってやつじゃない。

 正面には白い天井。白い壁に囲まれてカーテンもシーツも白。

 そう、ここは病室だ。


 病室ってどうしてこうも白一色なのだろう?

 偶には水色一色や緑一色でもいいんじゃないか。

 近くには誰もいないところを見ると個室のようだ。

 周りを見まわすために体を捻ろうとすると激痛が走る。

 自分の体を見ると右腕はしっかりと固定されていて動かない。

 動かそうと力を入れると痛い。

 肘から先の感覚が無い。

 胴体にも痛みがあるがこちらも包帯が巻いてあり状態を窺うことができない。

 両足はギブスで固定され、天井から吊り下がっていた。

(参った。これじゃあ大会どころの騒ぎじゃないな)

 溜息が出る。それがまた痛みを引き起こす。


「おぉ、目が覚めたようだな」

 しばらくすると白衣の男性と看護師、そして親父が病室に入ってきた。

「君が助けた女性は軽いケガで済んだよ。一通り検査をして暫く君が目覚めるのを待っていたんだが、麻酔が抜けるまでまだ時間が掛かるからと帰ってもらったよ」

 白衣の男性が告げる。


「さて君の状態だが……君は自分がどんな状態だったか覚えているかい?」

 その問いに軽く首を左右に振ることで返答する。

「君の右腕は肘から先8センチ位の所で骨が折れて、筋肉と皮膚を突き破り外部に飛び出してしまっていたんだ」

 道理でがっちりと固められていたわけだ。


「そして腹部を強く打った事により内臓が損傷を負っていたので、腹部を開いて処置をした。そっちは少し傷跡が残るかもしれないが元通りになるだろう。両足は骨折だ。こっちも時間は掛かるが問題ないだろう。」

「そっちはっ……て事は、右腕の方は……」

「元通り自由に……とはならないだろう」

 はっきりと告げられた内容にショックを受けて、その後も何か色々説明をしてくれていたが耳に入らなかった。



 次の日、美樹が病室にやって来た時、泣かれてしまった。

 俺の右手が元通りにはならないことを知られてしまったようだ。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 そう呪文のように繰り返し、ベッドで横になっている俺に取りすがって泣く美樹の頭を動く方の左手で撫でながら

「悪いのは美樹じゃないよ」

 美樹に声を掛けたが、昨日の自分のようにショックからか声が届いていないようだった。

 暫くすると鞄を掴んで駆け出して行ってしまった。


 この時俺は追いかける事の出来る状態で無かったことを、後日後悔することになるとは思っていなかった。



 大会が終わったら告白しようと思っていた。

 美樹とは両想いだった。

 周りの友達も早く付き合っちゃえよとからかい混じりにはやし立てられた。

 後はきっかけだけだった。


 もはや時は戻らない。



 学校に通えるようになっても美樹の笑顔は俺のそばには戻っては来なかった。

 退院後、壊れてしまった俺のスマートフォンを買い替えてもらった時に美樹からのメッセージの着信に気が付いた。

 事故に遭う直前の『大会頑張ってね』と駆け出して行った日の夜の『ごめんなさい』と後日の『さようなら』だった。

 美樹は学校からも町からも姿を消してしまっていた。

 美樹の家に行ったが親父さんしかいなかった。

 謝罪と共に美樹が単身で東京に住んでいた母親の下に引っ越した事を知らされた。

 美樹に送るために写真を何枚か撮られた。

 後は唯、頭を下げられて、

「あの子を許してやってくれ」と……



 1年程を入院と退院後のリハビリ通いで右手、右腕が何とか動くという程度に回復した頃には高校生と呼ばれる期間は終わりを迎えていた。

 残ったのは目標と恋人(予定)を失って捻くれた男だけだった。


 親父は豪快に笑って1年や2年くらいの回り道など、どうということはないさと言ってくれたが、eスポーツの選手を目指していた身としては、目標を失った自分に新しい何ができるのか決めかねていた。


 ゲームに関することは一通り試してみた。

 足の指でボタンを操作してみたりもしたが、やはり右手程の操作は無理だと悟らざるを得なかった。

 そしてeスポーツにはパラリンピックのような競技は無かった。



 そんなある日、自分の部屋にいると親父が”右手の訓練と暇つぶしだ”とゲームのパッケージと攻略本を2冊持ってきた。

『デーモンロード2』すでに発売から20年近く経った今でも販売され続け、新しいプレイヤーが増え続けているというクリック&スラッシュタイプのRPGゲームだ。


 ゲームを始めるとネットゲームらしく、サーバーの選択からアカウントの登録などの後、5人のキャラクターから自分の好きな職業クラスを選べるようだった。

「拡張版を入れると7人に増えるぞ」

 親父に言われて拡張版を入れてみると確かに7人に増えていた。

 聖騎士パラディン魔法使いソーサラー戦乙女ヴァルキリーなどが並ぶ中、異質な男が目についた。

 死霊術師ネクロマンサー、あまり主人公キャラとしてのイメージは無い。

 寧ろ敵役の印象しかしない。

 でも親父に言わせれば初心者向けらしい。

 細かい操作をしなくても何とかなるキャラらしく、お薦めとの事。

 それならばと死霊術師を選んでゲームを始める。

 ストーリーに沿って進めて行くと大体このキャラの特徴が分かってきた。

 死霊術師ネクロマンサーと言うだけあってアンデッドのスケルトンを使役できる。

 使役しない戦い方もできるが難易度がかなり上がると思って間違いない。

 スケルトン以外にも召喚できるアンデッドが色々あるようだ。

 確かに親父の言うように操作もそれほど忙しないということはなく、まだ右手が意のままに動かせるという状態にない自分には丁度いい。


 そう、右手は以前のようには戻らないのだ。

 そのことはようやく事実として受け入れることができていたが、この手でどのような事が可能なのか。



 そんな日々を送っていたある日、遂に、遂にそれは起こった。

 夜、風呂に入ってバスタオルを体に巻いただけの姿で自分の部屋に戻ると、机の上が激しく光っていた。

 パソコンのディスプレイかと思ったがそうではない。

 光はディスプレイの下の方、一冊の本から漏れている。

 『デーモンロード2 公式ガイドブック』と書いてあったあの本だ。

 その攻略本が表紙を手前に立ち上がっていく。

 何故かガイドブックは帯を付けていた。

『大丈夫、〇〇〇通の攻略本だよ』

 おかしな話だ。

 このゲームのガイドブックは〇〇〇通とは全く関係がない。

 誰かが間違った帯を付けたのだろうか?

 本がゆっくりと開いていく。

 光は益々眩しくなっていき、もう直視できない程になっている。

 あまりの眩しさに手で顔の前を覆っていると腰の周りからバスタオルが落ちてしまった感触がするが最早そんな事に構っている状態ではない。

 光が激しく明滅を繰り返し始める。

 『ポケモ〇フラッシュ』と同じ効果だろうか。

 意識が刈り取られていく。

 この光で見えるはずがないのだが、意識を失う最後に帯の犬だか何だかわからないキャラクターがニタリと嗤った気がした。



 光が収まった時、その場にはバスタオルが残されていた。

 これから待ち受ける運命を暗示するように……


 そしてその後、親父が俺の部屋にやって来たことを俺は知る由もない。

「行ったか……」

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