第91話 王都での一日4

 漁村を出て更に東に向かって移動する。

 櫓から充分に離れたら砂浜を探す。

 およそ10km程櫓から離れた場所に入り江があり、砂が堆積してちょっとしたプライベートビーチのような感じだ。

 夏にここで泳ぐというイベントはありかも知れん。


 倉庫からスケルトンを6体取り出す。

 朝に薪を作ってくれたスケルトンとは別のユニットにする。

 別に負傷とか疲労とかは無い。なるべく均等に使うと言うだけ。

 スケルトンの権利云々にこだわるつもりは無い。

 ただ何となくのこだわりと言うだけ。それだけだ。


 鎧や武器等を全部外してしまうと、浮く事は無いだろうが水流に流されてしまうだろう。

 なのでブーツだけは履いたままもぐらせる。

 それぞれの手には中型の袋が持たされている。

 勿論、獲物を入れるための袋だ。

 機能面を考えれば網目状の袋の方がいいのだが、急ごしらえでは用意できるわけがない。


 スケルトン6体が波間に消えて見えなくなってから、俺はそっと目を閉じた。

 いつからだっただろう。意識を集中すると、スケルトンの見ている物が見えるようになったのは。

 おそらく『不死の召喚』か『不死の強化』のスキルレベルに因るのだろう。

 こういう事はサーナリアさんに尋ねないと確かな事は解らないのだが……

『もしもし、サーナリアさん?』

『……』

 これである。どうなっているのやら。


 沖の方に向かって下っていく砂浜。

 所々、岩場が散見されるようになり、岩場がどんどん多くなってゆく。

 水深が10mを超えるとワカメや昆布が目立ち始める。

 更に岩場にはアワビ、サザエ等の貝類、ウニ、伊勢海老等が見えてくる。

 まさに宝石箱や~の世界が広がっていた。

 蟹は大きな物はもっと深い所に行かないと駄目だろう。


 流石はスケルトン、息継ぎが不要だから30分程度で袋が一杯になった。

 上がってきたスケルトンから獲物を回収して、俺は多分ニヤニヤしていたに違いない。

 スケルトンを倉庫に回収して見上げると、陽が大分傾いてきていた。

 そろそろ王都に戻って、牧場に乳製品を買いに行かないと。



 俺はフランとルリと王都の宿にゲート移動すると、一人で王都の中央広場に出かけた。

 午前中の買い物で目を付けていた、乳製品の行商人を探す。

 いた。丁度店の片づけを終えようとしている。

「済みません。牧場の関係者の方ですか?」

「はい。兄と牧場をやっています」

 うん、知ってた。

 鑑定にみんな書いてあった。

 でも知ってた事を相手に気付かせてはいけない。


「ちょっと乳製品と卵を纏まった量欲しいのですが、これから牧場にお伺いしても構いませんか?」

「纏まった量とはどれ位必要なのですか?」

「そうですねぇ、牛乳120L、卵200個、バター10kg、チーズ30kg、ヨーグルト50Lと言ったところなんですが」

「確かに多いですね。解りました。案内しましょう」

 牧場所属商人さんの名前はユイヤールさんと言うらしい。


 馬車を広場に持ち込んで、撤収作業をする。俺も手伝う。

 積み込みが終わり、出発する。

「じゃあ俺は街の外で待ってます」

 一度門から外に出てしまうと、街に戻る時に入街税が掛ってしまう。

 なので、ゲートを使って街の外に出ることにする。

 帰りはゲートで宿の部屋に戻ることになるのだが、怪しい記録、記憶は残さない方がいい。


 街の外で待って、やって来たユイヤールさんに馭者席の隣に乗せてもらう。

「ユウキさんは何をしてる人ですか?」

 世間話が始まる。正直、苦手だ。

「私は冒険者パーティ、世界樹の若枝のリーダーをしています」

「え?そうなんですか?私はてっきり食堂か宿屋の料理人かと思ってました。普通の人は、そんな量の牛乳は買いませんよ」

 どうも諭されているようだ。『そんなに買っても腐っちゃいますよ?』と。

「実は私は寒いのが苦手でして、冬の間エメロンのダンジョンにでも籠ろうと思いまして。籠る準備として食料を集めているんです」

「そ、そうですか」

 なんだその、物が腐るの知らないのかな的な顔は?

「牛乳を腐らせるんじゃないか?とか心配してます?」

「あっ、いやっ、そのっ……」

 マジだったんか~い!!

「詳しくは言えませんが、長期間腐らせないで済む方法があるんですよ」

「えっ?!そんな方法があるんですか?一体どんな?」

「いえ、だからですね。言えないんですよ」

「あっ、そうなんですか……」

 微妙な空気になってしまった。


「そういえばユイヤールさんは、一般魔法使えないんですか?」

「使えないですよ~、そんなの」

「そうなんですね。使えるようになるなら、いくら出します?」

 丁度いいからリサーチする。

「牧場で働くのなら『冷却クール』なんて便利ですし、『浄化クレンズ』とか『乾燥ドライ』なんかも使いどころがあるんじゃないかと思うのですが」

「そうですね、いろいろ出来そうですね」

「牛乳を冷やして保存したり、チーズを作ってる途中で出来たホエイを乾燥させて粉にしたり、余った牛乳を粉にしたりも出来る」

 何故こんな話をしているかと言うと、ユイヤールさんもうすぐ経験値がレベルアップするところにいる状態だから。

「そうですね、2万G位でしょうか。私が今無理しないで払えるのは」

「請け負いました」

 俺はユイヤールさんをパーティに入れる。

 10分か15分か。別動隊のスケルトンがダンジョンでモンスターを倒したのだろう。ユイヤールさんは無事にレベルアップした。

 相談して一般魔法4レベルを習得した。

 内訳は『浄化クレンズ』、『冷却クール』、『乾燥ドライ』、『発光ライト』。

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