第39話 王都への旅立ち2

 搬入口の脇で立ち止まるとギルド長は地面を指し示した。

 俺はそこで失敗に気付いた。

 こんな所で出したら倉庫がばれちゃう。

 でももはや遅い。

 ええい、ままよ。

 再び登場となったままよに全てを任せることにした。

 ダミーのリュックを下ろして逆さまにするとそこに猿王の死体を投下した。

「……」

 沈黙が痛ぇ。

「おい、今何をした?」

 やはり倉庫から取り出したものよりも倉庫そのものの方に注意が行くか。

「ん?マジックバッグの事か?」

「マジックバッグ?それがか?」

「ああ、そう言う事にしといてくれ」

 ギルド長のグリシェルドがじーっと見つめてくる。

「よせやい、そんなに見つめるなよ。照れるじゃないか」

 俺はギルド長に笑って見せる。

 もちろん照れ笑いではない。

 余裕たっぷりに笑って見せる。

 意味するのはこれくらいで驚くなよといった処だろうか。

「ちっ、食えねえやつだな」

 一つ大きく息を吐きだすと気持ちを切り替えたのか取り出した物の方に興味を移してくれたようだ。

「これは……またやったのか?」

「襲い掛かられたらどうしようも無いだろう?」

 グリシェルドはやれやれと言った感じで、

「ぽっと出の新人にどうにかできるような奴では無いはずなんだがな」

 しゃがんだ状態からジトッと覗き込むように見上げてくる。

「猿王ボリバル……間違い無さそうだ」

「ボリバル……そんな名前を言っていたような……」

 グリシェルドは少し奇妙な事を言うといった顔をして、

「ボリバルは人間の言葉をしゃべれたはずだぞ?」

「こっちに悠長に聞いている余裕が無かったんだ」

 グリシェルドは微妙に納得していない風ではあったが、手続きとしてのクエストの取り下げと完了の作業を行ってくれた。

 これで俺とパーティのランクがDになった。

 ついでにフランのランクもEにしてもらった。

 これでクエストがCランクまで受けられるようになった。

 ボリバル討伐の報酬として150万Gを受け取った。


 早速その足でCランクの依頼ボードを覗いて何かおいしい依頼は無いかと眺めているとフランが話しかけてきた。

「暫くこの街に留まりますか?それとも他の街へ移りますか?」

「う~ん、考えて無かったな」

 この世界に来て正直に言って特に目標も決めて無かった。

 今だって特にやらないといけない事も無い。

「それなら色々な所に行きましょう。ゲートを最大限使って活動できるようにするべきです」

 なるほどという良い意見だ。

 いざという時の為にいろんな場所に行けるように色々な所にゲートを設置しておくことは後々の為になるだろう。

「その意見採用!」

 色々な場所に行く為に受ける依頼は、商隊等の護衛や届け物、仕入れや納入等の商業的活動が多いがそればかりではない。


「これなんかどうだ?王都エタナリアへの護衛任務」

 フランはCランクボードを見廻していたが、俺の指し示した依頼表に目を向けると、

「護衛対象は馬車1台とその人員4人。期間はノーラタンからエタナリアまで約20日」

「結構期間が長くなるな」

「だからこそゲートのメリットが大きくなるんですよ」

 実際、ここテサーラから王都エタナリアまで400km近い距離がある。

 途中の補給、馬や人の休憩を考えるとそれくらいの時間は掛かるのだろう。

 報酬も結構な金額が設定されている。

「報酬、金20万G。貢献ポイント40pt。こちらも充分ですね」

 フランと顔を見合わせるとお互いに頷いて意見の統一を確認した。


 他に同時にこなせる依頼があるかと見てみると冒険者ギルドの書類の運搬が王都の冒険者ギルド宛てであった。ギルド長に渡せばいいそうだ。

 こっちは5万Gで貢献ポイント15ptだった。

「まぁお前らならいいだろう。頼んだぞ」


 その2つの依頼の受注の手続きを行って冒険者ギルドの建物を出た。

 ちょっと食料の備蓄を買い足して昼食を買い食いしたらやることが無くなった。

 このまま出発してしまえば明日の夜にはノーラタンの依頼主、領主の屋敷に着くだろう。

「このまま出発でもいいか?」

 フランもそれで特に問題ないとの事だった。

 新たなクエストの旅に出発。

 テサーラの東の街門から街道を東に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る