第31話 フランシス

 鍋をかき混ぜていること暫し、フランシスがテントから出てきた。

「食うか?」

 フランシスは周りをキョロキョロ見て心細そうにしている。

 無理もない。コボルトに追いかけられていたと思って目覚めたら、スケルトンが26体もいて囲まれているのだから。

「このスケルトン達は俺の下僕だ。君をここまで運んできたのもスケルトンだ。そんなに怖がらないでやって欲しい」

 俺は鍋からシチューを多めによそってフランシスに差し出しながら話しかける。

 何故多めなのか……食器が一人分しかないんだ。

 俺は鍋から直接お玉で食べるしかなさそうなんだ。

 お代わりを求められても困るから多めなんだ。

 街に帰ったら予備の食器や毛布なんかも買っておかないと。

「私はなぜここに?」

 あ~そうか、そうなるか。

「あなたが街道に倒れている所にコボルトが襲おうとしてたので撃退しました」

 見事なフェイスダイブは内緒にして説明した。

 余計なことは言わない。それも立派な礼儀作法。

「それは……助けていただいてありがとうございました。実は……2日前に村をコボルト達が……」

 フランシスさんの話をまとめると、2日前街道から南に30km程の所にあった村をコボルトと獅子が襲撃。50人程居た村の住人は犠牲になるかバラバラに逃げたか分からないと言う。

 フランシスさんはウィッチのおばさんの元で修業しながらおばさんのお店を手伝っていたのだが、一番森の近くにあったおばさんの店が真っ先に襲撃されたらしく、おばさんは帰らぬ人になってしまった。

 フランシスさんが薬草畑からお店に戻った所、とても大きな獅子がおばさんを『オレサマオマエマルカジリ』状態だったそうだ。

 そのままワンドだけ持った状態で2日間の逃走劇を演じることになってしまったと言って涙ぐむ。

 2日間水は一般魔法の水作成が使えたので確保できたが、食料は何も無かったためお腹と背中がくっつきそうだとお腹をさすっていた。

 

 それまでゆっくりスプーンを動かしてシチューを頬張っていたのだが、一通り話を終えて安心したのかパクつきだした。

 果物のリンゴのような物を剥きながらフランシスさんの話を聞いていた。

 フランシスさんは両の目から滲み出る涙を手で拭いながらそれを隠すように忙しなくスプーンを動かしていた。


 涙を堪えながら生きるために食べるフランシスさんを眺めて俺は『この人は俺と同じだ』と感じた。

 ほとんど裸一貫でこの世界に連れて来られた俺とモンスターの襲撃によって全てを失ったフランシスさん、同じような悲しみを背負っているのだろう。


 その時、ユウキの鼓動が『トクン』と一つ大きく鳴った。

 それは他の鼓動に隠れて他の誰にも気づかれなかったがユウキにも何の為に大きく鳴ったのか分らなかった。


 フランシスさんは食事を終えると少し俺を窺う様子を見せたが、俺はフランシスさんの疲労が溜まっていることを考慮して全てを明日にして休むことを強く指示した。

 フランシスさんにテントを使ってもらい、俺は焚き木のそばで休む事、スケルトン達に護衛を任せて大丈夫だという事を説明し休んでもらった。

 しばらくするとテントの中から押し殺したすすり泣く声が洩れてきた。

 その声が押し殺すようなものではなくなっても、俺は動けなかった。

 動くことが正しいとも思えなかった。


 やがてテントから泣き声が聞こえなくなった頃、俺は眠ることを許されたように意識を手放した。

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