第53話 フワフワオムレツ

 テサーラの街を出た次の日の朝、昨夜の露天風呂で充分体を休めることができたので、スッキリと目覚めることが出来た。


 昨夜、タチアナさんにした約束。料理を手伝う、その約束を守るために日課の訓練を早めに切り上げて竈の前に向かう。

「おはようございます、タチアナさん」

「おはようございます、ユウキさん」

 挨拶を交わした所で本題に入る。

「朝食は何を作りますか?できれば卵料理を任せてほしいのですが?」

 許可を得る前なのだが準備を始める。

 木製のボウルと昨夜作った『木の枝を束ねた物』フライパン、塩、胡椒。

 スケルトン3体にボウルと『木の枝を束ねた物』をそれぞれ持たせてスタンバイ。

「それじゃあ私はサラダとベーコンの入ったスープを作ります」

「お願いします」


 許可を貰った俺は早速料理を作り始める。

 先ず卵を割ると殻を使って卵を卵黄と卵白に分けて、卵白を一人分卵二つをスケルトンの持つボウルの中にイン。

冷却クーリング

 冷やした卵白に塩、胡椒を適量入れてスケルトンにかき混ぜさせる。

 昨夜作ったのは泡立て器でした。

 ハンドミキサーの無いこの世界において、スケルトンミキサーは料理には欠かせない物になるかも知れません。

 一家に一台スケルトンミキサー。

 ごめんなさい、嘘です。

 全自動卵割り機以上に不人気商品になってしまうかも知れません。


 卵白が泡立ってメレンゲになったら、別にしておいた卵黄も均一になるようにかき混ぜ、少しずつメレンゲに卵黄を混ぜながら加えていく。

 フライパンを火にかけバターを入れて溶かし泡立てた卵を流し込み焼く。

 片側をキツネ色になるまで焼いてフライ返しで半分に折って皿に装う。

 以上。それだけ。完成。×6。

 泡立てる事が出来れば作れる。シンプルな料理。

 フワフワとかスフレ風とかモンサンミッシェル風とか言われるオムレツが人数分並んだ朝の食卓が出来ていた。


 前に言った料理法で不足している方法の一つがこの『泡立てる』だった。

 まだこの世界にはケーキやメレンゲ、ホイップクリーム、アイスクリームなどが無いようなのだ。

 無いものは仕方が無い。自分で作っちゃえ。

 で、作っちゃった第一弾がこれ。

 皿に盛った時の存在感が半端ねぇ。

 オムレツの片面だけ焼かれたキツネ色の中からフワフワに膨らんだ部分がはみ出すように零れ落ちている。

 知らなかったらオムレツだとは分からないだろう。


 パン、サラダ、スープ、そしてフワフワオムレツが並んだ食卓。

 朝食を食べにやってきた面々の反応が見ものだった。

「「「「……?!」」」」

 タチアナさんは料理中に見ているので普通だったが、他はナニコレタベレルノ状態だった。

 だがいただきますしてオムレツを口に入れたら皆の表情が変わった。

「「「「「……!!」」」」」

 こちらにはタチアナさんも漏れなく参加いただけたようだ。

「何これ美味しい……」

 そう声を漏らしたのは誰だったのだろうか?

 おっちゃんでは無い。断じて。

「凄い、フワフワですね」

「今まで食べた事の無い食感じゃのう」

「明日から毎日これを作れるかタチアナ?」

「できるかしら?」

「泡立てるのはスケルトンにやらせればいいので簡単ですよ」

「明日の朝にでも詳しく教えてください」


 朝食の時間は和気藹々と過ぎて行った。

 可愛いは正義って言葉があるが、そういう意味では美味しいも正義だと思う。

 正義って言うと違うかも知れないが、絶対的な価値を持った物は強い。

 俺の考えでは『正義』を『金になる』と書き換えてもいい。

 可愛いは金になる。

 美味しいは金になる。

 ね?どっちもしっくりする。

 実際にこのオムレツを作ったら人気になるだろう。

 でも人の手で作るとなると腕の筋肉が持たないだろう。

 スケルトンミキサーが無ければ先着5名様限定とかになってしまうだろう。


 スケルトンの労働力としてのスペックはかなり高い。

 疲労もせず睡眠も必要としない。

 体重が軽いので吊り上げたりシャベル・スコップを体重を掛けて地面に差し込むという部分では弱いが、数と時間で充分カバーできる。

 使い方によってスケルトンが腱鞘炎になったとか疲労骨折になったとかいう話は聞いた事が無い。

 更にスケルトンには自然治癒能力がある。

 アンデッド強化のスキルによってかなり骨太に育っているとも思う。

 ローテーションを組んで骨休めをできるようにすれば大丈夫だろう。

 最後の手段として召喚しなおすこともできる。

 以上から考えるとスケルトンはかなりの労働力を見込める。


 労働力の高さ云々より、何より俺ならスケルトンの労働力のコストを考えなくていい。

 タダ、無料、0G。素晴らしい。

 タダより高い物はないという言葉があるが、スケルトンは他に何かを要求してくる事は無い。

 この場合はタダはそのまま激安だ。


 昨夜レベルアップしたことによって、同時に支配できるスケルトンを37体に増やした。

 その労働力、使わないと勿体ない。

 今はスケルトンしか使っていないが、レベルが25まで上がればリッチを召喚できるようになる。

 更に30レベルまで上げれば召喚術師のスキル、『召喚数増加』で一気に数を増やすこともできる。

 できることは多そうだ。

 夢が広がリング。


 後から考えてもこの時の考えに『帰還』の二文字は無かったと思う。

 俺の中で何かが変わり始めたのかもしれない。

 俺は初めて何かを決めたのかもしれない。

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