第62話 すれ違えない二人2
『サーナリアさん、俺は元の世界に帰る事が出来るのだろうか?』
……
返事はしばらく待ったが返っては来なかった。
それが答えのように感じた。
いつか帰ることが出来るかもしれない。そう考えていた。
帰ることがいつも頭のどこかにしこりの様にあった。
それが行動に制約を掛けていたように思える。
いつか俺が居なくなっても構わないようにと……
今回のこれはその制約を超える行為だ。
その意味を自分の中で理解しようとフランの顔を見つめた。
頬に掛かった髪の毛を掃う。
この世界で生きるのも悪くない。何故かそう思った。
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2人が2人の世界に入り込んでいた頃、実はそれは2人だけの世界では無かった件。
テレーゼは不意に目が覚めた。
何が要因だったのか分らなかったのだが、目が覚めて気が付いた。
一緒のテントで寝ていたはずのフランシスがいない。
毛布はまだ温かかった。つい先ほどまでここに居た事は間違いない。
自分の愛用の剣を掴みテントの外に出る。
外は静寂に包まれており、特に問題が起こっている様には感じられない。
(花を摘みに行ったのかしら?)
スケルトンを含めた足跡が雨でぬかるんだ地面の上、茂みの中へ続いていた。
いつもならそこで終わったはずの好奇心。
何故か確実な答えが欲しくなった。
地面に残された足跡を辿ると少し先に灯りが見える。
灯りに近づいて木の陰から光の下を窺うと……見ちゃいけない物が見えた。
人間とは度し難い生き物だ。
理性ではいけないと分かっていても、どうしても止めることが出来なかったりする。
大なり小なりそういう所がある。
禁止されるとやってみたくなるとかいうアレである。
狂言の『
50歳を超えるダチョウ倶〇部でも止められない物を18歳のテレーゼが止められないからと言って責めることが誰にできるだろうか?いや出来まい。ちょっと意味合いが違う気もするが……押すなよ~っ……
テレーゼはその場を離れようとしたが、腰を抜かして動けなくなってしまい、見たくも無い……とは言えないが、見るつもりは無かった物を見続けることとなり、動けるように回復するのを待ってテントへ戻る事となった。
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フランは気を失ってしばらく経ってから再起動を果たした。
近くに人の気配を感じて目を向けるとある意味加害者のユウキだった。
毛布にくるまれた自分を確認したフランは毛布を胸元から離さないように上半身を起こそうとしたが、果たせず途方に暮れた。
服装を直すためにユウキの手を借りなくてはいけなかったのは恥ずかしかったが、いつまでもここで寝ている訳にもいかなかったから我慢した。
ユウキに肩を借りてテントに戻ると這って自分の寝床に戻った。
「ふうっ」
思ったより大きなため息が出た。
フランはユウキの様子からユウキがDTである事を見抜いていた。
手玉に取れると思っていたのである。
フランにとっての誤算はユウキのチートっぷりを知らなかった事である。
先程までDTだった男がすぐ後に人の限界を超えたテクニシャンになる事は普通無い。
チートの結果、手玉に取る筈だったユウキに翻弄されて溺れたのである。
ユウキにだって誤算はあった。
その為にこの後苦痛を味わう事になるのだが、これはのちの話と言ってもそう後の事でもない。
そしてフランにとっての最大の誤算は、先程の溜め息を自分以外に驚いて聞いた者がすぐ傍に居る事に気付かなかった事だろう。
テレーゼは息をひそめていた。
別に腹に一物とかがあった訳ではない。
ただ見ていた事を知られたくなかっただけだが。
フランが静かな寝息を立て始めた頃、テレーゼは張りつめていた自分を解放して一息ついた。
どうしてあの時藪の中に入ってしまったんだろう?考えても答えは無かった。
後悔しかなかった。
今日の事は絶対に秘密にしよう。そう心に誓うテレーゼだった。
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自分のテントに戻ったユウキは気が付いた。
「レベルが2上がってる」
ユウキは自分が今、渋い顔をしていることを悟った。
DT馬鹿にすんな。はぐれメ○ル並みとか酷すぎる。
この世界の理不尽に唾を吐いた。
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