第90話 王都での一日3

 まず予定通りに部屋に残されていたゲートで移動する。

 俺が入って安全確認。

 次いで消えてしまった宿へのゲートを再び開く。

 フラン、ルリがやって来るのを待つ間に周りを見回す。

 ……やっちまった……

 どうやら木を切り倒す係のスケルトンに、良過ぎる斧を渡してしまったらしい。

 太い幹を3~4スイングで切り倒しているのを見て目を疑った。


 取り敢えず、作業のストップを指示した。

 ちょっと王都から離れた林にして良かった。

 林にぽっかりと空いた広場、東京ドーム1個分。

 山と積まれた材木、薪の小山……嘘だと言ってくれ。

 明日の植林作業が決まった瞬間であった。


 材木と薪、その途中の物を倉庫に、スケさんと斧も回収した。

 薪はダンジョン期間の分は充分確保した。

 材木は家を一軒建てれる位ある。

 俺は気を晴らすように溜息を一つ吐くと、

「じゃあ行こうか」

 そう告げるのだった。



 王都から南へは街道が走っている。

 その街道は王都と、海沿いにある国の人口最大の都市、海都ギルビットを繋いでいる。

 他の街道より人通りの多い、大動脈である。

 その街道からあまり離れないように、距離短めでゲートを開いてゆく。

 おっと、ゲートから一歩踏み込んだところが崩れた。

 慌てて両手を広げた態勢で後ろに跳ぶ。

 ゲートから出てこようとしていたフランとルリを、押し戻すようにして後ろに倒れこんだ。

「あっぶねぇ、悪い悪い。足元が崩れて間一髪だった」

 押し倒す形になって尻餅を突かせた二人に詫びる。

回復ヒール』×2

「ルリ、大丈夫だったか?」

 体調の良くないルリを気遣う。

 ルリは頷いてくれる。

「そうか。同じような事が起こるかもしれん。敵から逃げる場合を除いて、俺が入って10数えてから入るようにしてくれ」


 転移門ゲートの使い方には大きく分けて二つある。

 一つは通常の移動の代わり。

 二つは緊急時、戦闘からの離脱。


 後者は安全が判っている場所に開くゲートなので、素早く駆け込む事が大切だが、前者は向こう側が判っている場合はいいのだが、今回のような場合は安全確認が大切になってくる。

 ゲートの向こうに顔を覗かせただけじゃ解らない事ってあるんだなぁ。


 折り返した事によって消えたゲートを、若干ずらして開き直して進むこと何回か。

 中間地点にある交易都市サイダルが見えてきた。

 サイダルは人口は約7万。国内第3位の人口を誇る都市である。

 何故この都市の人口が多いのか?答えは単純。

 王国第1位の海都ギルビットと、第2位の王都に挟まれた都市で交易の要衝だからである。

 先程も言ったがこの街道はこの王国の大動脈なのだ。

 この街道がモンスターや盗賊などの被害によって、とどこおると王国は死ぬのである。

 この言葉は嘘ではない。

 現に餓死者が出る事態になったことも何度かある。

 その街道を守るために中間に出来た都市が、このサイダルである。

 その成り立ちから尚武の気風が強く、冒険者や騎士団等も精強を誇る。

 年に一度、武闘会が開催される等、盛り上がるイベントも多数ある。


 この都市の外部にゲートの出口を設定だけして、今日は先を急ぐ。


 ゲートでの移動を更に繰り返すこと20数回、小高い丘の上から海都ギルビットが見えた。

 王国で一番の人口を誇るだけあってでかい。

 人口は12万。入り江状になった部分に港が作られており、入り江に接した岬には灯台が建っている。

 その灯台は100mを超えているんじゃないかと言うほどの高さがある。

「これが海?」

 横を見るとつぶやいたフランがいる。

 海に見入っていて、多分自分が呟いた事にも気付いていないかもしれない。

「そう、これが海」

 人生って数奇な物だよな。

 モンスターに村が壊滅されなかったら、フランが海を見ることは無かっただろう。

 海を見つめるその横顔は何を思うのか。

 フランもルリも決して幸せな人生を歩んできたわけじゃない。

 せめて俺と出会えたことが良い方に働くと良いのだが……


 さて、物思いに耽っていても今日やることは終わらない。

 ギルビットにもゲートの出口だけ設定して目的地を探さないと。

 ギルビットの東側を見ていくと……あった。

 ギルビットの街から離れること約3km。

 海のほとりたたずむ集落。

 木造の桟橋と繋がれた小型船。

 これぞ、ザ・漁村。


 漁村のそばにゲートの出口を設定。

 早速ゲートを開いて、

「さあ、目的地を見つけた。行くぞ」

 ゲートを潜った。


 漁村に近づくと、漁は朝に行うのだろう、酒に酔った男共がそこかしこに居る。

 と言うか潰れている。まだ午後3時位だぞ。

 男共は戦力外なので女性に話しかけてみる。

「海産物を手に入れたいんだがどうすればいい?」

「魚や貝はギルビットにおろしているから、街に行ってみればいいさ~」

 沖縄風?今日も『異世界言語』が暴れよるわ。

「この辺りの海では何が獲れる?」

 いろいろ尋ねたが、魚と貝、海老や蟹は獲れる。

 海藻や昆布、海苔はそんなの取ってどうするの?

 ウニやナマコ、ホヤは何それ状態だった。

 漁師の代表は?と聞くと、村長を紹介された。

「私が村長のザムジです。それで御用というのは?」

 俺は漁業権的な物を尋ねた。

「漁業権等と言う物はありません。ただあのやぐらから見える範囲は気を付けてください。見つかればこちらから一方的に喧嘩を仕掛けます」

 そう言って浜辺に立つ櫓を指さす。

「こちらの村では海藻や昆布、海苔等は獲っていないようですが、それに対しても喧嘩ですか?」

「この村で獲っていない物については喧嘩にならない場合もあるかもしれません。ただ保障は致しかねる」

「それでは例えば俺が獲った物についてお金を払うと言えば?」

「あなたが獲ったものが、出した物以外には無いと証明出来ればの話ですな」

 それはある意味、悪魔の証明だな。

「それでは私をあなたの船に乗せてください。あなたが獲った物をその場で選んで買います。それではどうでしょう?」

「それならよろしいでしょう。明日の朝、日の出頃に船の所に来てください」

「それとあなた方は海女漁等はやりますか?つまり、素潜りでの漁は?」

「いえ、行いません」

 う~ん、どうするか。

 船を使わないで獲れるポイントなら、スケルトンを潜らせればいいか。

 漁村から離れれば、文句も喧嘩も無く動けるか。

「解りました。また明日の朝伺います」

 村長の前を辞した。

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