第30話 転(まろ)び出た女性2

 正直に告白しよう。

 その何者かの第一印象は『派手にいったな』の一択だった。

 だがよく見るとそんな事を思っていられない程に逼迫ひっぱくした状況だった。

 その何者かは茶色のフード付きローブを着ていたが、ローブは原型を留めておらず刃物で何か所も切り裂かれ血が滲んでいた。

 だがまだ人間かどうか、盗賊でないかも分からない。

 鑑定すると名前フランシス、人間、女、年齢18と表示された。

 俺は4体の大楯スケルトンでローブを囲ませて護衛兼拘束とすると、もう片方の登場を待った。

 それは間もなく飛び出してきた。コボルトだ。

 コボルト達は下生えを飛んで街道に降り立つと俺とスケルトン達、ローブを囲むように登場したが13体しかいなかった。

 こちらのスケルトンが自分達より遥かに多い事に動揺していた。

 これだよ。

 状況を確かめずに飛び出すとこうなってしまうという分かりやすい例だった。

 強さも数も劣るコボルトに掛ける時間は無い。

 あっという間にコボルト達は駆逐された。

 レベルアップのファンファーレが鳴った。

 息のあるコボルトがもう残っていないのを確認するとローブの様子を見に近寄った。


 ローブを守っていた大楯を少し下がらせて近づくとローブはうつ伏せのまま気を失っていた。

 取り敢えず体を街道脇の草むらに移動させて仰向けに横たえる。

 頭を覆っていたフードを外すと茶色の髪が零れた。

 三つ編みのワンテイルが力なく垂れさがっている。

 髪の毛の力が漲って立ち上がっていたら問題だが。戦闘民族的に。

 顔は見事な紅に染まっており、額の中央が奇妙に盛り上がっている。

 角ではなくたん瘤だけどな。

 ローブは切り裂かれていて隙間から覗く肌まで血に染まっている。

 足は右足首が捻挫しているようだ。赤く腫れあがっている。

 あられもない姿って言うのはこういうのを言うのよ、と全身で主張しているような姿だ。


 治療しないといけないんだがポーションを自力で飲めるような状態じゃなさそうだ。

 ゴクリ、ここはあれしかないか。

 フランシスの顔を見る……

 ……

 ……

 白目を剥いているな。

 ……

 ……

 顔も擦り傷だらけだ。

 どうしてこの世界のポーションはもみ薬……いや、飲み薬なんだ。

 ……

 ……

 覚悟を決めるか。


 俺はポーションを手に取るとキュポンとふたを開け中身を口に含む。

 ポーションが口に中でシュワシュワと音を立てて俺に『やっちまえ』とささやきかける。

 俺の目がフランシスの意外に艶かしい唇にロックオンされ、俺の口がフランシスの半開きになった口に……くっつく前に俺の喉がゴキュッと鳴った。


 俺はコンソールを開くと余っていたスキルポイントで回復ヒールを5レベルまで上げ、フランシスに向かって『ヒール』を唱えた。

 ヘタレと言いたければ言うがいい。

 伊達に幼馴染に逃げられたのではないのだ。


 ローブをこのままにはしておけないので、俺の予備のフード付きローブを倉庫から取り出して着せる。

 役得役得。


 コボルトの遺体を倉庫に入れる。

 フランシスが目を覚ますまでここで待っている訳にもいかないので移動する。

 森の中で2m程の長さのなるべく真っ直ぐな棒を2本と倉庫から毛布を出して簡易な担架を作るとスケルトン2体で運ばせる。

 フランシスは着ている服と40cmくらいのワンドしか持っていなかった。


 街道をコボルトが出てきた方向とは反対側に分け入っていく事しばし、少し広い場所に出た。

 日もだいぶ傾いてきたしちょうどいい。

 ここを野営場所に定めよう。

 倉庫から必要な道具を出していく。

 煉瓦、鉄の棒、テント、鍋、フライパン、薪、樽、食材。


 テントを立てて中に毛布を敷いてその上にフランシスを寝かせる。

 ボロボロになってしまったフランシスのローブは枕代わりに。


 煉瓦と鉄棒でかまどを作り薪に火を点ける。

 樽に水を作り、鍋に水を入れる。

 今日もまたシチュー。加工肉(ソーセージ)だけどね。

 あと野菜炒めを作る。

 パンと果物少々。以上だな。

 調味料が増えないと厳しいな。


「ヘックシ」

 あ~、フランシスが目を覚ましたみたいだな。

 ……聞かなかった事にしておこう。

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