第29話 転(まろ)び出た女性1

 グリンウェルを出て2日目の朝、商隊とその護衛と別れて先日コボルトを見かけた場所を目指す。

 商隊の馬車の方が移動スピードが速く、商隊は先に行ってしまった。

 そのためスケルトンのみを引き連れての道中である。

 普通に25体ものスケルトンを展開していると正面からくる馬車に迷惑をかけるので、3列縦隊を組む。

 俺を中央にして前後左右に大楯を斜め4方向に弓を、大盾、弓の向こうに両手武器のスケルトンを。普通のスケルトンを前に7体、後ろに6体それで25体。

 それだけ引き連れていると目立つ。


 先日の遭遇ポイントに近づいてきていた。

 注意深く周りを見回して進んでいると、街道の先方少し高くなっているところにコボルトを発見した。

 こちらを見られたと思ったら、藪の中に叫び声を上げて引っ込んでしまった。

 街道の高くなっているポイントまで急行したら、道に馬車が倒されているのが遠目で見ても分かった。

 馬車の周囲で戦闘が行われた様子で馬車の幌は無残に引き裂かれ、人間もコボルトも血まみれで倒れているのが見て取れた。

 さっきのコボルトは偵察だったのだろうか。コボルト達は街道の南に足跡を残して撤退してしまったようだ。

 襲われた商隊は今朝まで一緒にいた人たちだった。

 商人も馭者も護衛の人たちまでも皆亡くなっていた。

 小型の刃物でめった刺しにされた遺体あり、トゲ付きの棍棒で頭を潰された遺体ありととても直視に耐えられたものではない。


 先程まで生きていた人が亡くなってしまう。

 この世界の過酷さに打ちひしがれてしまいそうになるが、それでも俺はこの世界で生きていかなければいけない。

 どんなに悲惨な光景を目にしようとも。

 何とはなしに胸の前で十字を切って冥福を祈る。

 別に神様を信じている訳じゃないし、俺自身クリスチャンって訳でもない。

 手を合わせて黙祷でもよかったんだろうが、何となくそんな気分だったとしか言えない。

 そういえばこの世界には神様がいるんだから何とかしてやれよと思ったんだが、そいつはブーメランだと気が付いた。

 そのために俺を召喚したんだと言われたらぐうの音も出ない。


 取り敢えず全てを時空間倉庫に収納する。

 人間の遺体12体、コボルトの死体14体、壊れた馬車3台分、馬の死体6頭、馬車に残されていた積荷。

 馬は一部解体されていて肉などが切り取られていて無残な状態だった。


 これからどうするか?

 1、撤退したであろうコボルト達を追って街道を離れて南に向かう。

 2、あくまで当初の予定通りに先日のコボルト遭遇地点まで行って北側にある薬草の群生地を目指す。

 3、不測の事態(商隊の襲撃)の為、グリンウェルに戻り報告する。


 う~ん、3は無いな。

 依頼として薬草採取を受けて無かったら3も考えるが、依頼を受けているんだから途中で放り出せなくなった。

 入街税の節約の為だったんだが選択肢を狭くしてしまったかも知れないな。

 1か……南に向かった足跡から撤退したコボルトは20体位はいるだろう。

 撤退した先にもっと多くのコボルトのいる可能性も高そうだし、討伐に失敗したパーティがいるってことはもっと強いモンスターがいる可能性も高い。

 コボルトだけが50体程度なら勝てるだろうが、100体近いとちょっと辛い。

 もっと強いのがいると更にヤバい。

 ……情報不足だな。無茶はできん。

 2かな。

 他は積極的に選択できる要素が無い。


 予定通りに動くことに決め、街道を離れる地点まで2~3km行進する。

 後300m程でその地点となった時にそれは起こった。

 青天の霹靂である。ことわざとしても、実際に起こった事も。

 街道の南側に少し分け入ったところに天から雷がヴァリヴァリと落ちたのである。

 ちょうど先日の遭遇ポイントの辺りだった。

 何が起こったのかって何者かが雷系の魔法を使ったんだろう。

 他には考え難い。

 つまりは何者かと何者かが戦っている。

 片方、又は両方が魔法を使うかもしれない。

 ここで急いで駆け付けるのは愚か者だと思う。

 どちらか人間サイドに助勢するのはやぶさかではないが、状況も分らずにいきなり渦中に飛び込むものではない。場合によっては両方人間の可能性もあるんだ。


 慎重に隊列を組み換えながら近づいていく。

 喧騒もこっちに近づいてきているようだと思った時、10m位先の街道脇の下生えがガサッと音を立てて揺れた。

 下生えを乗り越えようとした何者かが足を取られ、そのまま街道に顔からダイブした。

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