第89話 王都での一日2

 中央広場には人があふれていた。

 大小さまざまな露店が軒を連ねる中、大道芸人が確保したスペースで華麗な妙技を披露していたり、逆に醜態をさらして罵声を浴びていたりする。

 実にカオスだ。

 ごった返す人並を縫っていくつかの店を見て周る。


 キノコを売っている露店が少ない。

 ほとんどさらわないと充分な量を確保できないかもしれん。

 それでも椎茸、舞茸、シメジ、マッシュルーム、ポルチーニ茸、松茸、トリュフ。

 いろいろ手に入れることが出来た。

 椎茸の多くは干し椎茸に加工しないとな。

 野菜類も果物類も手に入れてゆく。

 ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、生姜、クルミ、リンゴ、梨、ゆず、葡萄。

 目についた物を買いまくった。

 食べ物だけじゃ無く、その容器や入れ物的な物も購入した。


 一巡りして野菜、果物に満足した俺はたるを求めに木工関係の店、樽屋か桶屋のような店は無いかとグー〇ル先生に尋ねたら、何件かヒットした。

 一番近かった一件に行ってみる。

 店頭に立ってみると、なかなかすごい光景だ。

 大小様々なサイズの樽が並んでいる。

 と言っても小さい物でも2L位、大きな物になると1,000L位入りそうだ。

 今回必要な物としてはもっと一般的な物だ。

 60~100L程度の物が10個程だろうか。


 いや待て。1,000Lサイズの樽の蓋(?)の片方を抜けばドラム缶風呂みたいな感じになるんじゃないか?

 出入りに梯子か脚立が必要になるかもしれないが、充分可能だ。

 この樽風呂に二人で入るとなると、まさに密着状態、もはや逃げ場は無い。

 ましてや三人で入るとなれば、前門の虎後門の狼。

 ぬう、挟撃とは小癪な手を!

 よろしいならば戦争クリークだ。

 己の持てる全火砲を前面に展開、一斉射いっせいしゃのちに返す刀で後方の敵にあたる。

 うん、行ける。


 俺は樽風呂の購入を決め、他の樽10個と合わせて代金30,000G支払う。

 梯子を作る為に麻紐を追加。

 これでダンジョン内でも、お風呂に入る算段がついた。


 次はパン屋だ。

 これもグー〇ル先生に尋ねる。評判のいいパン屋に足を運ぶ。

 1個買ってその場でいただく。うん、オーケー。

「済みませ~ん。このタイプのパン、1,200個ください」

「……」

 勿論その場で買えるわけが無く、明後日の朝までに用意してもらう事になった。

 予定が一日延びた。

 まぁ、仕方が無い。


 さあ肉だ。

 牛肉の評判のいい店を訪ねる。

 この異世界でも、牛は農家にとって重要な労働力なのだ。

 畑を耕したり、運搬用に荷車を牽引したり。

 雌牛は乳牛になり、雄牛は少数が使役牛にされ、残りは大きくなると屠殺とさつされる。

 年老いた牛も処分されるが、若い牛より味が劣る。

 豚のようにほぼ食肉のために育てられる家畜とは違うのだ。

 出来るだけ美味しい牛肉がいい。


 ダンジョンには猪も鹿も兎も鳥も居ない。

 必要な分を必要なだけ持っていくしかない。

 ダンジョン内でモンスターを料理するという話とは、また別世界なのだろう。


 牛肉、豚肉、鶏肉、それぞれ色々な部位合わせて20kg位だろうか。

 ハム、ベーコン、ソーセージ、生ハム少々。

 牛骨、豚骨、鶏ガラ、牛テールも少々。

 そんなところでしょう。


 さて、これで午前の部は終了だな。

 適当にフランとルリの分の昼食も買って、宿に帰還した。


「南に行ってこようと思う」

 フランのポーション作りの作業の手を止めて、昼食中に言った言葉がこれだった。

「南って、どこまでですか?」

「海までだ。海産物を手に入れたい」

「わ、私も行ってもいいですか?」

 フランが前のめりになって言ってくる。

「あ、ああ構わないが」

「海って見た事が無くって……」

 この世界に旅行という考えは、まだほとんど無い。

 一部貴族が王都と領地を行ったり来たりしたり、避暑と言って涼しい所に行ったりすることはあっても、一般の人は生まれた所から移動しない。

 例外は行商人と冒険者だけだろう。

「ルリはどうする?」

「私も行きます」

「無理はしなくていいからな」

 ルリは頷くことで返答した。


 昼食が終わり次第の出発となった。

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