第63話 不審人物、その名は……

「サーナ!」

 扉を出た所を呼び止められた。

 振り向いたところに居たのは声の主、ターレだ。


「今まで詰めていたの?さっきのマッパ君はどう?」

 矢継ぎ早の質問に戸惑っていると、頭を抱え込まれるように腕を廻してきた。

「わわっ、ちょっと~っ、もうっ。ユウキさんなら17レベルになったわよ」

「へ~っ、『獲得経験値増大』を取ったって聞いたけど頑張ってるわね」

 何かターレがいつになく楽しそう。

「ターレ?珍しいわね。あなたが他の人の担当に興味を示すなんて」

「そう?まあ、サーナの初めてだし?無関心ではいられないわね~」

 ターレったら、なんて言い方をするのよ!


 ちょっとターレに文句でも言わなきゃと思ったら横やりが入った。

 ターレの元彼、ターレの上司でもある。

「タレスティ君、ちょっと」

 ターレとは男女の関係は切れてたはずだから仕事上の話だろう。

「じゃあ私はこれで」

 私は加減速室の扉の前から離れて更衣室へ向かおうとした。

 今日の勤務は終了して帰宅の途に就くところだったのだ。

「あ~、後で連絡する。飲みに行こう」

 ターレはそう言うと上司と行ってしまった。


 昨日のカレーは冷凍庫に入れなきゃ。

 今日の晩御飯にて消化する予定だったカレーが保存食に格上げが決まった。


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 サーナから離れて上司と廊下を歩く。

「例の件は順調か?」

 今思えばあの時どうしてこの男と寝てみようと思ったんだろう?

 もう何の感慨も湧かない。


「標的の関係者と接触。親権者の承諾は取れました。タイミングを計って呼び寄せます。計画では2日後を予定しています」

「そうか順調だな」

 上司は安心したように頷くと付け加えて言った。

「君は仕事はできるが報告が無くて困る。もう少し報告の頻度をだな……」

 ターレは上司の言葉を聞き流した。いつもの話だ。

 大体仕事の進捗は日報を読めば書いてあるのに。

 そんなに私と話をしたいのか?話をしてる姿を誰かに見てほしいのか?

 最早この男との会話に意味を見出せなくなった。

「……(小さい男)」


 私はこれ以上この話を長引かせるつもりは無いとばかりに上司の愚痴を断ち切った。

 本当に愚痴だったかは知らないが……

「それでこの件はサーナリアには……」

「分かっている。課員には箝口令を敷いた」

 あの坊やがどんな男になるのか楽しみだわ。

 私はひっそりとほくそ笑んだ。


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 問題の一夜が明けて朝、明らかにおかしい人物がいた。

 それも3人も。

 誰なのか?言うまでもないだろう。

 俺とフランとテレーゼだ。

 俺は指摘されるまで俺がおかしいとは気付いてはいなかったんだが。

 どうも昨日までよりポジティブというか積極的に動いているらしい。

 この世界で生きる決意をしたことが影響しているのだろうか?


 フランは今日はちょっと気だるそうだった。

 時々溜息をついている様子をみせていた。

 疲労させちゃったのかな?テヘペロ。


 テレーゼが一番酷かった。

 明らかな疲労が溜まっているのか目の下に大きな隈がある。

 まるで一睡もできなかったみたいだった。

 それに俺を明らかに避けてる。


 俺がタチアナさんに聞いた話では一日馬車の中がカオスだったらしい。

 ウトウトしていたり溜息ついていたり。

 2人とも原因ははっきり言わないし……

 まあ行程だけは予定通りこなせたので然程の問題にはならなかったけど。


 問題は別方向からやってきた。

 偵察に出ていた部隊がゴブリンの拠点を見付けてきた。

 これはもうすぐ溢れそうな感じがあったので注意が必要だった。

 今回の仕事が終わったらゴブリンの殲滅の依頼が出ているかもしれないので、一度冒険者ギルドを覗いてみた方が良いだろう。

 これについては街道脇に転移門の出口を設定した。

 使わないといけない非常事態が起きないように祈っておいたが。


 それと俺にはやらないといけない事があった。

 昨夜、スキルポイントを『性交渉』スキルに焦って大量のポイントを振ってしまったのでスキルを見直した。

 他にも使い道に乏しいスキルのポイントを削減するために『スキルリセット』を行おうと考えていた。

 しかし色々な問題があることにも気付いてしまった。


1、一時的に弱くなる。

 これは小さい問題か?でも隙は作りたくないな。

 スキルをリセットするとチートで得たポイント分がリセットされる。

 例えば『アンデッド召喚』は39レベルなんだが、通常入手できるポイントで19レベル、チートポイントで20レベル振ってある。

 一時的とはいえスケルトンを39体から19体に減らさないといけない。

 一旦倉庫に20体収納する必要がある。

 また激痛で自分自身も暫く戦力外になるかも知れない。


2、転移門問題

 現在、転移門の出口に設定してあるのは4ヶ所。

 テサーラの街の外、グリンウェルの街の外、ノーラタンの街の外、で今日追加したゴブリンの拠点そばの街道脇。

 リセットしてしまうと当然出口の設定もリセットされる。

 理由は簡単。現在転移門のスキルにはチートのポイントしか振っていないから。

 4ヶ所の出口の設定を残すのなら、通常のポイントで4レベルまでスキルポイントを置き換えないといけない。


 う~ん、どう考えても『いつやるか?今でしょ』じゃ無いよな。

 次の街に着いたら転移門のスキルポイントを入れ替えてリセットするのが良いな。

 ちょうどレベルアップしたばかりだからタイミングいいな。

 はぐ〇タ様様だな。


 この日はこのまま眠りに付いた。

 明日はみんなが普通に戻っているといいな。

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